郷土と天文の博物館ブログ

令和8年9月28日「河鍋暁雲筆かわなべきょううんひつ 絹本着色大行灯絵けんぽんちゃくしょくおおあんどんえ」が葛飾区登録有形文化財に登録されました。

令和8年10月9日

このたび、葛飾区では、亀有香取神社に伝わる「河鍋暁雲筆 絹本着色大行灯絵」をあらたに区の登録有形文化財に登録いたしました。肉筆の大行灯絵はほとんど残っておらず、全国的にみても極めて珍しいものです。ここでは、この作品について簡単にご紹介します。

どんな作品?

 こちらの作品は、2枚で一対(セット)になっており、それぞれ縦100センチ、横280センチほどのとても大きなものです。

写真:河鍋暁雲筆『絹本着色大行灯絵』 亀有香取神社所蔵

 絵絹えぎぬと呼ばれる、薄手の絹地に、墨と淡い色彩で描かれた肉筆画です。絵絹は、日本画や墨画を描くための専用の生地で、絵絹に描かれた作品は「絹本けんぽん」と呼ばれます。これに対して和紙に描かれたものは「紙本しほん」となります。とても大きな絵絹に、大胆な筆遣いで、生き生きと人物や動物が描かれています。

誰が描いたの?

 この絵を描いた画家は誰でしょうか?
 それを知るための手がかりが、作品の中にある落款(サイン)と印章です。絵の中には、「惺々暁雲せいせいきょううん」と直筆で書かれた作者のサインと、「暁雲画印」という朱印を見ることができます。ここから、明治期に活躍した浮世絵師の河鍋暁雲の手によるものとわかります。

 河鍋暁雲(文久3年・1863~明治41年・1908)は、明治中期から後期にかけて活躍した浮世絵師です。幕末から明治にかけて活躍し人気を博した浮世絵師・河鍋暁斎の次男として生まれ、父のもとで絵の修業を積みました。暁斎には、暁雲の妹にあたる暁翠もおり、この人も画家として活躍しました。河鍋家は、親子で絵師として活動した、絵師一家になります。
 暁雲は、画家としての活動期間が比較的短く、宮内庁三の丸尚蔵館所蔵の「百布袋之図」をはじめ、現在までに確認されている肉筆画も少ないため、この作品は彼の肉筆画として新発見のものであり、また希少なものとなります。

大行灯絵って何?

 さて、この作品ですが、いったい何のために描かれたものなのか、その点についてご説明しましょう。
 日本画、というと掛け軸や屏風に仕立てて、家の中に飾る、というイメージがありますが、とても大きな作品であり、そういった用途ではない、ということは一目瞭然でしょう。亀有香取神社でこの作品を保管していた箱には、「惺々暁雲筆 大行灯絵 東京亀有 香取神社」という名称が蓋に書かれていました。箱自体はおそらく昭和期のものと思われますが、香取神社では「大行灯絵」として伝わってきたものだ、ということが箱書きからもわかります。
 大行灯絵は、祭礼などの時に、神社や参道などに作られた大小の木枠の行灯に張り付けられたもので、中から蝋燭の光で照らされ、祭りの夜を彩ったものです。江戸時代以降、各地でみられ、現在でも福岡県の「大浜流灌頂大灯籠絵おおはまながれかんじょうおおとうろうえ」のように受け継がれているものがあります。江戸でも、神田の牛頭天王祭の時などに大型の大行灯絵が設置されたという記録などが見られ、当時の人気絵師らによって描かれたようです。
 暁雲の父・暁斎も、行灯絵の依頼を受けていたことが、彼の絵日記などから知られており、弟子でもあった暁雲・暁翠も行灯絵を描いたことがわかっています。
こうした行灯絵は、屋外に設置されるため、天候によって傷んでしまうことも多く、そのほとんどは祭礼のあとに廃棄されたものと思われ、現存するものはほとんどありません。この作品は、暁雲の活動期から明治20年代以降、没年までの間に描かれたものと考えられますが、明治期以前に作られた大行灯絵の実物として確認されているものはなく、その点でも、きわめて貴重なものと言えます。

描かれているのは何?

 最後に、画題について少しふれておきましょう。
 2枚で一対のこの作品の一方には、弓と剣をたずさえた老人と青年姿の人物が描かれています。これは神社の門を守る「随身像ずいじんぞう」になります。随身は、平安時代の宮中の護衛をした官人ですが、雛人形の、「左大臣右大臣」はこの姿を模したもの、とも言われています。神社では神様を守る守護神として、随身門の左右に置かれました。
 もう一方は、暴れる白馬、飾りをつけているので神馬しんめになりますが、その手綱をひいて抑える二人の従者が描かれています。こちらは、奉納絵馬などの題材として描かれる「牽馬図ひきうまず」になります。京都の上賀茂神社では現在でも白馬奏覧神事はくばそうらんじんじの際に「引馬の儀」が行われますが、その様子にもとてもよく似ています。いずれの画題とも、神事にゆかりのあるものになります。亀有香取神社から暁雲に依頼したものか、もしくは本人の意思により神社に奉納したものか、現時点では明確ではありませんが、神社に納められた絵に相応しい画題であることは確かです。

 この大行灯絵については、まだまだいろいろと調査や研究を進める必要はありますが、暁雲という画家の肉筆画として貴重であるとともに、行灯絵の制作や奉納を通して、絵師と神社の関係性を知る歴史民俗資料としても大変貴重な一例であろうと思います。葛飾区の歴史と文化にかかわる貴重な文化財として、今後も保存・活用いたします。

「河鍋暁雲大行燈絵 葛飾区登録文化財 決定のお知らせ」(亀有香取神社のウェブサイト)

記事:博物館資料整理員(歴史・文化財担当)/写真:当館撮影

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