「星の講演会」の記録

第100回 地球環境の変遷と生命の進化 ―地球史から探る宇宙における第二の地球―

地球の環境は、地球史を通じて大きく変遷してきました。生命が絶滅するような大変動も繰り返し起こりました。一方で、生命の活動は地球環境を大きく変えてきました。地球環境と生命は深い関係で結ばれているのです。そしてこのことは、宇宙に第二の地球を探るヒントを与えてくれる可能性がある、という話題を紹介いただきました。

概要
日時
平成30年12月15日(土曜日)19:00-20:30
講師
田近 英一(たぢか えいいち)氏
東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 教授
講演プログラム(当日配布したレジュメより)
1 太陽進化と地球環境の進化
  • 地球環境と太陽進化の関係
  • 地球環境が安定な仕組み
2 全球凍結イベント
  • 地球はかつて完全に凍結していた
  • 地球はもとの温暖な状態に復活した
3 全球凍結と酸素
  • 酸素濃度は段階的に上昇
  • 全球凍結イベントが鍵を握る
4 ハビタブル(生命生存可能)惑星の条件
  • 液体の水の存在が重要
  • ハビタブルゾーンとは
5 ハビタブル惑星の進化と多様性
  • 主星進化と惑星進化の競合
  • 「水惑星」の多様性
  • 第二の地球の条件とは
質疑応答
聴講者からの質問と講師回答

【地球史関連】

今日のお話の中で、全球凍結が起こる条件は、1.ハビタブルゾーンの外側にある、2.惑星の年齢が古い、とされていましたが、地球が大昔に全球凍結したことと矛盾しないのでしょうか?
(Sさん・男性・28歳)

全球凍結が起こる条件としては「大気へのCO2の供給が少ない」(CO2の脱ガス率が低すぎる)というものもあります。これは火成活動が一時的に低下しても起こります。地球史で生じた全球凍結イベントの原因は必ずしも明らかではありませんが、火成活動の低下のような地球自身の変化によって生じたものと考えられています。

全球凍結が1回でなく3回ほどあったとのことですが、その度に酸素もリセットされていたのでしょうか(酸素があると二酸化炭素も生まれる…?)?
(Nさん・女性・22歳)

全球凍結下では酸素は生産されませんが消費もされません。したがって、酸素濃度は基本的には変化しなかったものと考えられます。

ウォーカーフィードバックは高温の方がサイクルがよく回るということですが、高温だとCO2(二酸化炭素)は水に溶けにくくて炭酸水となりにくく、炭酸カルシウムなどとして水中にとらわれにくくなってしまい、サイクルがまわらないのではないでしょうか?
(Tさん・女性・?歳)

水への溶解度がゼロにならない限りは、ウォーカーフィードバックは原理的には機能しますので、実際には懸念するようなことは生じません。しかし、素過程にはさまざまな依存性があることは確かで、それを正しく評価することはとても大事です。その意味で、大変鋭い指摘だと思います。

ウォーカーさんは何故このフィードバックに気付けたのでしょうか?
(Tさん・男性・22歳)

地球の気候を支配している二酸化炭素の濃度が何によって規定されているかを調べているうちに、温度依存性が二酸化炭素濃度の調節機構の役割を果たしすことに気がついたのだと思われます。ただし、もともと、地球の気候(=二酸化炭素濃度)にはそのような安定化機構が存在するはずだという見方を持っていたからこそ気づけたのだと思います。

大気中の酸素濃度と大型恐竜の誕生にはなにか関係はありますか?
(Tさん・男性・59歳)

恐竜は低酸素環境へ適応して特殊な呼吸器官(気嚢システム)を発達させたらしいことが知られています。ただ、恐竜の大型化の原因は、当時の温暖環境では食料が豊富だったことや特殊な骨格の発達など、むしろ酸素濃度とは別の理由が考えられているようです。

現在の惑星形成論では惑星衝突、惑星移動、オールトの雲などあります。つまり、地球にこれらの名残りの小惑星や彗星の地球への衝突を加えると、地球史はどうなるのでしょうか?例えば、スノーボールアースの状態のときに小惑星または彗星が衝突するとしたら…。
(Yさん・男性・50代歳)

地球史においては、実際、無数の小天体衝突イベントが生じてきたと考えられています。恐竜の絶滅に限らず、大衝突は地球環境に大なり小なり影響を及ぼしてきたことも間違いありません。ただし、衝突は確率現象ですので、いつどのような小天体が衝突するかはわかりません。確率的には低いと思われますが、またま全球凍結中に大衝突が起これば、氷がすべて溶けてしまうようなことも生じるかもしれません。

火山の脱ガス率の高さにはどういった条件があるのでしょうか?
(Tさん・男性・22歳)

地球全体の火山活動そのものが活発である必要があり、プレート運動やマントル内部のプルーム活動が活発であることが直接の条件になりますが、そのためには地球内部が十分に熱いことが基本的な条件といえます。

地球での火成活動はこれまでだいたい一定だったのでしょうか(だんだん活動が弱まるとおっしゃっていたと思いますが)?
(Aさん・女性・?歳)

一般的には、火成活動は時代とともに低下していくと考えられていますが、一定の割合で低下するのではなく、増減を繰り返しながら低下していきます。増減はプレート運動や超大陸の形成と分裂に関係しています。遠い将来には地球内部の冷却が進み、いずれ火成活動は終焉を迎えることになります。

【ハビタブル惑星関連】

太陽系外惑星の場合、中心星が暗い星でハビタブルゾーンが内側の方だと、惑星にとってどのような不都合があるのでしょうか?
(Nさん・男性・59歳)

中心星が暗い星というのは、いわゆる赤色矮星(またはM型星)と呼ばれる質量が軽い星のことです。暗いのでハビタブルゾーンは中心星に近いところに位置します。M型星はフレア活動が活発で、強力なX線が放射されているため、中心星に近い惑星上の生命にとってはあまり好ましい条件とはいえません。また中心星に近いため、潮汐力(重力的な影響)によって惑星の自転周期が遅くなっていき、ついには自転周期と公転周期が同じになってしまいます。すると、地球と月の関係と同様、惑星は常に同じ面を中心星に向けることになり、昼と夜が固定されることになります。すると、中心星の直下点は高温だがそれ以外は凍結してしまうなど、惑星環境に大きなコントラストを生み、生命が生存可能な領域は限られる可能性があります。そうした問題が議論されていますが、不都合かどうかよりは、地球とはかなり違う条件となる、というふうに理解するのがよいと思います。

水と大陸の比率は、どのくらいが生命にとって理想的(必要)なのでしょうか?
(Nさん・?性・?歳)

必ずしも理想的な条件はわかっていません。ただし,海と陸の両方が同時に存在することが重要であり、一方が著しく小さくない限りは、ハビタブルな条件は成立するものと思われます。

全球凍結イベントを経ても、生命が生き残れるのであれば、ハビタブルのスペースは増えるのではないでしょうか?
(Tさん・男性・22歳)

木星や土星の衛星にも水の存在の可能性が言われていますが、太陽系外惑星の衛星にもそのような天体があると思われます。ハビタブルゾーン以外にも生命発生の可能性を考えると、生命発生の可能性は意外に多いと思われませんでしょうか?
(Nさん・男性・68歳)

はい、もし全球凍結惑星(衛星)の内部海がハビタブルな条件であれば、ハビタブルゾーンは大幅に拡大し、生命の存在可能領域も同様に大幅に拡大されることになります。

地球の生命は宇宙からもたらされたという説がありますが、先生はどうお考えでしょうか?
(Nさん・男性・68歳)

生命の材料物質や前駆物質が宇宙からももたらされたことは確実です。しかし、生命そのものが宇宙からもたらされたかどうかについては、可能性は否定できないものの、よくわかりません。それよりも、宇宙には生命の材料物質であふれており、ある星の周囲のハビタブルゾーンに惑星が形成され、その惑星が一定の条件を満たしている場合には、ある確率で生命が誕生する、というのが最も自然な考え方ではないかという気が個人的にはしています。

地球以外で大気中に酸素が存在する星は、生命が生存可能な濃度では全く発見されていないのでしょうか?
(Oさん・男性・50歳)

残念ながらそのような観測例はまだありません。しかし、近い将来発見される可能性は十分にあるものと期待しています。

【地球温暖化問題】

私たちが悪影響を及ぼしていそうなCO2の大量排出は、どれくらい地球の循環に影響するものでしょうか?もし人間が影響を与えることができたら、一定期間(もしくは次の氷河期が来ないように)コントロールできますか?
(Uさん・女性・?歳)

現在、地球温暖化が騒がれていまうが、実際人間の活動はそれほどまでに影響があるのでしょうか?
(Nさん・女性・22歳)

地球に人間活動が果たす役割は?
(Kさん・男性・65歳)

現在、人間活動によって生じている地球温暖化は、地球史的な時間スケールでみればそれほど大きな変化ではないものと考えられます。百万年以上の時間スケールでみると、ごく短期間に生じて元の状態に戻るスパイク状の"イベント"というべき現象です。しかしそれでも、このまま二酸化炭素の大量放出が続けば、結果的に、次の氷期が訪れなくなるという可能性も議論されています。地球史的にみても、そのようなクリティカルな影響がありえるということです。

先生のように地球環境を億単位でダイナミックにとらえていらっしゃる場合、現在のCO2の排出制限の世界的議論をどのように感じていらっしゃるのでしょうか?
(Nさん・女性・60歳)

地球が遠い将来暴走温暖になると分かっているなら、地球温暖化を食い止める必要はありますか?
(Aさん・女性・28歳)

地球温暖化問題は、極端な言い方をすれば、地球の問題というよりは人間社会にとっての問題です。地球は、もっと大規模で長期にわたる温暖化を繰り返し経験してきました。それと比較すれば、現代の地球温暖化の規模は大きいとはいえません。しかし、人間の一生と比較しうる短期的な時間スケールでみれば、地球環境は確実に変化し、それによって人間の社会は大きな負の影響を受けると予測されています。地球環境が暴走するのは数億年以上先の話です。人類が存在しているかどうかすらわかりません。それに対し、地球温暖化問題は目の前の問題です。私たち自身や私たちの子供・孫世代に、直接、悪い影響が及びます。だからこそ、いますぐに国際的な議論によってCO2排出制限などの取り決めを実行し、温暖化を食い止める必要があります。

最近の温暖化問題について、何か画期的な解決策はありますか?海面に蓋をする案があったと聞いたことがあります。
(Nさん・男性・35歳)

残念ながらそのような画期的な解決策はありません。地中や海中に二酸化炭素を閉じ込める手法などが検討されていますが、問題も多いとされています。人工光合成のような技術も研究されていますが、まだ実用化には遠いようです。現時点では、二酸化炭素排出量を大幅に減らす努力をするしかないように思われます。

【人類の運命】

人類の最後はどういった要因、状況だと思いますか?
(Nさん・男性・40歳)

全球凍結や完全な陸化を地球が遂げた場合、人類はどのような進化を遂げれば適応することが可能になると思われますか?
(Kさん・女性・25歳)

地球に人が生存できる期限はあと何年くらいですか?その時は何が起こると思われますか?
(Mさん・女性・?歳)

人類が今後どうなっていくのかについてはさまざまな可能性が考えられます。地球のハビタビリティという意味では、少なくともまだ数億年は人類が居住できる環境であり続けると思います。もちろん、その前に生物学的な「種」としての寿命があると思いますが。太陽や地球の進化や地球環境の変化とともにこれから人類がどうなっていくのか、どう進化していくのか、といった長期的な問題は考察すべき課題ですが、まだよく分かりません。しかし、現実問題としては、それよりもずっと以前に、核兵器や生物・化学兵器を使った戦争やテロ、致死性の病原菌によるパンデミックなど、文明の崩壊や人類の絶滅がもたらされるような脅威やリスクをどうやって回避できるかが、人類の存続にとって最も重要な問題かも知れません。

【その他】

生命は炭素やリン等を用意したとして、シャーレの中では作れないと思います。繰り返し濃度を変えたり温度を変えたりすると生命体はつくれますか?
(Uさん・女性・?歳)

アミノ酸のような生命の材料物質の合成には、すでに1950年代には成功しています。しかし、生命をつくることにはまだ成功していません。アミノ酸からタンパク質を作ることもそれほど簡単ではなく、蒸発・乾固の繰り返しや粘土鉱物の存在が重要な役割を果たした可能性はわかっていますが、その先はまったくわかっていません。生命の起源の解明には、大きなブレークスルーを必要としています。

シアノバクテリアの発生により酸素が出来たと思いますが、それまので嫌気的環境が大激変したと考えられます。この奇跡的な出来事に関するレクチャーを少しお願いいたします。
(Tさん・男性・55歳)

無酸素環境で誕生した生命にとって、酸素は猛毒です。しかし生命は酸素を発生させる代謝機能を獲得し、地球環境を変えてしまいました。ただ、それで生命が生存できなければもとの嫌気的環境に戻るだけですが、生命は酸素の存在する好気的な環境へ適応進化が生じたことが重要で、それによって生命は効率的にエネルギーを生産し、多細胞化への進化も可能となったといえます。このような出来事が偶然なのか必然なのか、生命が存在する惑星ならば必然的に生じ得る出来事なのかはよくわかりません。しかし、もしそこに必然性があるのなら、宇宙では多くの惑星に(原始的な微生物ではなく)複雑な生命が存在している可能性が期待できます。地球上でそのような出来事が生じたことが奇跡なのか必然なのかを理解することは、宇宙における生命の存在を理解する上で重要な問題だと考えます。

※講演内容外の質問にも、回答をいただきましたので以下掲載いたします

講演外の話になるのですが、「海がなければ陸はできない」というお話についてとても気になります。
(Nさん・女性・?歳)

大陸は「花崗岩」と呼ばれる軽い岩石から構成されています。一方、どこの天体でも生じている火成活動では、惑星内部のマントル物質が融けてマグマが噴出しますが、それが冷えて固まってできるのは岩石は「玄武岩」です。通常の火成活動だけでは玄武岩しかつくれないため、花崗岩は地球でしか見つかっていません。なぜ花崗岩は地球にしかないのでしょうか。それは、地球では玄武岩質の海洋地殻をのせた海洋プレートがマントルに沈み込む際に海水を持ち込むため、玄武岩が融けやすくなり、再び熔融してできたマグマが冷えて固まったものが花崗岩なのです。つまり、花崗岩をつくるためには水が必要です。この水は,海が存在していることによるものです。すなわち、地球に大陸が存在するのは、地球に海が存在するからだと考えることができます。

星の寿命についてさらに詳しく知りたい。
(Jさん・女性・35歳)

星(=主系列星)の寿命は質量で決まります。星は核融合反応によってエネルギーを発生して輝いていますが、軽い星ほど核融合反応はゆっくり進むために寿命は長くなり、重い星ほど核融合反応が急速に進行して寿命は短くなります。太陽の場合、その寿命は100億年程度だと推定されています。

リュウグウのサンプルリターンで、どのような事が期待できますか。
(Dさん・男性・60歳)

もしもリュウグウからのリターンサンプルに氷や有機物が発見され、その詳細を明らかにすることができれば、太陽系初期の始源的な天体で生命の前駆物質や材料物質がどのように生成されていたのかがわかり、それが地球や惑星に降っていたとすることで、地球や宇宙における生命の起源を理解する上で大変重要な鍵となります。