「星の講演会」の記録

第93回 星の地図と動きから挑む宇宙の謎解き ―位置天文観測衛星の最前線―

天文学の発展により宇宙の新しい姿が見えてきましたが、天の川銀河などの銀河や巨大ブラックホールがどのようにしてできたのか、暗黒物質などの未知な物質の正体は何か、など宇宙はまだ謎だらけです。実は、その謎の答えが、夜空の星々の位置とその動きに隠されていることがあります。そこで、星の位置を測定する位置天文観測衛星の最前線と位置天文観測が挑む宇宙の謎解きについてご紹介いただきました。

概要
日時
平成29年10月28日(土曜日)19:00-20:30
講師
郷田 直輝(ごうだ なおてる)氏
国立天文台JASMINE検討室教授(研究連携主幹・室長)
講演プログラム(当日配布したレジュメより)
1 最新の宇宙の姿
  • 宇宙には何があるの?
  • どれぐらい広いの?
  • 宇宙にはどんな物があるの?
  • 宇宙のはじまりは?
  • 宇宙は、まだまだ分からないことだらけ
     ・巨大ブラックホールの謎
2 星の地図と運動に隠された謎とは?
  • 地図から思わぬ発見が!
  • 星の地図と運動にも隠された謎が!
  • 星はなぜ動くのか?
  • 星の地図と運動からなにがわかるのか?
3 位置天文学とジャスミン(JASMINE)計画
  • 位置天文学とは?
  • 人工衛星による位置天文観測
  • ガイア(Gaia)衛星
  • ジャスミン(JASMINE)計画シリーズ
4 おわりに
  • 質疑応答
聴講者からの質問と講師回答

基本的なことですが、衛星は宙をとびながらどうしてそんなに精度の高い観測ができるのですか?
(?さん・女性・32歳)

例えば、星の位置を測定するような場合、宇宙空間では地上での観測と比べて、地球大気の流れによる擾乱(星の像がゆらゆらする)を心配しなくていい点や、また地球重力の影響で観測装置が変形しない、さらには天気には左右されず観測時間を稼ぐことができる等の多くのメリットがあり、地上より精度良く測定することができます。ただ、望遠鏡の向きがガタガタ揺れるとか、さらに、太陽や地球からの光や熱が衛星にあたる方向が変わっていくことによる衛星の温度変動、それにともなう望遠鏡構造の時間変動など、こういったものがあると高精度では測定出来なくなりますので、衛星の姿勢や温度、装置の構造が安定な衛星システムや観測装置を開発することが必要となります。

同周期で昼と夜の間を飛ぶ理由はなんですか?(?さん・女性・32歳)

1つ前の質問の回答にもありますが、衛星の温度変動にともなう望遠鏡構造の時間変動を極力小さくする必要があります。昼と夜の間を飛ぶ軌道(太陽同期軌道といいます)は、地球を1周する間(約100分間)、太陽の向きがほぼ同じ方向にあるため、衛星の温度変動を比較的小さくすることができるというメリットがあり、この軌道を選んでいます。

ジャスミンが観測に赤外線を使用されているのはどうしてでしょうか?またガイア衛星は何を使用されているのでしょうか?(Kさん・女性・54歳)

ガイア衛星は、可視光と呼ばれる波長(つまり、人間の目で見える光です)で観測をしています。すると、天の川の中心など、塵が多く集まる場所では、可視光が塵によって吸収散乱されてしまい、そこの星から来る光は暗くなってしまいます。したがって、高精度で測定出来ない、もしくは、高精度で測定出来る星の数が少なくなってしまうという問題が発生します。一方、小型ジャスミンが用いる近赤外線という、可視光より赤い波長は、塵による吸収散乱の効果を受けにくいため、星の光がたくさん集まりやすく、可視光より高精度で多くの星を観測できるというメリットがあります。

今の状況ですと、ナノジャスミンより先に小型ジャスミンを打ち上げるということがありうるのではないですか?小型が先になるとどういった問題が生じますか?(Nさん・男性・58歳)

なるべくナノジャスミンの方が早く打ち上げられるように鋭意努力中ですが、小型ジャスミンの進捗によっては、小型ジャスミンが先にいく可能性はあります。ジャスミンチームとしては、ナノジャスミンのような超小型衛星での観測運用やデータ解析に関して一度経験を積んでおくということをしたかったのですが、小型ジャスミンが先にいった場合、あらかじめの経験はできませんが、小型ジャスミンにとっては他には特に問題はありません。ナノジャスミンとは独立に検討や開発を進めていますので、ナノジャスミンの成果がなければ、小型JASMINEができない、という具合にはなっていません。

小型ジャスミンはどのくらいの費用になりますか?(?さん・?性・?歳)

イプシロンロケットによる打ち上げ経費や、衛星の運用経費も含めて、すべてで約150億円です。むしろ、JAXAの方針により、イプシロンロケットに搭載する小型科学衛星はすべて、JAXAの予算としては約150億円以内で出来ることが条件です。このコストの制限の下で、いかに世界最先端の科学的成果を出すことができるのかが、ミッションが選ばれるかどうかの重要なポイントの1つになります。

打ち上げに際し、大変苦労されているようですが、ふつうこんなに苦労するのですか?ジャスミンが特に不運なんですか?(?さん・女性・32歳)

ナノジャスミンに関しては、確かに、国際紛争の影響を受けるとは予想さえしていなかったことで不運だったかもしれません。ただ、一般的に衛星計画は、打ち上げ後に修理などはできませんので、打ち上げ前に相当な実験、試験等が必要であり、どのプロジェクトも開発に苦労はしており、時間がかかるものです。

宇宙の地図の完成はいつくらいになる予定ですか?範囲に限度がある場合はその状況も教えてください。
(Mさん・男性・?歳)

宇宙の地図というのは、銀河の3次元地図という意味でよろしいでしょうか。もしその場合ですが、今後は、新しい観測装置やより大きな望遠鏡を用いた銀河のサーベイが行われていくと思いますし、地図は段々と広がっていくと思います。どの時点が完成か、というのは難しく、銀河はたくさんあるので、きりがないかもしれません。観測範囲の限度は、天の川の方向は、星がたくさんあるため、その背後にある銀河は観測しにくいことは確かです。ただ、いずれは、より大きな望遠鏡で段々と可能になっていくかと思います。

宇宙の構造で観測できない場所を調べる方法が、現時点でありますか?(Tさん・男性・54歳)

宇宙の構造で観測出来ない場所、というのは、原理的には宇宙年齢に相当する約138億光年より先の光はまだ地球には届きませんので、その構造を知るすべはありません。宇宙の年齢がさらに経過するのを待つしかないかもしれません。138億光年以内の範囲ですと、銀河が暗い場合(遠い、または小さい、塵によって隠されている)など観測は困難ですが、新しい観測装置や、より大きな望遠鏡により段々と観測はされていくと思います。

年周視差で星の距離を測定する方法や、恒星がそれぞれ動くようすは分かったのですが、星の見かけの動きは太陽の固有運動も関わってくると思いました。銀河のなかで太陽はどの方向に動いているのでしょうか?
(?さん・男性・20歳)

太陽(系)ももちろん独自の運動をもっています。おおよそ、ヘラクレス座の方向に秒速で約20kmの速度で動いていると推定されています。ただ、自分自身の運動を知るのは逆に難しく、太陽の周りの星の運動の観測データをもとに、あるモデルを仮定して、太陽の運動速度を推定しています。今後、モデルの変更や周りの星の距離と速度に関する観測データが改善されていくと太陽運動の情報が改訂されていく可能性はあります。

恒星の位置変化を観測する上で座標の設定が重要だと思いますが、どのように基準を決めているのでしょうか?(Nさん・男性・40歳)

ヒッパルコス衛星やガイア衛星、およびナノジャスミンは、全天の星の座標系は、独自の観測手法(大角度離れた2視野を同時に観測)により、基準がなくても独自に座標系を構築できます。ただ、その座標系にはまだ動かせる自由度が残っており、天球上でピン留めされていません。ピン留めをする、つまり、天球面上に座標系を固定して絶対的な座標系を構築するためには、クエーサーを用います。なぜならば、クエーサーは十分遠方にあり、天球上で"動かない"とみなせるからです。ヒッパルコスは、クエーサーは暗すぎて見えなかったので、クエーサーで固定された電波の座標系に合うように、座標系を固定しました。ガイアはクエーサーを観測できますのでクエーサーを用いて、絶対的な座標系を構築する予定です。一方、小型ジャスミンは、独自に座標系を決めることができません。そこで、ガイアと小型ジャスミンで共通に観測されている星に対して、ガイアで測定されたデータを用いて、座標系を固定する予定です。

観測角度の精度の性能を左右するのはどのような技術的なポイントがあるのでしょうか?
(Nさん・男性・40歳)

最初の質問への回答にも記載しましたが、望遠鏡の指向安定性、衛星の温度安定性、望遠鏡構造の時間安定性などです。

星の移動を遡ったときの最終的な位置がビックバンの位置なのでしょうか?(Nさん・男性・40歳)

ビッグバンは、空間の1点で起こったのではなく、至る所で起こったのです。みなさんがいる空間でも起こっていたのです。宇宙空間には中心はありません。空間が無限の場合は、最初から無限であり、ビッグバンはその無限の空間の至るところで起こりました。空間が有限だとしても、例えば、地球表面上で中心がないように(どこかの国が地球表面の中心、ということはありませんよね。どこの地表も平等です)、ビッグバンはやはりどこでも起こったのです。

ブラックホールの中に何かおちこむと、その分ブラックホールは重くなりますか?(ブラックホールの大きさというのはどういうことですか?)(Kさん・女性・22歳)

はい、ブラックホールは重くなります。ブラックホールの大きさは、シュヴァルツシルト半径と呼ばれているもので、その中からは光さえも出てこられないという境界の場所です。

ダークエネルギーはエネルギーなのに質量があるのですか?(Kさん・女性・22歳)

はい、アインシュタインの相対論によると、エネルギーと質量は等価なのです。

ワームホールが観測でわかるかもというしくみを先生のわかりやすい解説で聞きたいです。
(Aさん・女性・?歳)

ありがとうございます。詳しくはいつか機会がありましたら御願いします。ここでは簡単にご説明すると講演でもすこしだけご説明した重力レンズ効果を使います。ある星の手前を例えばブラックホールやコンパクトな通常の天体が通過していくと、その背景にある星の光がいったん増光して、そして減少してもとの明るさに戻ります。また同時に、背景の星の位置が変動し、楕円運動を描くことが分かっています。ところが、ワームホールが通過すると、背景の星の明るさや位置は、ブラックホールや通常の天体の場合とは異なった、独特な時間変動を示すため、ブラックホールや通常の天体ではなくて、ワームホールが通過したことが判明できる仕組みになっています。