プラネタリウム

第58回 宇宙探査機のいままで・これから 2010年代の月・惑星探査

宇宙時代が始まって50年。 さまざまな経緯を経て、月・惑星探査は、私たちの知識を広げるという意味で大きな成果を挙げてきました。 そして、日本は「かぐや」「はやぶさ」によってこの領域に参入し、世界にも大きな存在感を与えつつあります。
2010年代を迎える今、これから10年の月・惑星探査を展望し、さらにその先を見据えるのは、 私たち、つまり知識を受ける人であり、出資する人たちにとっても大事なことです。 この講演では、まず、これまでの月・惑星探査を振り返り、その後、2010年代の月・惑星探査について解説していただきました。
2010年代の月・惑星探査については、注目すべき領域を、「月・火星」、「木星・土星」、「小惑星」、 「冥王星・水星」の4つに分けて、それぞれについてポイントと、どのような探査が行われるのかについての紹介、 さらにその重要性が解説されました。
また、これら今後10年の探査を踏まえ、さらにその先にある有人探査についての紹介、 最後に、世界の月・惑星探査の流れの中で、日本がどのように進んでいくべきかについて、講師の意見をお伺いしました。

概要

日時

平成23年4月23日(土曜日) 午後7時~8時30分

講師

寺薗 淳也氏(会津大学 先端情報科学研究センター 宇宙情報科学クラスター 助教)

講演プログラム

  • 自己紹介
  • 惑星探査にはルールがある
  • まずは、これまでを振り返ろう
  • 2010年代の惑星探査

月・火星探査 私たちの近くの天体

木星・土星 興味は「本体」から「付属品」へ

小惑星・小天体 日本のリードvs海外の巻き返し

冥王星・水星 最後のフロンティアに手を伸ばす

  • 「さらにその先」はいつやってくるのか?
  • そして、日本はどうすれば...?

質問と回答

「はやぶさ」では、イオンエンジンが開発されましたが、 今後の惑星探査で開発が望まれている技術にはどんなものがありますか?(Nさん ?歳男性)

イオンエンジンは、確かに今後の惑星探査で大いに使われるでしょう。 ただ、「はやぶさ」のイオンエンジンは、確かに実証はできたにしても、より長く、 安定に動作するイオンエンジンはより遠くへ行くためには必要でしょう。
また、エネルギー確保技術が、これから先は重要になると思います。 特に、第2波の月・惑星探査である「着陸+ローバー探査」では、その場所にとどまって探査をすることになりますから、 夜の間のエネルギー源をいかに確保するかが重要になります。
このようなエネルギー源として、これまでは原子力電池が使われてきましたが、 プルトニウムを使うことへの拒否反応が多いことから、新しい電源が求められてきました。 そのために期待されているのが、燃料電池、それも再生型燃料電池という技術です。
再生型燃料電池は、昼間のうちに水を水素と酸素に分解、夜にはこの分解した酸素と水素を結合させて、 水とエネルギー(電力および熱)を得るという技術です。いま期待されているのは、月面での滞在技術です。 14日間の夜を克服するためには、重たい2次電池(普通の充電池)ではなく、こういった技術が求められます。
しかし、まだこの再生型燃料電池は技術的に確立していません。 これができれば、月面滞在だけではなく、例えば将来的な外惑星探査(木星探査など)にも応用できるかも知れませんし、 月・惑星探査への幅広い展開が期待できるでしょう。

「はやぶさ2」のほかに、「はやぶさMarkⅡ」という計画があるらしいですが、 どのような計画なのですか?(Tさん 47歳男性)

イオンエンジンは、確かに今後の惑星探査で大いに使われるでしょう。 ただ、「はやぶさ」のイオンエンジンは、確かに実証はできたにしても、より長く、 安定に動作するイオンエンジンはより遠くへ行くためには必要でしょう。
また、エネルギー確保技術が、これから先は重要になると思います。 特に、第2波の月・惑星探査である「着陸+ローバー探査」では、その場所にとどまって探査をすることになりますから、 夜の間のエネルギー源をいかに確保するかが重要になります。
このようなエネルギー源として、これまでは原子力電池が使われてきましたが、 プルトニウムを使うことへの拒否反応が多いことから、新しい電源が求められてきました。 そのために期待されているのが、燃料電池、それも再生型燃料電池という技術です。
再生型燃料電池は、昼間のうちに水を水素と酸素に分解、夜にはこの分解した酸素と水素を結合させて、 水とエネルギー(電力および熱)を得るという技術です。いま期待されているのは、月面での滞在技術です。 14日間の夜を克服するためには、重たい2次電池(普通の充電池)ではなく、こういった技術が求められます。
しかし、まだこの再生型燃料電池は技術的に確立していません。 これができれば、月面滞在だけではなく、例えば将来的な外惑星探査(木星探査など)にも応用できるかも知れませんし、 月・惑星探査への幅広い展開が期待できるでしょう。

「はやぶさ2」のほかに、「はやぶさMarkⅡ」という計画があるらしいですが、 どのような計画なのですか?(Tさん 47歳男性)

「はやぶさMark II」とは、「はやぶさ2」のあとに計画されている、次世代小惑星探査計画です。
もともと、「はやぶさ」後継機である「はやぶさ2」計画は、2006年頃から本格的な検討が始まりました。 この際、探査機を新たに一から開発するよりは、既存の「はやぶさ」の設計をできる限り活かして、 短期に次の探査機を打ち上げるという構想が採用され、次期小惑星探査の「はやぶさ2」は、 「はやぶさ」の機体を最小限改良して打ち上げる方針となりました。現在、「はやぶさ2」の打ち上げは、2014年頃を予定しています。
これに対し、大幅に改良された探査機によって、新しい小惑星探査を行おうというのが、「はやぶさMark II」の考え方です。 当初は、「はやぶさ2」「はやぶさMarkII」の両方について構想が練られていましたが、 その後(2007~2008年頃)、JAXAの予算不足などに直面したことから、 このMark IIに関してはまったく新しい考え方で進まざるを得なくなってきました。 このとき、たまたまヨーロッパで同じような小惑星探査計画「マルコ・ポーロ」が構想されており、 「はやぶさMarkII」は結果として、この計画に合流し、日欧合同の小惑星探査計画として構想されることになります。
ところが、この「マルコ・ポーロ」については、なかなか欧州宇宙機関(ESA)の審査を通ることができていません。 現時点では、計画を改良した「マルコ・ポーロR」という形で、ESAの予算を得ようとしていますが、 この計画が通るかどうかは予断を許しません。 そのこともあって、「はやぶさMarkII」の実現見通しも不透明ということです。

「あかつき」について、現状どのようなリベンジミッションが考えられているのか、 具体的なことを教えてください。(Kさん ?歳女性)

「あかつき」については、金星周回軌道投入が失敗したあと、 現在はその分析、及び再投入ができないか、できるとしたらいつになるのか、といった部分を分析しています。
特に、今回の場合は、本来逆噴射の際に噴射が行われるべきエンジンが予定より短い時間しか作動せず、 エンジン自体が壊れたのではないか、というおそれがあります。 この部分がどうなっているかによっては探査全体の問題にも関わってきますので、 チームとしては、金星周回軌道投入の際に何が起こり、それに応じて今後どのような対策が可能なのか、 といったことを分析しているところです。今年中にはその結論が出てくると思います。
今のところ、「あかつき」の軌道は、2017年に金星周回軌道へと再投入できる位置にはありますが、 探査機の状況やエンジンの様子などを慎重に分析しながら、今後の探査を決めていくことになると思います。
また、新しい探査、という点については今のところまだそこまでは考えられていませんが、 現在ヨーロッパが行っている金星探査「ビーナス・エクスプレス」のデータを利用していくというのが現在考え得るシナリオです。

エウロパなどで生命探査をする場合、 どのような探査装置・分析装置がふさわしいと先生はお考えでしょうか?(Yさん 42歳男性)

エウロパで生命探査をする場合、 最大の問題は、生命が存在するとされる海が地下にある、それも数十キロメートルの氷の地殻に覆われているということです。 そのため、上空から写真やスペクトルを取得したとしても(普通の周回探査では)、直接生命につながるような発見、 例えば有機物の存在や海の温度の測定などは不可能です。
いちばんいいのは、直接地下を探査できるような装置を持って行くことですが、 数十キロのドリリングマシンをエウロパまで運ぶというのは、現行の探査技術でも相当大変なことでしょう。 そこで活躍しそうなのが、地震波測定装置です。
地震波を使って地下を探査すれば、地下の海がどのくらいの深さにあり、 また海の深さがどれくらいか、といったことが確実にわかります。 ただ、エウロパには自然地震があるかどうかわかりませんので、地震波の発生源を持って行く方がよいでしょう。 そのため、発生源(上空から落とすおもりのようなもの、 小型爆発物、あるいは振動を起こすような装置など)と地震計を、 できれば2?3個パックにして持って行くことが考えられます。 これは、現在開発が進められている、月探査用のペネトレーターを拡張すれば可能な範囲です。
一方では、現時点では上空からの詳細探査が主です。 海の痕跡、特に氷の地殻に現れる海の痕跡をみつける、ということがまずは先決だと思いますので、 今後そのような探査が(早ければ2010年代にも)行われるかも知れません。

宇宙人がつくった探査機って見つかっていないんですか? また、宇宙人を探査している探査機ってあるんですか?(Uさん ?歳男性)

大変残念ながら(?)、 今のところ、「間違いなく宇宙人が作った」という探査機はみつかっておりません。 もちろん、UFOといった荒唐無稽な話は別としてですが。
また、宇宙人を探査しようとしている探査機ですが、直接宇宙人を探査するのではなく、 宇宙に生命(できれば高等生命)が住めるような環境があるかどうかを調べようとしている探査機としては、 各種の天文衛星(特に赤外線天文衛星)が挙げられるでしょう。
また、将来的には、月の裏側に天文台を設けて外宇宙からの電波を捉える (つまり、電波望遠鏡を作るということです)こともあり得るでしょう。 月の裏側は、地球からの電波が届くことがなく、そのため、他の文明がもし電波を発していれば、 それを捉えるのには理想的な環境だからです。
また、太陽系内に生命が入るかどうか、あるいはいることができる環境があるかどうかを調べる、 という意味では、火星探査機や、計画されている木星探査(水の地下海が存在しているといわれる)などが該当するでしょう。 ただ、宇宙人のような高等生命は、おそらくは太陽系内には存在しないと思いますので、 みつけられたとしても微生物クラスになってしまいそうです。それでも、大発見であることには間違いありません。

周回軌道探査機と地上探査機、いろいろこれからも打ちあがるようですが、 同じ惑星でも周回探査と地上探査だと、地上探査の方が色々調べられそうですが、 周回で調べるのは(地上探査と)目的が違うからでしょうか?素人考えですが、 周回よりも地上用を目的として作ったほうがいいと思うのですが……。(Hさん 29歳女性)

はい。その通りです。
周回探査は、表面(できれば全球)をまるごと調べることを目的としていて、 地上探査は、1ヶ所をできる限り精密に調べることを目的にしています。 ローバーを使うとすれば、地上探査でもある程度の範囲を調べることは可能ですが、 せいぜい数キロのエリアになりますので、この点で周回探査とは大きく異なってきます。
基本的には、講演でもありましたが、まず周回探査で全体を調べた上で、 着陸に適する場所を見つけ出し、その後着陸探査を行う、という形にします。 探査機を下ろすのはいいが、危ない場所に下ろしてしまった、ということになりますと、みすみす高価な探査機を無駄にしかねません。
一方、周回探査は周回探査で、着陸探査やローバー探査では調べきれない、全球、あるいは全球のかなりの部分を調べることが可能です。 また、最近は上空から観測するカメラなどの精度も飛躍的に高まっていて、周回探査でもかなりのことがわかるようになっています。例えば、火星探査機「マーズ・リコネサンス・オービター」が搭載しているカメラは、 なんと1メートルの解像度を持っていて、火星はいまや地球並みに表面の様子がわかっている、といえます。
ただ、上空からみたものが本当のところはなんなのか、ということは、 実際に地上をみてみるまでは確かなことはいえません。これは地球(地球観測衛星)でも同じことはいえますが、そのためにも次の段階として、ちゃんと地上を調べなければならないのは確かです。

セレーネ2の実現度は?(?さん ?歳女性)

今のところ、日本は月探査に関して、3段構えの計画を立てています。 政府の組織である宇宙開発戦略本部の下部組織である月探査に関する懇談会では、その最初の段階として、2015年をめどにした月着陸、2020年頃をめどにした、月の南極からのサンプルリターン計画、そして、2025年以降には、人間(まぁ、日本人でしょう)を月に送ろうという計画を考えています。
ところが、この計画はJAXAが持っている月探査計画と一致するものではありません。つまり、「2015年の月着陸計画=セレーネ2」というふうには必ずしもなっていないのです。
おまけに、JAXAはいま数多くの衛星開発計画を抱えていて、 月・惑星探査にその中の予算をいくら回せるかについてはまったくはっきりしていません。そしてただでさえ予算に限りがある現状で、どのくらいの額を月・惑星探査に回せるかは、 正直いえばかなり厳しいといえるでしょう。
それでも、セレーネ2はJAXAの中でも基本的にはかなり優先度が高い位置にあるように思えますので、実現性は高いとは思います。 ただ、問題はそれが「いつ」「どのような形で」実現するのかで、それについてはまったくわかりません。 個人的には、早く実現することが命ですから、1日も(1年でも)早い計画実現を望みたいところです。

ソーラーセイルの将来性について先生はどうお考えですか? 惑星探査に使える技術になりうるでしょうか?(Iさん 30歳男性)

ソーラーセイルは、今後実現が期待される惑星探査技術の中でもかなり重要なものです。
太陽光の圧力だけを利用するという意味では、推進力としては非常に小さなものとなりますが、 その分帆の大きさが大きくできれば、その弱点を解消することができます。
ソーラーセイルが活用できるのは、特に外惑星探査でしょう。例えば…

  1. 打ち上げは地球周回の宇宙ステーションから。
  2. 打ち上げ後すぐに帆を拡げ、そのまま外惑星領域まで航行。
  3. ある程度目標天体に近づいてきたら、ここで減速エンジンを吹かし、
    目的の天体の周回軌道投入、あるいは着陸などを行う。

といったシナリオが想定されます。 この場合大きな打ち上げロケットも必要ありませんし、システム全体を単純化にできますので、耐久性も向上するでしょう。
2010年に打ち上げられた工学実証衛星イカロス(IKAROS)は、太陽光推進を実証しただけではなく、 金星フライバイなどの複雑な軌道制御も行っています。 今後もまだ実験は続きますが、これにより、上記のような外惑星探査のシナリオが俄然現実味を帯びてきました。 今後の実用化などに大いに期待しましょう。

探査機には、たくさんの機能を積むことはできないのですか? 例えばひとつの衛星だけではなく、次の星とかそこから別の星を望遠鏡でとるとか……。(?さん 39歳男性)

確かに、せっかく打ち上げるチャンスがあるのだから、 探査機にいっぺんにいろいろな装置を積んで、それこそいろいろなことを調べたり、 周回したあと着陸したりローバーのように動いたりしたり、といったようなことができれば、 たくさん探査機を打ち上げることもなく、いっぺんにいろいろなことができるかも知れません。
この考え方は、実は日本の月探査衛星「かぐや」がそうでした。 2000年以前の「かぐや」の構想は、探査の最後に、探査機の推進部分が切り離されて着陸し、 将来の着陸探査を実証するという目的がありました。 これは様々な理由でなくなってしまいましたが、「かぐや」自身、通常の惑星探査機の3倍くらいもある、 14個の観測機器も搭載しております。
しかし、このように「たくさんの機能を積んだ探査機を打ち上げる」というのは、 実は実際にはかなり難しくかつ不利なことでもあります。 まず、たくさんの機器を積むことで、相互の機器の間の調整が必要になります。 例えば、ある機器が出す電波がほかの機器に影響を与える、というようなことがあると、 そのための調整をしなければいけません。この調整は結構バカにならない時間がかかります。
また、たくさんの機器を積んでいけば、電力も場所も予算も必要になります。 その一方、何かがあって探査機が不具合を起こすと、それだけの機器がいっぺんに使用不能になります。 つまり、ダメージが大きいわけです。
このようなリスクを避けるために、最近の傾向は、少数の機器を積み、1つの目的に特化するという探査が多くなっています。 1つだとさすがに少ない場合には2~3の目的を同時にこなす場合がありますが、 必ずしも無理をしないようにするという意味で、危機時大破かなり絞り込むことが多くなっています。
その代わり、小さな探査機を何回も打ち上げ、頻繁に探査をするようになっています。 一見すると無駄なようにみえるのですが、リスクを分散するという意味では、 このやり方が今のところはいちばん合理的なのです。

ボイジャーのような探査機に、 ひとつでいくつもの星を探査する方法や着陸をくりかえすような、開発が今後なされることはありますか? (?さん 39歳男性)

はい。あります。典型的なのが、今年9月に小惑星ベスタに到着する「ドーン」探査機です。
このような、複数天体への探査は、特に小惑星や彗星など、対象として多くの天体を選べる探査で実現する可能性があります。 ただ、その場合でも、着陸となると非常に難しいでしょう。 というのは、どんな天体であっても、着陸のあと離陸するというのはエネルギーを非常に使うだけではなく、 例えば離陸しない、離陸方向が違う、離陸して次の天体への軌道に乗らない、といった多くの危険要素があるからです。 その意味で、ドーンのように、1つの天体へ接近し、周回したあと次の天体へ向かう、という計画が、しばらくはこういった複数天体探査計画では主流の座を占めるでしょう。

スペースシャトルの次の計画はありますか? そのまま探査するような。(?さん 39歳男性)

アメリカが計画していた月・惑星探査計画「コンステレーション計画」では、 CEV(Crew Exploration Vehicle. 日本語に訳すと「乗員輸送機」)という名前のカプセル型端船が計画されていました。
CEVは、月や火星にまで行ける能力を持つ一方で、地球と宇宙ステーションを往復する機能を持ち、 いわばスペースシャトルを代替する一方で、さらに多くの機能を持たせる「万能宇宙船」として活躍するはずでした。 CEVは人員輸送だけが目的なので、大きなものを打ち上げるのには、大型ロケットで荷物輸送専用の打ち上げを行うことになります。
しかし、アメリカの宇宙予算(政府予算)の逼迫に伴い、コンステレーション計画が中止されたこともあり、 CEVについても開発は中止されるものとみられています。
次世代のシャトルについては、民間が開発している宇宙船を使う案や、 X-37Bなどの開発中の宇宙船を投入する案がありますが、いずれにしてもアメリカの宇宙探査では、 後継機不在の状態が続くことになります。

ハッブル宇宙望遠鏡で探査機を撮影することは可能ですか?(?さん 39歳男性)

せっかくですので、 月探査情報ステーションのFAQ(よくある質問)コーナーから出発しましょう。
望遠鏡で月をみるとどのくらい細かく見えるのですか? 探査機の画像と比べてどうでしょうか?(外部サイトが別ウィンドウで開きます)

ここで、ハッブル宇宙望遠鏡を使って月を観測した例が出てきますが、 月面でのハッブル宇宙望遠鏡の解像度は90メートルです。 これは、普通の探査機の大きさ(せいぜい数メートル四方)とは比べものにならないほど小さく、 月面に探査機がいたとしても(あるいは月の周りを探査機が周回していても)、ハッブル宇宙望遠鏡で観測するのは難しいでしょう。
もっとも、将来的に国際宇宙ステーション並の巨大な探査機が月の周りを回っていたりすれば、それを捉えられる可能性はあります。 また、ハッブル宇宙望遠鏡の後継機はより解像度が上がることが期待されますので、 いつかは宇宙望遠鏡で月の周りを回る探査機、あるいは月面の着陸船などが捉えられるかも知れません。

日本が惑星探査のターゲットを、 何故、小惑星や小天体にしぼったのでしょうか?(Oさん 50歳女性)

実際には、例えば宇宙研の「のぞみ」のような火星探査機も打ち上げられていますし、日本初の惑星探査は、彗星探査の「さきがけ」「すいせい」でした(1985年打ち上げ)。 金星探査機も打ち上げられていますし、「ミーロス」(MELOS)と呼ばれている火星探査(2020年代初頭の実現を目指す)も 現在研究者の間で活発に検討が進められています。
ただ、日本が火星を含め、固体の天体の探査が多いのは、まずは行きやすいということがあります。 小惑星といっても、「はやぶさ」が向かったのは、地球に割と近いところにある小惑星(地球近傍小惑星)で、 火星と木星の間にある小惑星ではありません。 近ければ、ロケットも小さくて済みますし、通信や軌道の調整などもやりやすいということがあります。月も同じ理由です。
もう1つは、日本はもともと、固体天体の探査につながる学問が得意だったということがあります。地質学は世界でもトップレベルですし、鉱物学も長い歴史があります。地震学は、地震国日本のお家芸といってもいいでしょう。こういった基盤がフルに活かせることから、 日本は固体天体の探査が多いということもいえますし、また探査をする際に科学者から要望が多いのも こういう天体だということはいえるでしょう。

冥王星は惑星ではありません。 しかし最近、惑星が(発見されていないものが)ありそうだという話もあります。 このような新惑星発見に向けた探査機の打ち上げなどの予定は日本ではないのでしょうか?(Oさん 50歳女性)

新しい惑星を発見する方法としては、直接探査機をありそうな場所に飛ばすこと、そして、地球周辺から望遠鏡で観測するという2つの手があります。望遠鏡の場合、宇宙望遠鏡を使えば、地球から観測するのに比べても飛躍的に精度が上がりますので、このような望遠鏡を使った太陽系の外縁部の観測が重要でしょう。
望遠鏡の場合、いろいろな波長での観測を行う必要がありますが、こういった衛星は日本でも海外でもいろいろと打ち上げられていますので、 これらの衛星が何らかの形で、海王星の外(冥王星の外?)の惑星をみつけるということは考えられるでしょう。
また、巨大化し、観測能力が飛躍的に高まった地上望遠鏡も大きな可能性を秘めています。実際、これまでみつかっている太陽系の外縁天体(準惑星など)の多くは、こういった地上望遠鏡で観測されたものです。
直接探査して発見するものとしては、いま飛行中のニューホライゾンズ探査機に期待がかかります。この探査機の直接の目的は、冥王星をフライバイし、その観測を行うことですが、 それが終わったあと、2016年頃をめどに、冥王星の外側(正確には、海王星の外側)にある天体を探査することになっています。
この探査が実現すれば、いままでみつかっていなかった惑星、少なくとも準惑星クラスのものをみつけられる、あるいはうまくいけば実際にフライバイで探査を行える可能性もあります。

もし、宇宙開発よりも福祉などを優先すべきというような世論が大多数になった場合には、 開発に携わる側の人間はどうしていくべきだと思ってらっしゃいますか? お金ありきの開発だと思うので、存続が厳しくなりそうな気がするのですが……。(Aさん 22歳女性)

確かに、現時点でも「宇宙開発は人類の役には立たない」 「宇宙開発に回すお金を福祉などもっと直接的に役に立つ領域に回すべき」という意見は少なからずあります。
このような場合、私たち宇宙開発に携わるものとしてとるべき方向は、いくつかあります。 まずは、宇宙開発がいかに役立つか、また(いまは直接的利益を生み出さなくても) 将来的には国としての利益や新産業創出といった点で多くの利益を生み出すのだ、ということを、 いろいろなところで説明していくことでしょう。 その場合には数字による説得も必要ですし、実例を挙げていくことも必要でしょう。
また、宇宙開発で現時点で使っているお金がどのくらいなのか、ということをもっと広く知らせることも必要でしょう。 現時点でJAXAが宇宙開発に使っているお金は2000億円ほど、民間などを入れても1兆円にすら遠く届きません。 福祉は既に現時点で数十兆円という規模です。将来への投資をここで切ってまで宇宙開発のお金を福祉に投入したとしても、 すぐに福祉が改善するわけではない、ということです。
3つめは、そもそも国のお金に頼らずに宇宙開発を進めていく方策を考えることです。 例えば民間企業が宇宙開発に乗り出す、あるいはお金持ちからの寄付を元にして探査を行う、といった枠組みを作っていくことが重要です。
この点でいまいちばん障害になっているのは、法律面の整備です。いまの法律は国が宇宙開発を行うことを想定していて、民間参入についてはほとんど考慮されていません。この辺が変わってくれば、将来的には月・惑星探査は「国主導」から「民間主導」へと大きく舵を切る可能性すら残っています。その意味で、講演で触れた「グーグル・ルナー・Xプライズ」は大きな潜在的可能性を秘めていると思います。
その意味で、広報、さらには広い意味での広報(開発側からの働きかけと情報公開)は重要です。

新しい発見をするために、独創的な観測をするためにはどうするべきでしょうか? 教育とか広報とか……(?さん 45歳男性)

独創的な観測といっても、実際には長い間の観測、そして一瞬訪れたビッグチャンスをうまくつかむ努力が必要です。 「天才は1日にしてならず」とはいわないかも知れませんが、発見の裏には、忍耐と努力はどうしてもつきものではあります。
特に、短期的な成果を求めれば求めるほど、こういった先端科学が萎縮してしまうことが問題です。 短期的な成果を求める→得られない→予算が削られる→さらに成果が出ない…という負のスパイラルに落ち込んでしまうと、ひょっとしたらあり得るかも知れない発見や観測成果をみすみす逃してしまうことになってしまいます。
このようなことを避けるためには、基礎科学の充実、ということが重要になってきますが、かといってただ黙って「予算をくれ」では、国民は納得しません。基礎科学がどのように国民生活や社会の役に立つのか (実際に、基礎科学の代表のような数学はいまのインターネット社会で非常に重要な基盤の役割を果たしています)、それを上手にかつ正確に伝える広報、あるいは一般の人への働きかけ(アウトリーチ)が必要です。
また、教育の分野でも、ただ単に黙って覚える(覚えさせる)だけではなく、「これを理解するとどのようなことがわかり、どのような点で将来の役に立つのか」 (もちろん、お金を稼ぐとか、直接的ではないものもあるとは思いますが)ということを子どもたちに考えさせ、 さらには伝えていく工夫が必要になると思います。

ちょっと分野が違いますが、今回の「だいち」の件と今後の日本の地球観測について、 (国策と民間の両方で)先生の見解を教えてください。(?さん ?歳男性)

「だいち」は、4月22日に突然衛星の電力が失われるという異常に遭遇し、 回復の可能性は現時点で極めて低いとみられています。 実際には、衛星の設計寿命3年、また目標寿命が5年で、打ち上げが2006年1月でしたから、見事なくらい寿命通り(目標通り)だったといえましょう。
「だいち」はこれまでにも非常に多くの観測を行っており、また、今回の東日本大震災を含め、日本や世界各地の多くの災害に関して緊急観測を行い、そのデータは全世界で役立てられてきました。その意味で、寿命をまっとうしたとはいえ、まだまだがんばって欲しかった衛星でもあります。
ただ、これだけ重要な役割を担っている衛星なのであれば、寿命と同時に、後継衛星の打ち上げを速やかに考えておくべきではないでしょうか。現在、「だいち」後継機としてALOS-2の打ち上げが計画されてはいますが、打ち上げ予定は2014年度とまだまだ先です。
一方で、同じように地球を「観測」している情報収集衛星というものもあり、こちらの画像がどう活かされているのか、といったことはまったくわかっていません。
「だいち」によって、地球観測の画像が私たちの暮らしに役立っていることが直接実証されたばかりか、観測画像によって日本の外交上の地位向上も図れるということがわかった以上、この分野により大きな力を割く必要があると私は考えます。また、同じ「観測」衛星としての情報収集衛星が多くの予算を使いながら極めて不透明な運用を行っている現状は、 早急に改めなければいけないと考えます。

※追記:陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)は平成23年5月12日に運用終了しました。

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