プラネタリウム

第28回 宇宙を見つめる3万キロメートルの瞳

地球の直径のおよそ2倍の軌道に電波望遠鏡を打ち上げ、地上の電波望遠鏡と組み合わせて、直径3万キロメートル相当の巨大な電波望遠鏡システムをつくる計画「VSOP-2」が進められています。2012年の打ち上げ後は、活動的な銀河の中心にあるブラックホールを取り巻くガスの様子や、星の生まれる現場などが、かつてない詳しさで観測することができるようになるでしょう。

概要

日時

平成18年9月9日(土曜日)午後5時~7時

講師

萩原 喜昭氏(国立天文台スペースVLBI推進室研究員(2004-))

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プロフィール

1967年生まれ。国立天文台野辺山宇宙電波観測所にて7素子ミリ波干渉計実験で 学位論文の研究を修める(1999, 総合研究大学院)。
Max-Planck研究所(ドイツ)研究員(1999-2002)、Westerbork天文台(オランダ)研究員(2002-2004)。
欧州から帰国後、天文学のみならず純粋自然科学をどのように日本の社会に認知させるか、 内外の社会科学書を読みあさりつつ、その具体的方法を模索している。
趣味は、アウトドア、オートバイ

講演会プログラム

  1. 次期スペースVLBI計画 - 「はるか」から VSOP-2へ
  2. 電波干渉計及びVLBIの原理
  3. 活動銀河核のイメージング:ジェット、降着円盤、ブラックホール
  4. VSOP-2 サイエンスハイライト
  5. 国際協力 - 世界を繋ぐVLBIネットワーク
  6. 将来への展望

質問と回答

開口合成電波干渉計において、アンテナをあちこちに移動させることによって、 観測すると像がめちゃくちゃになりませんか?

アンテナ間の信号を干渉させその強弱を測定することで、電波源の方向を知ることができます。 アンテナ間隔を変えてやると、電波源の大きさに対応した情報も得られます。 (長い間隔は小さな構造を分解し、小さい間隔は広がった成分を拾う。) こうして出来るだけ多くのアンテナ配列パターンを用意することで電波源の位置と強度のより正確な情報を得るのです。
アンテナをあちこち移動させることで、逆に2次元のイメージの質は改善するのです。
ただ、異なる配列で撮像したイメージを重ねる場合、計算機上で基準点を明確にしながら重ね合わせをしないと、イメージはぐちゃぐちゃになります。

身近な恒星の太陽ではいろいろな活動がありますが、クエーサーや遠方銀河の観測以外に太陽を電波研究する要素はないのでしょうか?

太陽フレア現象(太陽大気の爆発)は、電波干渉計による高空間分解能観測が有効であるとされてきました。高分解能によるモニター観測により、爆発で発生する荷電粒子が加速される領域の特定とその過程を捕えることができるからです。磁力線の形とそのフレアへの役割も観測対象です。

将来的に電波望遠鏡を月に設置して、地球~月の『38万キロメートルの瞳』を作ることは可能ですか?

可能です。実現させるには、月面にある望遠鏡の位置が地球上で用いられる座標系に準拠して高い精度で決定される必要があります。月の公転軌道や自転運動も高い精度で知る必要があります。推力の大きなロケットで電波望遠鏡衛星を宇宙空間に打ち上げれば、月を利用せずとも『38万キロメートルの瞳』を実現することは可能です。 VSOP-2の後継機として、複数の衛星を軌道に乗せて宇宙空間で干渉計を構築させる案が出ています。この場合24台の衛星で同時に観測できれば、『二十四の瞳』になります(!?)。

人工の電磁波はどのくらい観測の障害になっているのでしょうか?

遠い宇宙からはるばる届く非常に微弱な宇宙電波は、地上で望遠鏡に捕えられる直前で民生及び軍事用に使われる通信により混信を受け受信できなくなることがしばしばあります。 国際的な取り決めで、幾つかの特定の周波数帯が電波天文学用に保護されていますが、業者からの要望もあり、高い周波数側の商業利用への開放が求められています。低い周波数 (20-300メガヘルツ)で観測する望遠鏡は南半球の人口密度の低い地域に作ろうとする動きが現在広まっています。

研究者がまだ手をつけていない古いデータは、一般の人が入手して研究することはできないのでしょうか?

世界の多くの望遠鏡で観測されたアーカイブデータは、その多くの場合インターネットなどを利用して誰でもデータを入手できます。 しかし、そのデータは研究機関に属する職員や大学院生が利用すると仮定しているようです。共同研究者として、研究機関職員に入ってもらえれば、殆どの人がデータにアクセスできるはずです。データを管理している機関によって方針はまちまちですので、確認してください。

参加者アンケートより

  • とても分かりやすかったです。VSOPがお酒から付けられたとは…裏話も聞けて楽しかったです。
  • いつもより長めだったが、大変おもしろかった。内容は少々難しかったが、理解できないレベルではなかった。やはり研究現場の人の話しは聞いていて楽しい。
  • VLBI計画について知ることができ楽しかったです。子どもが大きくなる頃にはたくさんのことが解明されるかと思うとワクワクします。M87のブラックホール、ジェットのお話し、知りませんでした。ただの天文好きから、もっと知りたくなりました。
  • 少々難しかった面がありますがテーマとしては時流に乗ったものと思います。
  • 難しい部分もあったが、VLBIのことが分かってよかった。

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