「星の講演会」の記録

第98回 最新の観測研究で探る宇宙の果て ―宇宙138億年の歴史の解明を目指して―

人類はどこまで遠くの天体まで迫れるのでしょうか?この講演では、すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡、アルマ望遠鏡を使った最新の観測が明らかにしつつある遥か彼方の宇宙について紹介しました。そして、これらの観測が明らかにしつつある宇宙138億年の歴史についてみなさんと一緒に考えました。

概要
日時
平成30年9月15日(土曜日)19:00-20:30
講師
大内 正己(おおうち まさみ)氏
東京大学 宇宙線研究所 宇宙基礎物理学研究部門 観測的宇宙論グループ 准教授
講演プログラム(当日配布したレジュメより)
1 はじめに
2 人類が知る宇宙の姿
3 宇宙の果てを目指して
質疑応答
4 宇宙の過去、現在、未来
5 残された課題
質疑応答
聴講者からの質問と講師回答

※講演時間の関係上、講演内で回答できなかった質問への応答です。

電磁波での観測の限界がCMBだと思いますが、光でない観測、重力波望遠鏡によってCMBの限界を超えて観測ができますか?
(Aさん・女性・?歳)

はい。インフレーションの時に作られたと考えられる原始重力波をとらえれば、宇宙誕生直後(10^-36~10^-32秒後くらい)の様子が分かる可能性があります。また、初期宇宙で陽子や中性子が作られた頃に出されたニュートリノだと、宇宙誕生後1秒くらいの様子が分かる可能性があります。重力波、ニュートリノいずれも、現在の観測装置(さらには現在建設中の装置)では、感度が桁で足りないため、観測できる目処はたっていません。小学館の図鑑NEO宇宙新版のp.134-135とp.157をご覧ください。*1)

宇宙の歴史を研究する先生にとっては、一般人にはちょっとさびしいディープフィールドしか面白くないですか?
(Aさん・女性・?歳)

質問の意味を正しく理解できないのですが、ディープフィールドは明るくて華やかな天体(例えばオリオン大星雲やアンドロメダ銀河など)がなくて、寂しく見えてしまう、ということでしょうか?ディープフィールドに写る天体は、仰る通り、ほとんど点にしか見えませんが、実際は急激に成長する銀河で、数千光年の大きさがあります。この銀河の中では、非常に激しく星が生まれ、死にゆく姿があります。それが、ほとんど点のように見えてしまうので、様々な技術とアイディアを駆使して、本当はどのような姿なのか探っています。簡単に見えてしまわないところも謎めいていて楽しいかと思います。また、将来的にTMT望遠鏡などが出来た場合は、ほとんど点にしか見えなかった天体が手にとるように形が分かるようになると期待されているので、TMT望遠鏡の完成が楽しみです。

ビックバンから38万年後にCMBが起こったとのことですが、当時の宇宙の大きさは現在よりかなり小さく、したがって超高密度、圧力、重力だったはずであり、そうすれば時間の進み方は今より遅かったと思います。「38万年後」という時間は現在の時間の進み方で計ったものか、"「38万年後」の時の時間の進み方"で計ったものでしょうか?もし後者であれば、現在の時間の進み方で計ったらどうなるのでしょうか?ビックバン後もっと前の10の何十乗秒前といったようなずっと前の超超高密度時の時間の進み方は?
(Nさん・男性・68歳)

おそらく相対性理論における異なる2つの系(異なる重力および速度)における時間の進み方が違うということを考えられているのではないかと思います。宇宙の年齢を示すのに使われている時間は1つで、各時代の宇宙平均に対する時間になっています。

遠方の宇宙を観測されていらっしゃる中で我々人類は孤独だと感じられますか?それともこれだけの恒星が存在するのであればどこかの惑星には知的生命体が存在すると思われますか?天文学の専門家は研究されている中で、どう感じるのか知りたいです。
(Eさん・女性・?歳)

知的生命体は未だ見つかっておらず、証拠も見つかっていません。ですので、知的生命体がいるかどうかはまだ分かりません。一方で、天の川銀河には2000億個の恒星があって、その多くに惑星系があることが知られています。さらに宇宙には、天の川銀河のような銀河が1000億個以上あると推測されています。これだけとてつもない数の恒星があれば、確率的に考えて生命を宿す惑星があってもおかしくないと思います。その意味では、孤独感はありません。 一方で、孤独だと感じる部分もあります。それは、太陽系に一番近い恒星/惑星系まででさえ、現在の人類がもつロケットでは何万年かけても到達でないことです。宇宙のスケールが大きく、どこかに隣人がいるのかもしれませんが、私たちの技術では行くことはおろか、連絡を取ることも難しいです。その意味で孤独だと感じます。

宇宙の始まりでブラックホールよりはるかに大きい質量が集中していたのに、空間だけではなく、物質が広がることができたのですか?
(T.Yさん・男性・53歳)

宇宙誕生というのは、とてつもないエネルギーが解放されて、空間と時間、物質、宇宙を支配する4つの力が作られた出来事だと考えられています。そのエネルギーの中でもインフレーションを起こした原因と考えられるエネルギーの解放は膨大で、宇宙空間を極めて大きく押し広げたと考えられています。しかしながら、これらについては、観測的証拠がないので、あくまで推測にすぎません。

速度は絶対的なものですか?相対的なものですか?光速を超えられない事から絶対的なもののように感じますが私の感覚では対象物がないと速度は測れない気がします。
(T.Yさん・男性・53歳)

宇宙の速度の基準は、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)になります。CMBに対して、動いているものは、進行方向のCMBは(光のドップラー効果により、光の波長が縮んで)青方偏移して見えます。(一方で、進行方向と逆方向のCMBは赤方偏移して見えます)。みなさんがよく目にするCMBの画像は、この青方偏移と赤方偏移の影響を解析によって取り除いたものになっています。

銀河の中心と周辺の速度が同じことからダークマターが想定されたと聞いていますが、それなら通常の物質が多くあるだけで中心に向かって落ちていくように思えるのですがダークマター自体は他への影響を与えても自らは重力の影響を受けないのですか?
(T.Yさん・男性・53歳)

ダークマターは、自身の重力によって集合して、ダークマターハロー(またはハロー)と呼ばれるダークマターの塊を作っていると考えられています。ダークマターハローは、その運動エネルギーによって形が保たれ、その中心へ向かって潰れていくことはありません。ダークマターハローは、銀河などの天体を作る土台だと考えられています。そして、私たち天の川銀河は、1兆太陽質量のダークマターハローの中心部分に存在する、という考え方が現在の標準的な宇宙論モデルの描像です。小学館の図鑑NEO宇宙新版のp.113, p126下段をご覧ください。*2)

天体はそれぞれうごいていると思うのですが、めじるしとなる天体はありますか?
(Hさん・女性・29歳)

上の回答で説明しましたように、目印はCMBです。CMBはその場所における、速度ゼロを教えてくれます。

宇宙が膨張しているのに、銀河どうしがなぜぶつかるのですか?
(Tさん・男性・55歳)

重力により、銀河同士が引き寄せられてぶつかる(衝突)します。宇宙の膨張の影響で、銀河同士が引き離されるセンスはあるのですが、それにも増して銀河同士の重力が強い場合に衝突します。

遠方を観測する一つとして「重力レンズ」の紹介がありましたが、そもそも重力レンズ効果によるものだというのはどこで判るのでしょうか?遠方の銀河の像が引き延ばされているところからなのでしょうか?
(Fさん・男性・53歳)

はい、遠方の銀河の像が引き伸ばされているかどうか、というのは重要な証拠になります。また、重力レンズを与える天体(例えば手前の銀河団)の質量分布を予めしっかりと調べておくことで、ある位置で観測される背景天体はどのくらい重力レンズ効果を受けているか、ということが分かります。

CMBを放射したガスが、重力収縮によってファーストスターが銀河を作ると考えると時間が足りないように思えますが(コールド・アクリーション)、例えば、名古屋大学の福井康夫先生の説のようにガスがフィラメント状になって衝突することで星ができると考えると、ファーストスター銀河は速く進むと考えてよいのですか?
(Yさん・男性・?歳)

宇宙誕生後1~2億年後には百万太陽質量を超えるダークマターハロー(上述)が多数できており、星が作られる必須条件が整っていますので、時間が足りないことはないと、多くの天文学者は考えています。残念ながら、ガスのフィラメントとファーストスターの関係については現在の研究では明確な結論は出ていません。

先生は宇宙の歴史でわからない部分は、どのようになっていると考えていますか?(Eさん・女性・48歳)

宇宙の歴史で分からないことはいくつもありますが、その中でも面白いのは宇宙の暗黒時代だと考えています。CMBの時代(宇宙誕生後38万年)の後、可視光で輝くものが宇宙から全くなくなり、漆黒の闇になると考えられる時代です。その後、ファーストスターが宇宙誕生後1~2億年後くらいに出来るまでの間、宇宙は闇で閉ざされます。この時代は可視光では見えませんが、電波の観測を通して知ることができるのではないかと考えられていて、これを探るための努力がなされています。

13X億光年の初期の銀河形状は判明していますか?(渦を巻いている?点状?)また物質はあると思いますか?
(Sさん・男性・?歳)

とても良い質問だと思います。130億年前くらいの初期の銀河形状は(複数の塊とか、複雑な構造があったりもしますが)、平均すると円盤の形をしていることが最新の観測研究で分かっています。もちろん、これらの銀河は物質でできています。

量子学、物理学(天文学)が年々加速度的に進歩している様な印象ですが、先生は「50年後」は宇宙のついてどこまで解明されているとお考えでしょうか?また永遠に解明されない事柄もあるとお考えでしょうか?
(Sさん・男性・?歳)

50年後ですと、おそらく地球外生命の痕跡が観測によって見つかり、地球の生命は、孤独な存在ではない、ということが分かっているのではないかと思います。常識を超えている存在が宇宙ですし、科学の進歩も予想するのが難いです。そのため、永遠に解明されない事柄があるのかどうかという質問は、非常に難しく、私自身よく分かりません。

「暗黒エネルギー」ではなく、「隣の宇宙」の重力という理論がありますが、それについてのご感想は?
(Sさん・男性・?歳)

隣の宇宙がある可能性もあるかと思いますが、理論予言しかなく、観測証拠がありませんので、一つの説にすぎないのだと思います。

光よりも速いもの?は今後発見される可能性はありますか?(Oさん・男性・68歳)

光より速いものがあるかどうか分かりませんが、仮にあった場合は因果律を含め様々な不具合をもたらす恐れがあります。

すばる望遠鏡のような大きな望遠鏡の方が遠くが見えるのはわかるのですが、もっと大きな望遠鏡を作らないまたは作れない理由は何ですか?技術的な問題?お金の問題ですか?
(Nさん・男性・41歳)

すばる望遠鏡の口径8mよりも大きい、30m望遠鏡TMTが現在つくられつつあります。これは、資金面を含めて5カ国の国際協力で作られていますが、それでもお金はギリギリです。これ以上大きい望遠鏡、例えば100m望遠鏡を作るという話もありますが、技術的な問題はクリアできそうでも、一番問題になるのがお金です。

ハッブル望遠鏡に寿命はありますか?メンテナンスを繰り返せば永久に使えるのですか?
(?さん・?性・?歳)

1990年に打ち上げられたハッブル望遠鏡は、これまで5回の修理を受けています。(修理は、スペースシャトルがハッブル望遠鏡に横付けされ、NASAの宇宙飛行士により行われました。)これにより、故障したジャイロや劣化した太陽パネルなどを取り替えたりして(さらには地球に少しずつ落下してきているハッブルを押し上げて高い軌道に戻したりしながら)、寿命を延ばしてきました。さらに、これら修理の機会に、新しい観測装置を搭載して、新しい望遠鏡へとリニューアルする努力もしています。ハッブル望遠鏡に大きな問題はないので、メンテナンス次第ではもっと寿命を延ばせるかもしれません。しかしながら、予算の問題と2020年代にハッブル望遠鏡の後継望遠鏡であるJWST望遠鏡が打ち上げられることから、これ以上の修理ミッションは予定されていません。

UFOは地球に来ていると思いますか?(Tさん・女性・?歳)

地球外知的生命が、地球に来ていることについて信頼に足る証拠は、私の知る限りではありません。ですので、来ていないと私は考えています。(半世紀近く信じられていた、ネス湖の「ネッシー」の写真が、ネス湖に浮かべたおもちゃをイタズラで撮った写真だったと後に判明したという例があります。一般の人ばかりでなく科学者の間ですら、嘘の報告や間違えの報告は、ごまんとありますので、注意が必要です。)

138億光年の星がわかった。その次にできることはあるのでしょうか?現地に行くのか?まだ遠い天体を探し続けるのか?宇宙にカベがあるのか?
(Yさん・男性・47歳)

138億光年先は、3000度の熱いガスだけで、星は無いと考えられています。仰る通り、望遠鏡による観測で、宇宙の様子が分かった後は、実際に探査衛星などでより詳しく調べたいところです。(もちろん、現在の技術で探査可能なのは太陽系内と、うまくいっても一番近場の恒星系くらいに限られてしまうでしょう。)このような研究を進めていくと、常に新しい問題にぶつかります。100年後の天文学者は、今の天文学者が想像していない新たな問題を調べているのだと思います。

宇宙観測は遠く、人が到達できない場所を見ますが、大変ロマンがあって素晴らしい事と思います。がお金になる事なのか?将来、光の速さで移動できるものができたとして、ある場所の距離から準備するための目安にしかならないのか?
(Yさん・男性・47歳)

お金にはなりません。仰る通り、遠い将来の宇宙旅行では、役立つ情報になるでしょう。しかしながら、今すぐ役立つものではありません。この問いに対する回答は、拙著「宇宙の果てはどうなっているのか? ~謎の古代天体『ヒミコ』に挑む」(宝島社)に以下のように書きましたので、参考になれば幸いです。*3)

引用ここから《 「結局、天文学は何のためにあるのだろう?」と感じた人もいらっしゃるかもしれません。確かに、天文学の発見や研究成果によって、お金を稼げたり、病気が治ったりするといった実益はありません。一方、望遠鏡1台作るのに、何百億円、何千億円という莫大なお金がかかる。「無駄なことなのでは?」と思う人がいてもおかしくはありませんし、それは当然の疑問でしょう。
 ですが、わたしは天文学はわれわれ人類のためにあると信じています。これは、天文学だけではなく学問全般にいえることでしょうし、芸術やスポーツなども同じでしょうが、何か実益があるわけではなくても、これらのものは、人の心を豊かにしてくれます。そして、そういった高度な文化活動というものは、ほかの地球上の生物は行わない、もっとも人間らしい行為でもあります。
 さらにいえば、そんな人間らしい文化活動のなかでも、天文学というのは人間にとって一番根源的で、素朴で、かつ重要な質問に答える学問のひとつだと思います。
 その根源的な質問とは、ポール・ゴーギャンの言葉を借りれば「われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか」という問いです。それを知るためには、宇宙がどうやって始まり、どのように現在の姿になり、将来どうなっていくのかということを知らなければなりません。その謎を解き明かそうとするのが、天文学なのです。 》引用ここまで

物質的な利益だけを求めるのであれば、人間はチンパンジーとの違いはなくなってしまうのだろう、と私は思います。

(回答注釈)
*1)*2) 池内了(監修),大内正己・勝川行雄・川村静児・小久保英一郎・田村元秀・橋本樹明・半田利弘・
      坂東信尚(指導・執筆)2018.『小学館の図鑑NEO〔新版〕宇宙DVDつき』小学館
*3)大内正己 2014.『宇宙の果てはどうなっているのか? ~謎の古代天体「ヒミコ」に挑む』宝島社