プラネタリウム

第52回 究極の電波望遠鏡「アルマ」で探る宇宙

日米欧の国際協力で建設中の電波望遠鏡「アルマ」。ハッブル宇宙望遠鏡やすばる望遠鏡を10倍上回る視力と、従来の電波望遠鏡を30~100倍超える感度で、我々の宇宙観を大きく変えると期待されています。アルマが明らかにするであろう宇宙の謎を、わかりやすく説明します。

概要

日時

平成22年5月22日(土曜日) 午後7時~8時30分

講師

立松健一氏(国立天文台ALMA推進室長・教授)

講演プログラム

  • 電波天文学とは
  • アルマ電波望遠鏡の紹介 -プラネタリウム-アルマ観測所の星空(南天の星空)など
  • アルマがめざすサイエンス
  • 着々と進むアルマの建設

質問と回答

80台の計画が66台に変更になってしまった理由をおしえてください。(47歳・男性)

鉄鋼等の原材料の価格が上昇したこと、チリにおける人件費が高くなったこと、高地でのインフラストラクチャ建設に想定以上にお金がかかることがわかったことが理由です。米欧は全建設予算の40%増を実現し、アンテナ建設予算も増やしたにもかかわらず、製造するアンテナ台数を削減せざるを得ませんでした。 アンテナ台数が64台の場合に比べ、50台の場合は約1.6倍の観測時間がかかることになりますが、交換用受信機システムを準備することにより故障による観測時間の減少を抑え、また観測を実施するプログラムを一層の厳選することにより、台数の減少によってアルマが目指すサイエンスへの影響を最小限にしています。

星の寿命は、長いものでは1000億年と説明がありましたが、宇宙の年齢137億年より長いのはどうしてなのでしょうか?(無記入)

宇宙の現在の年齢よりずっと長い寿命を持っているということで、今後もかなり長い時間ずっと生き続けることになります。

電波望遠鏡による観測の敵は水蒸気ということですが、人工の電磁波は問題ないのでしょうか ?宇宙空間に巨大な太陽電池パネルを設置して、電力をマイクロ波で地球に送る計画がありますが、影響はないのでしょうか?(無記入)

人工の電磁波は、電波望遠鏡の観測に大きな影響があります。 国立天文台では、電波天文学にとって大切な周波数を保護するために周波数保護委員会を設置し、国際組織ITUに対して電波観測にとって好ましくない人工電波を出さないように働きかけています。 しかしながら、すべての好ましくない電波を止められているわけではありません。クラウドサット衛星という地球観測衛星は地上に向けて非常に強いミリ波のパルス電波を照射しています。アルマのパラボラアンテナはこれによって受信機がダメージを受けないように、天頂を向くときには自動的にシャッターが閉まる設計になっています。 電力をマイクロ波で地球に送る計画は、注意深く設計しないと電波望遠鏡に影響を及ぼす可能性があります。

日本は、年間、何夜分の観測時間をもらえるのですか?(30代・女性) 日・米・欧で、どのような割り振りで使う予定でしょうか(Oさん)

日本、北米、欧州と建設場所のチリで、観測時間が22.5%、33.75%、33.75%、10%割り当てられます。観測提案を国際的に集めて、科学的に審査を行い、選択されます。 年間では、365日X共同利用に使える割合X22.5%です。本格運用時にALMAは共同利用に使える割合95%を目指しています。

手前の恒星と後ろの銀河の区別はどうやってつけるのですか?フラックス?スペクトル?(30 代・女性)

電波は生まれたての若い星を受けるのは得意ですが、大人の星(主系列星)を受けるのは不得意です。 ALMAをもってしても、主系列星の恒星で受かるものは数百個に限られます。ALMAで受かりそうな主系列星はすでにリストされています。遠方銀河の探査は、銀河系の星の少ない銀河の極方向でおこなわれるので、近傍の恒星が入ってくる可能性はほとんどありません。

水素からの電波はなぜとれないの でしょうか?(34歳・女性)

星と星の間を満たす物質を星間物質と言います。星間物質の濃いところでは、主に分子ガスでできており特に「分子雲」と呼ばれます。分子雲は、ミリ波サブミリ波でよく観測されます。 分子雲の主成分は水素分子ですが、「水素分子」の場合は、同じ原子でできた2原子分子ということで、電気的にプラス・マイナスが偏在しておらず、電気双極子として働かないので冷たい分子雲では回転遷移の「電波が出ません」(温かい分子雲では振動遷移の赤外線が出ますが)。 しかし、分子雲は電波を強く出す一酸化炭素や塵の成分を含みますので、電波望遠鏡で観測可能です。星間物質の薄いところでは、水素原子が波長21cmの強いマイクロ波の電波を出しています。

日・米・欧・カナダ・台湾がこのプロジェクトに参加しているとのことですが、もっと多くの 国々がかかわると資金を増して望遠鏡/アンテナ数を増やすことができたのではないでしょうか。 他国が参加する予定はないでしょうか?(28歳・男性)

具体的には決まった話はまだないですが、今後、他国が参加する可能性はあります。

宇宙空間であると水分の影響がないとのことなので、宇宙空間に、干渉計をつくるということ はないのでしょうか?(28歳・男性)

地上のアンテナと宇宙のアンテナを組み合わせる干渉計としては、日本が主導したVSOPがありました。ただしミリ波サブミリ波は観測対象ではありませんでした。 ALMAは敷地18kmにアンテナ66台以上設置するミリ波サブミリ波干渉計ですが、同じ規模のミリ波サブミリ波を観測するための電波望遠鏡を宇宙に作ることは、現時点では技術的に無理です。遠い将来には可能になるかもしれませんが。

純粋に、電気的なノイズなども観測に障害になったりするのでしょうか?自分は原子物理に関 わっているので、アルマによる観測が物質生成につながると期待しています。(34歳・男性)

ノイズは観測に大きく影響します。特に、ミリ波サブミリ波の受信機の場合は、極限的にノイズを低くした超伝導受信機を使って観測を行います。アルマの最高周波数の受信機は日本が製造分担していますが、昨年(2009年)ノイズの低さで世界最高記録を達成しました。アルマでは、宇宙空間での星間分子の生成過程が詳しく調べられる予定です。

ビックバンは概念でしょうか?宇宙のはじまりを説明するための言葉なのでしょうか。(30歳・男性)

ビッグバンは宇宙初期の爆発的膨張の仮説、理論モデルです。宇宙初期を説明する「ある概念」といってもいいです。

宇宙の外には何がありますか?(30歳・男性)

現代の宇宙論によれば、「我々にみえる宇宙」より広大な宇宙が存在していると想像されます。しかし「我々にみえる宇宙」の外側は、理論的に予測できても、実際に確かめることはできません。

分解能、電波強度、どちらを上げるのが今後のぞましいのでしょうか?(43歳・男性)

分解能と電波感度のことだと思って回答いたします。分解能だけ上げても、感度不足で観測できる天体対象が限られ、いいサイエンス結果を出すことができません。分解能と電波感度のバランスが重要であると考えます。

ミリ波、サブミリ波はシンチレーションの影響はないのでしょうか?(43歳・男性)

チリ5000メートルの高地では、この影響が少ないと考えています。ALMA建設地の予備的な調査の結果、振幅変動と位相変動の相関から、ある種のシンチレーションの影響が認められています。

日・米・欧の望遠鏡に違いはあるのでしょうか?(43歳・男性)

違いはあります。デザインは異なります。一方、アンテナが持つべき性能(指向精度、鏡面精度、経路長誤差)には厳しいスペックがあり、また、どのアンテナ基礎にも日米欧のどのアンテナが置けるように、どのアンテナにも、共通の受信機が載せられるように、インターフェースがきっちり決められているので、運用上は問題なく互換性が保たれるようになっています。一方、デザインが異なるので、たとえば保守は異なったマニュアルが必要です。

分解能は電波望遠鏡としてこれまで最高のものの何倍になるのでしょうか?(43歳・男性)

ミリ波で最高分解能の干渉計CARMAの約15倍です。サブミリ波で最高分解能の干渉計SMAの約25倍です。

ALMAと他の干渉計をネットワークでつないでさらに大きい干渉計をつくることもできますか? (46歳・男性)

できます。ALMAを含めた超長基線干渉計VLBI構想です。実際にそのようなことが将来計画として議論されています。

金属のような重元素を発する電波の観測は可能になるのでしょうか?(31歳・男性)

これまでに発見された分子には、AlCl, AlF, MgNCなどアルミニウムやマグネシウムを含むものがあります。金属で構成される固体粒子からは電波連続波という種類の電波が出されます。

2010年にまず研究されるテーマ対象はなにでしょうか?(Oさん)

これは、各国、策を練っての競争になります。成果の十分に期待される、有名な天体、強度の強い天体、が最初の候補でしょう。

アルマを超える望遠鏡はできますか?(39歳・男性)

いつかはできると思います。しかし、アルマを超えるミリ波サブミリ波干渉計は、少なくとも今から30年以内には無理ではないかと思われます。

ハッブル宇宙望遠鏡のように宇宙にできる望遠鏡はこれから先作ることはないのでしょうか?(39歳・男性)

ハッブル宇宙望遠鏡を上回る口径6.5mの宇宙望遠鏡JWST(James Webb Space Telescope)が2014年に打ち上げ予定です。また、日本では口径3.5mの赤外線宇宙望遠鏡SPICAが計画され、2018年の打ち上げを目指しています。

宇宙ステーションには、なぜ望遠鏡がないのですか?(39歳・男性)

「きぼう」には、日本の全天X線監視装置MAXIが載っています。

ふたご星(連星)の分布のプロットで、main sequence(主系列星)とpre‐main(前主系列星)で差があるのはなぜですか? (51歳・男性)

前主系列星(若い星)の観測は、現在のところ観測のしやすい近傍の星形成領域牡牛座(おうしざ)などで、(星団でなく)孤立的に生まれている星のデータとなっています。太陽も含め、大人の星(主系列星)のほとんどは、星団として集団で生まれたと考えられています。 星団では、星が誕生するときにまわりの影響を受けやすく、やや連星が生まれにくい、あるいは、連星が生まれても離れ離れになってしまう可能性が指摘されています。 プロットの差は、それぞれの連星の距離に対して、頻度分布がプロットしてあります(すなわちどの距離の連星が何割)。観測している母集団の差(単独的に生まれた星と星団で生まれた星)と考えられます。

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