郷土と天文の博物館ブログ

犬が伊勢参り???ご主人様の代わりを果たしたワンちゃんのお話

令和2年5月23日

医療が発達した現代でも、あらたな病との戦いにはたいへんな不安がつきまといます。そんな時、神様や仏様にすがる気持ちは昔からあまりかわるものではありませんでした。
江戸時代、現在の葛飾区域にあった村々からも、全国の庶民の信仰を集めた伊勢神宮へ参拝することが見られました。「伊勢講」というお参りの仲間が作られたり、伊勢神宮のお札を家の神棚にまつったりしました。現在にも受け継がれている伊勢神宮への信仰ですが、最近出版された歴史の本をひもとくと動物とかかわるユニークなものがあったので紹介してみましょう。

伊勢参り

江戸時代になると、伊勢参りと言って三重県の伊勢神宮には全国から多くの人たちがお参りに来るようになりました。(伊勢神宮を信仰することは江戸時代よりも前からありましたが大勢の庶民が参拝するようになったのは江戸時代からです)
伊勢神宮は「五穀豊穣」「商売繁盛」「日々の平和」など庶民の身近な願いをかなえてくれる神様とされていました。

犬の伊勢参り

人にとっても夢の旅だった伊勢参りを、犬が、それも一匹で旅していたという、ユニークなお話が残っています。
ときはいまからおよそ250年前の明和八(1771)年にさかのぼります。この年、「おかげまいり」といって日本各地からたくさんの人が伊勢参りをしたのですが、参拝する群衆のなかには犬も見られたそうです。それも人に連れていかれたわけではありません。単独で、街道を旅し、伊勢神宮にお参りをしたそうです。
「この節、犬ご参宮いたし候て、参り候由、もっぱら風聞仕り候」と当時伊勢松坂で米などを商っていた商人森壺仙の旅日記は記します。そしてこの年をさかいに「犬が伊勢参りをした」という話があちこちで見聞きされるようになりました。

主人のかわりに伊勢参り

福島県須賀川市の十念寺にはシロという犬の像が残っています。このシロは病気で伊勢参りに行けない主人に代わって二か月かけて伊勢参りをして、伊勢神宮のお札をもらって帰ってきたといわれています。江戸時代後半のお話だといわれています。
こうした犬の伊勢参りは幕末まであちこちで見られました。犬の旅費は道中の宿場の人たちが少しづつ負担しあって、犬が無事に伊勢に行くように協力をしていたという記録も各地に残っています。「犬の伊勢参り」は江戸時代たくさんの紀行文や浮世絵などに描かれています。
記録によると、犬の首には、しめ縄と「お伊勢参り」などと書かれた巾着がぶら下げられており、入れてあったお金で餌を調達し、食べさせていたようです。また、世話をした人は出発の時間が来ると、旅の安全を願って巾着へご祝儀を入れてあげます。だんだんお金が重くなってくると、両替をしてくれる人もいました。お伊勢参りの街道沿いではでこのような犬が現れると、だれかれ構わずとても大事に旅先へ送り届けました。お伊勢参りをする犬たちは、誰かの「願う気持ち」を一身に背負った犬です。そのため人々は自らの「願う気持ち」と重ねて、神聖なものとして大切にしていたのかもしれません。

(画像はイメージです。伊勢参りをする犬は、日本犬タイプのものが主流で白毛の犬が多かったとされています。)

参考文献
:仁科邦男氏『犬の伊勢参り』(平凡社新書 2013)

:須賀川市教育委員会編『須賀川市史』(須賀川市 1972)

記事:博物館学芸員(民俗担当)/イラスト:博物館専門調査員(情報担当)

郷土と天文の博物館ブログ一覧

ページ先頭へ戻る