プラネタリウム

第102回 天文学者が語る生命の起源 宇宙と生命が交差するとき、物語は始まる

現在の地球には人間や様々な動物たちが暮らしていますが、大昔の地球にはどうやって初めの生き物が生まれたのでしょうか?実は電波望遠鏡を使って、宇宙で生命関連の分子が発見されています。地球の初めの生き物は宇宙から運ばれてきた分子を使って生まれたのかもしれません。
講演では宇宙視点で生命誕生物語を考え、お話しました。

概要

日時

平成31年3月16日(土曜日)午後7時~午後8時30分

講師

鈴木 大輝(すずき たいき)氏
自然科学研究機構 アストロバイオロジーセンター 特任研究員
併任 国立天文台

講演プログラム(当日配布したレジュメより)

  1. 宇宙生物はいるか?
  2. 生命誕生の謎
  3. 有機分子から生命へ
  4. 宇宙誕生から有機分子ができるまで
  5. 宇宙に生命の種をもとめて...
  6. 質疑応答

聴講者からの質問と講師回答

根本のそもそもの、酸素とか炭素も何で出来たのか、どうやってできたのか分かるの? (?さん・女性・?歳)

理論的な予測に加えて年をとった恒星は若い恒星よりも酸素や炭素などの元素が多く観測されることから、酸素や炭素は恒星内部の核融合でできると考えられています。

複雑な分子でも特定の波長を見ることで検出できるのでしょうか? (Wさん・男性・48歳)

はい、検出できます。ただし複雑な分子になるほど電波が弱くなり、検出は難しくなっていきます。

(1)宇宙の星から生命(微生物)や生命の痕跡など、生命の可能性が発見されたとして、その星に元々いた生命ではなく、地球から宇宙へ行った人間や機器などからその星にくっついてしまい、それらが繁殖したものという可能性はないのか?現在の地球から持ち込まれた生命が元になった結果ということはないのでしょうか? (2)星が生まれる元のガスの中から星の基となる岩はどうできるのか?岩がぶつかって「星」となる、その境目は何ですか?何をもって岩の塊から星となるのか? (?さん・女性・42歳)

(1)仰るように地球生物による汚染は真剣に扱わなくてはならない問題です。宇宙ミッションではその可能性を排除できるように厳しい基準を設けて地球から生命を持ち込まないように細心の注意が払われています。
(2)小さなダストが長い年月をかけて合体して大きくなっていきます。惑星の形成が完了する境目ははっきりと決められてはいませんが、ダストの合体が終わり周囲に合体する大きな岩がほとんど無くなったら形成終了といえるでしょう。

4つくらい地球のような星(?)があるところがあるとのことでしたが、そこでも同じようにアミノ酸から生命が生まれることがあるのでしょうか? (?さん・女性・33歳)

海のありそうな惑星3つがトラピスト1という星の周りで見つかっています。その惑星の上にアミノ酸をはじめとする有機分子が持ち込まれれば、姿は違っても地球と同じようなアミノ酸などを使った生命が生まれることは十分にあり得ると思います。

(1)星形成領域についてもう少し知りたい。 (2)自然発生説について詳しく知りたい。 (3)パンスペルミア説について更に詳しく知りたい。 (Jさん・女性・35歳)

(1)星形成は-260度ほどのとても冷たいガスの中で始まります。初めに、重力収縮でガスが収集して高密度のコアができます。この段階では熱が放射により逃げていくので温度は低いままです。密度が上がっていくと星が誕生します。すると、星にあぶられて周囲のガスの温度が上がっていきます。この段階の天体が星形成領域で、講演で触れた僕たちの分子探査はこのような天体で行っています。
(2)自然発生説は現在では支持されていませんが、生き物が非生物的に生まれてくるという説です。例えばアリストテレスのような偉大な哲学者も土があればウナギが自然にわいてくると言っていますが、これは卵からかえるということではなくて文字通りわいてくるということです。
(3)パンスペルミア説は講演でお話ししたような分子ではなくて微生物の細胞そのものが飛んでくるという説です。例えば数光年離れた別の惑星で生命が生まれ、微生物が付着した隕石が拡散することで宇宙全体に生命が広がるというものです。この説が正しいとすると、わざわざ地球上で化学進化が起こらなくても宇宙のどかで生まれた生命が飛来すればよいということになります。夢はありますが、私は生命が宇宙の過酷な環境に宇耐えて数光年という長距離を移動することはあまり現実的に思えません。火星で生まれて地球に来るといった短距離の移動であれば可能性があるかもしれませんが…

地球外生命が存在するとすれば、地球上のDNAのようなものも持っているのでしょうか? (Nさん・男性・69歳)

生命の定義には「自己複製をつくる」というものがあるので、我々でいうDNAのような遺伝子の核となる分子を使っていると思います。ただし、人類が想像もしていないような構造の分子をDNAの代わりに使っているかもしれません。

野辺山のスペクトルはcontinuumに対して輝線が明らかに立っていたが、ALMAはnoisyにみえた。どのようにして優位に検出したと判断したのか。ALMAのターゲットはどのように選んだのか?野辺山で2つ目の分子が受かった分子雲のうちどのくらいが3つ目の分子が受かったのか? (Iさん・男性・?歳)

ALMA望遠鏡でノイズのように見えたものは全て分子輝線です。分子が検出されていない領域のノイズレベルと比べて優位に検出されています。ALMAのターゲットは野辺山で観測した天体の中でも窒素の入った分子がたくさん検出された4天体ですが、そのすべてでグリシンの前駆体が見つかりました。

(1)内部に海がある星ですが、噴出孔からは絶えず水が吹き出しているのですか。水はどうやって補充されるのですか? (2)内部に熱や光が届かない(発生しない)状態でも、生命体は維持できるのですか? (3)グリシンの指紋のようなものは、すべての物質において存在するのですか。それはどうやって判断するのですか? (Kさん・女性・45歳)

(1)エンケラドスは内部海の水が大量にあるので今のところ絶えず噴き出ていますが、補充されないためいつかは止まってしまうのではないかと思います。
(2)地球でも光の届かない海の底に硫黄を使って生きる生物がいることが分かっています。こういった生き物であれば化学エネルギーを使って生命活動を維持するので、光が届かなくても生きることができます。ちなみに、エンケラドスの内部は潮汐力で加熱され熱水噴出孔もあるので熱エネルギーは利用できます。
(3)少々専門的な内容になってしまいますが、電気的な偏りのある分子は全て指紋(専門用語で分子輝線といいます)があります。ただし、窒素(N2)やメタン(CH4)のような対称性の高い一部の分子にはこの"指紋"がありません。

なぜ必要な液体が水なのか、他の液体(水銀など)ではだめなのか。 (Iさん・男性・14歳)

水でなければならないということではありませんが、水は宇宙でも酸素原子から大量に作られるので、生命が生まれるときも水銀などよりもずっと量の多い水を使うのではないかと考えています。さらに水は広い温度で液体でいられ、有機分子が溶けやすいという性質もあり、化学反応という点では他の液体よりも都合がよいのです。

微生物は知的ではないのですか?(知的微生物というのはありえない?) (Tさん・男性・53歳)

もちろん僕たちは地球の生命しか知らないので推測ですが…知的活動には僕たちでいうところの脳のような器官をつくり複雑な化学反応を行う必要があります。微生物のような数ミクロンの大きさではそれだけ複雑な化学反応に必要な体積が足りないので難しいのではないかと思います。

宇宙はまだ分かっていないダーク物質(?)の中で宇宙は水がいっぱいあるとどうしてわかっているのか教えてほしい。 (?さん・男性・66歳)

恒星のスペクトルを見ると酸素原子の輝線がみえることから、酸素原子は宇宙でもありふれた原子だとわかります。酸素原子に水素が二個くっつくと生成するため、酸素原子がたくさんあれば水(H2O)もたくさん作ることができます。実際に彗星の尾の主成分は水だと分かっていますし、火星にも氷の水はたくさんあります。ちなみにダークマターの正体は未だに議論されていますが、未知の素粒子が候補になっています。

火星の表面の赤色は酸化鉄らしい、その酸素はどこからきたか。もしかしたら光合成があったのか? (?さん・?性・?歳)

光合成で発生するのは酸素分子ですが、酸化鉄に含まれているのは酸素原子なので光合成の証拠にはなりません。酸素原子は恒星の内部で核融合でできたものが放出されて供給されるため、惑星形成時にあった鉄と酸素「原子」が反応して酸化鉄になったのだと思います。

先生の説は、いわゆる「パンスペルミア」説と言えますか?そうなると、地球外生命がいる可能性が高まるでしょうか? (Rさん・男性・57歳)

パンスペルミア説は微生物そのものが飛んでくるというものなので、生命関連分子が運ばれてくるという説とは異なります。もしも生命に関連する分子が宇宙から持ち込まれるのなら、いろいろな環境の惑星に生命の種がまかれることになり生命が生まれる可能性が広がると思います。

地球上の大西洋や太平洋に熱水噴出孔が生命誕生の場として注目をあびています。このことから土星のエンケラドスや木星のエウロパでプルームが観測されていますが、そもそも地球上の前記熱水噴出孔で新しい生命が発見されていないことからも当方は疑問を感じています。コメントをお願いいたします。 (Tさん・男性・55歳)

現在の地球上は既に生命にあふれているため、有機分子が現存する生命により食べられてしまいます。なので、新たに生命が生まれる瞬間を目撃することは難しいと思います。

天文学者と生命系の学者さんで、傾向や特徴などあるでしょうか? (?さん・男性・43歳)

生物系の研究者の手法は実験が中心ですが、天文学では手の届かない天体が研究の対象です。また、「天文学的数字」と言う言葉があるように天文学の方が扱うスケールがかなり大きいです。そのため、天文学者の方が大胆な近似を使って大きなスケールを考える傾向があると思います。

(1)国内の(天文台の)研究は世界的にはどれ程認められているのでしょうか? (2)ALMAの所属は? (3)微生物くらいだろう派でしたが、考えが変わりました。面白かったです。宇宙や星そのものが生命というか意思をもっていたりしないのかなとややファンタジックな空想をするのですが、そういった考えについてどう思われますか?野辺山やALMAについてももっと知りたいと思いました。 (?さん・女性・32歳)

(1)天文台にも世界的に認められる研究者が多数在籍しています。ただし、研究の世界では所属機関よりも過去に良い研究をしたかどうかで評価されます。
(2)ALMA望遠鏡は国際プロジェクトなので国ごとにチームがあります。日本では国立天文台のプロジェクトチームが率いています。
(3)ありがとうございます。野辺山45メートル望遠鏡は日本が誇る電波望遠鏡で、これまでたくさんの分子を発見した実績があります。ALMA望遠鏡は最新の電波望遠鏡で、さらに高分解能(細かい構造が見える)で高精度(弱い電波でも検出できる)な電波観測ができるため世界中の研究者が注目しています。是非ホームページをご覧になってみてください。

(1)全ての生命はたった1つの生物から進化したとよく言われていますが、これは最初の生命が他を圧倒していたのか、又は複数の生命が生まれたが何かしらの厳しい環境で1つだけ生きのびたのか? (2)アミノ酸や核酸はある程度ありふれているようですが、そこから生命の誕生になるとハードルが一気に上がります。それに対する研究室内での研究では現在どのくらいの事がわかっていますか?その確率はエンケラドス等を直接観察しないとわからないものなのですか? (3)電波望遠鏡では、ある程度分布させると、その分布域の直径と同じくらいの望遠鏡の制度を出せるようですが、同じ電磁波を観測する光学望遠鏡で同じことはできませんか? (Pさん・男性・53歳)

(1)初期の地球では複数の生命が誕生した可能性もあると思います。現在の地球の生命がひとつの共通祖先から生まれたということは、最初の生命の中でも効率的にエネルギーを生産できる生命が他を圧倒し、絶滅してしまったのではないかと思います。
(2)仰るようにかなりハードルが上がると思います。生物の研究者に言わせれば奇跡的な確率のようです。この欄では書ききれませんが、例えば実験室では利用するアミノ酸の数を減らしてタンパク質はどこまで簡単にできるのかという研究が行われています。その結果タンパク質機能の維持に必要なアミノ酸の数は意外に少ないことが分かってきました。このようにより簡単な構造に遡って生命の起源を考えることができますが、まだまだ研究が必要です。
(3)赤外線や可視光の干渉計は、不可能ではないにせよ難易度が高くなります。理由としては地球大気の揺らぎの影響が電波よりも大きく補正が必要なこと、光が粒子としての性質が強くなり干渉させることが難しくなることが挙げられます。

元素合成から生命誕生までどのくらいの時間がかかっているのか? (?さん・?・?歳)

地球しか前例を知らないので難しいところですが、太陽系の年齢からすれば数十億年の単位ではないかと思います。ただし、地上で分子から生命になるよりも、星の中で元素が合成された後に太陽と地球ができるまでに圧倒的に長い時間がかかります。

宇宙からの有機分子から地球の生命体が生まれたとすると、今現在、未来においても新たな生命が生まれている、生まれる可能がある? (Kさん・男性・65歳)

現在の地球の有機分子は地球上の生命によりすぐに食べられてしまうので、新たな生命誕生は難しいと思います。

先生が説明をしてくれた仮説で誕生する一番初めての生命は、どのような形や色、状態をしてると考えますか? (Eさん・女性・48歳)

形や色は分かりませんが、最近の系統樹解析によると初期生命は熱に耐性をもった生命であったといわれています。

分子雲の塵(ダスト)とは何でできているのか? (Tさん・女性・55歳)

ダストそのものはシリケイトやグラファイト等でできた小さな固体粒子でできています。そしてその周りに水の氷ができます。

①先生が天文(1)先生が天文学を目指したのは昔から「宇宙から生命が来たからだ」と思っていたからですか?生物学者ではなかったのはなぜ? (2)グリシンがみつかったら、次はどうしますか? (Hさん・女性・40歳)学を目指したのは昔から「宇宙から生命が来たからだ」と思っていたからですか?生物学者ではなかったのはなぜ? ②グリシンがみつかったら、次はどうしますか? (Hさん・女性・40歳)

(1)地球の生命の起源だけではなく、宇宙のどこか他のところにも生命がいるかもしれないという興味から天文学に進んでいます。
(2)他の種類のアミノ酸や核酸塩基など、いろいろな生命関連分子を探したいと思います。

星間分子雲で科学物質が生成されるプロセスは極低温の状態で進行するのでしょうか? (Nさん・男性・60歳)

熱が必要な吸熱反応は進行しませんが、発熱反応であれば進行します。また、低温の星間塵表面では水素原子が動き回って反応するというような地上から見れば特殊な化学反応が進んでいきます。

鈴木先生が、仮に宇宙生物(知的生命体)に会えたら、何を質問したいですか?また、研究したいですか? (Nさん・男性・28歳)

生命体ごとに文化の概念や形態に違いがあるのかを質問してみたいです。研究したいです。

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