プラネタリウム

第29回 小惑星探査「はやぶさ」の成果、そして未来へ

小惑星探査機「はやぶさ」は、2005年11月小惑星イトカワに到着し、 地球から3億キロメートルという遠隔の地で数々の困難に遭遇しつつも、幸運なことにその理学観測と接近・降下・着陸、 そして再離陸に、世界で初めて成功しました。
うれしいことに、この探査には独自のインスピレーションで実現された点について、世界中から賛辞をいただきました。 従来になかった、まったく新しい形態の宇宙探査であったからです。 我が国が固有に開拓し、実現にこぎつけた点でも画期的であったと思います。 これは理学的な見地で、地球自身の形成の理解につながることはもちろんですが、 将来の太陽系全体を視野に入れた大きなスケールでの資源利用など、 太陽系の旅のイメージを変え大航海時代へとつながるものです。
この講演では、「はやぶさ」の運用の経緯をふりかえるとともに、関連で切り開かれ始めた新しい技術について述べ、 それによる有人での往復の惑星間飛行にいたる将来像を展望しました。

概要

日時

平成18年11月11日(土曜日)午後5時~7時

講師

川口 淳一郎氏(JAXA 宇宙科学研究本部 研究系教授)

川口 淳一郎氏

略歴

昭和53年 京都大学工学部機械工学科卒業
昭和58年 東京大学大学院工学研究科航空学専攻博士課程修了、工学博士 宇宙科学研究所入所システム研究系所属
昭和62~63年 米国航空宇宙局ゴダード宇宙飛行センター勤務
平成12年 宇宙科学研究所教授
平成15年 JAXA(独立行政法人宇宙航空研究開発機構) 宇宙科学研究本部宇宙航行システム研究系教授、 同・深宇宙探査センター長
平成18年 同・宇宙航行システム研究系教授、同・研究主幹

主な研究分野

惑星間探査解析、システム制御論

受賞・公職等

昭和62年:計測自動制御学会・技術賞
平成3年:日経BP賞
平成5年:NASA Group Achievement Award(GEOTAIL)
平成12年:学術審議会・宇宙科学部会・専門委員、宇宙開発委員会・専門委員
平成16年:日本航空宇宙学会・技術賞
平成18年:Space Pioneer Award(米国National Space Society)
この間、宇宙関係制御・構造物等での国内・国外特許多数取得

主な著書

『人工衛星と宇宙探査機』コロナ社
『航空宇宙における制御』コロナ社
『ビークル(計測・制御テクノロジーシリーズ)』コロナ社

質問と回答

「はやぶさ」のターゲットをイトカワに決めた理由は何ですか?

打上げの時には、まだその小惑星には名前が付いておらず、仮符号の番号のみで呼ばれておりました。その小惑星の命名権は、アメリカのある観測チームが持っていました。そこで、事情を説明し、日本のロケット研究をスタートさせた糸川博士の名前を付けてもらいました。

サンプル採取以外に、どのような観測機器類がありますか?

代表的な観測機器が4つあります。たくさんのフィルター付きのカメラ、レーザー高度計(50キロメートル以内の凹凸の調査)、赤外線分光器(鉱物の種類の調査)、X線分光器(鉱物の物質の調査)で、いずれも正常に動作しデータ収集もできています。

航行中に「はやぶさ」の周囲にある物質と天体(恒星やイトカワ)は、どうやって区別するのでしょうか?

2~3日写真を撮ると周囲にある物質は移動して視野から消えていきます。それに対して、恒星は動かず、小惑星は想定される動きを示すことから判断ができます。

航行には、予想外のことはありましたか?

当初より、かなり難しいと予想していました。実際にも困難を極める探査になっていますが、いろいろな対応策も考えておりましたので、想定内の航行になっています。

「はやぶさ」が着陸した平らな場所は、どうやって出来たのですか?

イトカワはその姿から、二つの天体が合体してできたように見えます。その二つの物体が結合している場所は、重力と遠心力がつりあった場所になります。そこは、細かい砂のような物質が集まりやすく、結果的に平らな場所ができたと考えられます。

サンプルが取れた可能性はどのくらいあるとお考えですか?

このプロジェクトは、探査機が地球へ返してくるという大きな目標があります。サンプル採取ができれば、たいへん嬉しいことですが、最初にお話したように、今回は「世界で初めて往復の惑星間飛行を行ない、かつサンプル採取のための技術開発を行なう」という目的が一番大事です。

「はやぶさ」が地球へ帰還する時、どのように回収するのですか?

「はやぶさ」の本体は、おそらく大気圏へ突入した時に、燃え尽きてしまうと思います。回収するのは資料採取カプセルのみで、大気圏に入ったときにカプセルを切り離し、パラシュートを使ってオーストラリアの砂漠地帯へ落下させる予定です。

将来の目的(はやぶさ2)を国民にもっと訴え、寄付を募る仕組みは考えられないのですか?

JAXAは国民の税金で運営している団体なので、我々が寄付を募るとその分の予算を削られれる可能性が出てきます。ただ、まったく別の団体が、応援キャンペーンを行なうなどしていただけると、大きな支援になると思います。

「はやぶさ2」が実現できたら、打上げロケットはH-IIAになのか、それともM-Vの後継機種になるのでしょうか?

M-Vの後継機種は間に合いませんので、H-IIAしかありません。

「はやぶさ2」では、どのような機器を搭載予定ですか?

次の探査は、水が多くあると思われる小惑星を想定しています。そのような天体には、有機物もあると考えられますので、それらを分析するための機器を一つ追加したいと考えています。

どうして先生は天文学者になったのですか?

私は、天文学者ではなくエンジニアです。そして、エンジニアになったのは、宇宙船やロケットに興味があったからです。要は、何に興味があるのかによると思います。

参加者アンケートより

  • 去年から気になっていたテーマなので、とても良かった。
  • 宇宙航空システムの事が少し勉強できたような気がいたします。
  • 自分も製品を開発しているエンジニアとして、今日の川口先生の話しはとても勇気付けられました。「はやぶさ」、応援しています!地球に戻ってくるのをいつまでも待っています!プロジェクトチームの皆さん、頑張れ!
  • はやぶさ計画をお聴きするのに、最高の先生で素晴らしかったと思います。
  • 専門的な難しい内容ばかりでなく、苦労した点や興味深い話しがたくさんあり、あっという間の楽しい時間でした。
  • 分かりやすくて、おもしろかったです。興味深く話を聞くことができました.先生のおちゃめな?人柄にも好感が持てました。
  • とても勉強になりました。新聞やニュースの話題がとても身近になりました。
  • 「はやぶさ」のミッション・運用を分かりやすく、現場にいるようにワクワクしながら聴きました。

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