郷土と天文の博物館ブログ

戦前戦後の葛飾区で盛んだったセルロイド玩具製造

令和3年9月10日

昭和30年前後セルロイドの人形の製作は、葛飾区が一大生産地でした。現在ほとんど残っていないセルロイド玩具や生活用品の製造方法についてご紹介します。

セルロイドと葛飾

写真:『ミーコちゃん』人形

プラスチックが開発される前、子どもの日に遊んだり飾ったりする人形はセルロイドでできたものが一般的で、昭和30年前後、葛飾区はセルロイド人形の一大生産地でした。

葛飾区では昔から農業や工業がとても盛んでした。特に工業の分野では約100年前の大正時代頃から色々な製品を作る工場が区内に建てられるようになりました。

そんななか、海外から当時新素材であった「セルロイド」が入ってきました。セルロイドは加工もしやすいことから、メガネやクシ、洗面器などの生活用品や、人形、おきあがりこぼうしなどのおもちゃに使われることになったのです。 
大正5年以降になると葛飾区ではセルロイドのおもちゃ工場が爆発的に増えていきます。

写真:葛飾区登録有形民俗文化財「葛飾区セルロイド工業発祥記念碑」

葛飾区東立石にある渋江公園には、それをたたえた記念碑がありますがご存知でしょうか?正式には「葛飾区セルロイド工業発祥記念碑」といい昭和27年(1952)に建立されました。この碑は「葛飾区登録有形民俗文化財」に指定されています。

この場所に「千種ちぐさ」という大きなセルロイド工場が作られました。この工場でセルロイドのおもちゃ作りの方法を学んだ職人さんたちが、この地域で町工場を開いていきました。そのため葛飾区にはセルロイドのおもちゃ工場がたくさんできたと言われています。

セルロイドの原料

写真:楠と綿花のイメージイラスト

さて、現在は見ることさえ難しくなってしまったセルロイドですが、いったい何で出来ていると思いますか?実はセルロイドの原料は植物です。

セルロイドは現在のプラスチックが数多く生産されるようになる以前に使われていた素材です。その原料は、硝化綿しょうかめん樟脳しょうのうです。樟脳は、クスノキからとれる成分で衣類の防虫用品として親しまれてきました。現在でも医薬品、香料など、世界中でさまざまな用途に使われています。
そして硝化綿は、綿と硝酸と硫酸をまぜ溶剤を加えこねあわせて作ります。
セルロイドの原料は公園などでよく見られるクスノキと、布団に使う綿であるといわれているのです。

写真:当館所蔵の縁起物の鯛

このような工程で作られるセルロイドは、明治時代に開発され、水や油、酸に強く、色付けができ、安くて耐久性と柔軟性に富んだ素材として、日用品、写真フィルムほか多くの製品に使われていました。しかしながらセルロイドは90℃の高温だと加工が可能ですが、極めて燃えやすく、170℃以上に達すると発火します。そのため摩擦などでも簡単に発火してしまうのです。この可燃性の高さから火災事故の主要原因ともなり、姿を消すこととなりました。

製造方法

次にセルロイドはどうやっておもちゃにしたのでしょうか?セルロイドの加工には2種類の方法があります。
まず1つ目は吹き込み方法といってたい焼きを焼くような型にセルロイドのシートを2枚はさみ、高温で熱したら、空気を入れてふくらまして形を作る方法です。おもちゃのほとんどはこの方法で作られていました。

写真左:金型にセルロイドの生地を2枚はさむ。
写真中:金型を熱したら、空気を送り込み、プレス機で圧力をかける。
写真右:金型から取り外された人形の原型。この後ひとつひとつ取り出し、バリ取りを行う。
(協力:平井 英一 氏)

2つ目は抜型方法といいます。クッキーの抜型のような型を熱してセルロイドを抜いていきます。メガネや、洗面器などの生活用品は抜型で多く作られており、主に大阪市内の町工場で見られました。

写真:製造風景(湯絞り) 博物館講座「湯絞りでつくる月」より

葛飾区では湯絞りゆしぼりという加工方法もよく見られました。
湯絞りは、抜型方法の一種です。熱したお湯を使って円形にセルロイドを加工していく方法です。ピンポン玉や、赤ちゃん向けのおもちゃであるおきあがりこぼうしの「おしり」部分や、握って遊ぶガラガラを作るために使われた方法です。お湯を沸かすことができれば製作できたので、葛飾区では狭いスペースで夫婦2人で湯絞りを行う人がたくさんいました。

このように加工されたセルロイドおもちゃは職人さんによって整えられ、最後に色を塗って出荷されていきました。セルロイド製品は、その可燃性の高さを理由に昭和20年代後半にアメリカへの輸出が減少したことを背景に、葛飾区でもセルロイドのおもちゃ工場は廃業を余儀なくされ、現在では製作している工場はなくなってしまいました。

写真:当博物館のプラネタリウムでおなじみの『ドームくん』人形 博物館講座「セルロイド人形染付体験教室」より

記事・写真:博物館学芸員(歴史担当)

※このブログの内容は"FMかつしか「まなびランド」"で令和2年5月6日に放送した内容を編集したものです。博物館専門調査員(情報担当)

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