郷土と天文の博物館ブログ

身近な宇宙

令和5年9月1日

 ここ数年、日本人宇宙飛行士が国際宇宙ステーションに長期滞在して活躍をしています。昨年は若田宇宙飛行士、そして今年は古川宇宙飛行士です。
 国際宇宙ステーションは、地上およそ400㎞上空の宇宙に建設された有人実験施設です。世界の宇宙飛行士が一緒に生活しながら、地上の管制官と連絡を取り合い、さまざまな実験や研究をしています。

 さて、宇宙での実験や、宇宙開発で培われた技術やアイデアを、地上の私たちの生活にも、製品やサービスとして生かされることを「スピンオフ」といいます。一見、星や宇宙っぽくないものでも、私たちの快適な生活に溶け込んでいるアイテムもあります。どんなものがあるのか、いくつか例をご紹介しましょう。

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 まずは、ロケットの技術が建物やお家にスピンオフされた例です。
 ロケットの先端部には、燃え尽きないように、特殊な断熱材が用いられています。塗料のような断熱材で、地上の建物用にも商品化されています。ペンキのように屋根や壁に塗ることで断熱効果を発揮し、夏の猛烈に熱い日でも、お家の中の熱さを和らげることができるそうです。

 続いて、暑いといえば、この時期のキンキンに冷えた缶ビールや缶ジュースは格別です。あの缶にも、宇宙の技術をスピンオフした缶があります。
 「ダイヤカット缶」と言って、表面に筋がついていて、缶を開けるとダイヤの形のデコボコが浮き上がる缶です。炭酸のお酒「缶酎ハイ」の商品で有名な缶です。
 ダイヤの形のデコボコは、缶の厚みが薄くても強度を保つことができる工学的な技術のひとつです。少ない材料でも硬さを保てるので、物の軽量化ができます。探査機や人工衛星の技術を缶酎ハイに用いた例で、ダイヤカット缶は省エネ缶とも言えます。

 探査機はロケットに載せて宇宙へ運びます。ロケットに積み込むにはロケットの中に物が収まらないといけません。また、宇宙に到着した後で、折りたたんでいたアンテナやパネルを広げて最終的な形にします。折りたたんだり、壊れずに簡単に広げたりする方法も宇宙開発の技術のひとつです。
 『ミウラ折り』の名で知られる大きな紙のたたみ方があります。宇宙工学の三浦先生が考案した折り方です。
 現在では、観光案内所などにある無料の観光ガイドマップなどにも用いられています。名刺くらいの大きさで少し厚みのあるガイドマップをみつけたら、ミウラ折りのガイドマップです。めくるように紙の端っこに力を入れると一枚の大きな紙に展開されます。コンパクトで携帯しやすいのが特徴です。

 国際宇宙ステーションで活動する宇宙飛行士は、宇宙ステーションという閉鎖空間で、頻繁に着替えたり、洗濯したりすることができません。そこで、宇宙飛行士が快適に過ごせる下着の開発も行われています。
 消臭機能を持つ繊維素材の開発や、布の織り方や縫い方を工夫して、シャツや靴下が作られています。実際に宇宙飛行士が宇宙で着用して、着心地などが試されています。
 この下着の技術をさらに改良し、地上に暮らす私たち向けにも一般商品化されています。パンツやシャツだけではなくカットソーやアンダーウェアも作られています。汗をかいても乾きやすく、着心地が良くて、気になるくさい臭いも抑えるシャツや下着は、夏のこの時期にピッタリの衣類です。

 JAXA宇宙航空研究開発機構では、宇宙を身近なものにする取り組みとして「ジャクサレーベル」というプロジェクトを行っています。これは、宇宙開発の技術、特にJAXAの成果や、JAXAと企業が共同研究開発した製品や技術をスピンオフし、一般企業がJAXAの認証を受けて商品化するしくみです。商品には「ジャクサレーベル」のロゴが付けられます。
 これから、近所の商店街や大型ショッピングセンターで、「ジャクサレーベル」の商品を見かける機会があるかもしれませんよ。

記事:博物館専門調査員(天文担当)

※このブログの内容は"FMかつしか「まなびランド」"で令和5年8月23日に放送した内容を編集したものです。博物館専門調査員(情報担当)

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