プラネタリウム

第61回 宇宙のはじまり 地球・生命の起源をもとめて

我々の住む地球そして我々の体は、炭素、酸素、鉄などの様々な元素によって構成されています。では、これらの元素は宇宙の歴史の中でいつ・どこで・どのように生み出されたのでしょうか? 宇宙のはじまりと元素の起源について概観し、太陽系形成までに至る宇宙の進化を物質循環の観点から解説をしていただきました。

概要

日時

平成23年10月29日(土曜日)

講師

野沢 貴也氏(東京大学国際高等研究所 数物連携宇宙研究機構(IPMU) 特任研究員)

講演プログラム(当日配布したレジュメより)

  • 数物連携宇宙研究機構(IPMU)の紹介
  • 宇宙の歴史をダイジェストで見る

宇宙のはじまりと膨張

宇宙の一番星ができるには?

宇宙は将来どうなるか?

  • 元素の起源と物質の循環

星の一生は生まれた時に決まる

宇宙を照らす星の大爆発

宇宙塵はいつどこでできるのか?

  • 質疑応答

聴講者からの質問と講師回答

ビッグバン前はどういう状態だったのですか?仮に無として、無とはどういう状態ですか?(Dさん 男性・33歳)/宇宙ができる前は何だったのでしょうか?はじめはなにができたのでしょうか?(Uさん 女性・39歳)

《質問を2つまとめて回答しています。》ビッグバンが起こる以前、すなわち宇宙ができる前がどういう状態であったのかは、現時点ではわかっていません。もし仮に宇宙がはじまる前が無であったとすると、無とは物質もエネルギーも存在せず、物質が存在する空間もなく、また時間も流れていない状態のことです。では、無からどのように宇宙がはじまったのでしょうか?この問題を解くためには、量子論と一般相対論を融合した理論が必要であると考えられており、多くの研究者たちがその理論を完成させようとしています。

宇宙の果てはあるのでしょうか?日々延々と続いていくのでしょうか?(Mさん 女性・36歳)/宇宙とは、どこまで存在するものとして定義しているのですか?(Sさん 男性・62歳)

《質問を2つまとめて回答しています。》→宇宙の果てについては二通りの解釈があります。一つは、私たちが観測することができる限界、という意味の宇宙の果てです。この解釈では、私たちは137億年前のビッグバンの名残を宇宙マイクロ波背景放射として観測できているので、宇宙の果ては137億光年ということになります。ただし、この背景放射が137億年かけて私たちに届く間も宇宙は膨張し続けていたので、この宇宙の果てが現在では466億光年の大きさにまで広がっているということが、一般相対論の宇宙の基礎方程式などから導かれます。もう一つの解釈は、空間的な広がりという意味での宇宙の果てです。この場合は限界があるかどうかはわかりません。空間が無限に続いているかもしれませんし、宇宙の一方の果てともう一方の果て同士がつながっていて、宇宙を一周すると元の場所に戻ってしまうようなこともあり得ます。それゆえ、宇宙に果てがあるかどうかを知るためには、まず宇宙の形を知る必要があるわけですが、仮に宇宙の果て同士がつながっていたとしても、宇宙の一周は466億光年よりは大きいことは間違いなさそうです。

宇宙が遠いほど早くとおざかっているということは、ビッグバンがおこった位置(方向?)はわかっているのでしょうか?(Sさん 女性・?歳)

宇宙全体が膨張しているということは、宇宙のどの場所にいてもやはり周りの宇宙は遠方ほど早く遠ざかっていることになります。つまり、宇宙全体が広がっている中では、私たちが宇宙のどこにいるのかがそもそもわからないのです。それゆえ、ビッグバンが起こった本当の位置(方向)を知ることはできません。ビッグバンとは宇宙の全ての物質が一点に集まった状態ですので、宇宙全体がビッグバンの中心と考えるのが正しいのかもしれません。

宇宙の膨張は物質の方が反物質よりも少しだけ多かったが故に生じたと説明されていますが、そのことと「宇宙のゆらぎ」の話とはどうつながるのでしょうか?(Tさん 男性・38歳)

宇宙のゆらぎは、宇宙の極めて初期にあった量子ゆらぎがインフレーションによって引き伸ばされたものだと考えられています。一方、宇宙初期に存在していた反物質は、物質との対生成という反応によって質量がエネルギーとして放出され、完全になくなります。これらの反応はインフレーションの後に起こったものだと考えられており、反物質の消滅とゆらぎとの直接の因果関係についてはよくわかっていません。

WMAPの解析からわかる銀河の統計的性質は何ですか(計算と一致する性質は何ですか)?(Sさん 女性・36歳)

これをまともに答えようとするとあまりにも複雑になりますので非常にかみ砕いて回答しますが、まず宇宙の大規模構造は宇宙初期のゆらぎが成長することにより作られるものだということは講演でお話ししました。一方、WMAPの観測からそのゆらぎの空間的な分布も明らかにされています。そこで、WMAPのゆらぎが空間的にどのように分布しているのかを調べ、理論的な計算の助けを借りることによって、現在の銀河の分布が予測できるわけです。その計算から予測される銀河の分布と実際に観測されている銀河の分布が良く一致しているのです。※WMAP・・・アメリカ航空宇宙局(NASA)が2001年に打ち上げたマイクロ波観測衛星、Wilkinson Microwave Anisotropy Probe(ウィルキンソン・マイクロ波異方性探査機)のこと。

宇宙のゆらぎのお話がありましたが、星がある所と無い所の画が、人間の脳の血管の画や樹木の枝のように見えてなりません。生命と宇宙の関係はありそうですか?(Kさん 女性・31歳)

これはとても面白い発想ですね。確かに似ている気がします。現在の宇宙における銀河の大規模構造は、宇宙初期の密度ゆらぎから発生したものです。もし人間の脳や血管、樹木の枝も何かのゆらぎから発生したものであれば、生命と宇宙の関係があると言えるかもしれません。しかしながら、生命の誕生や構造にゆらぎは必ずしも必要でありませんので、その見かけが類似していても生命と宇宙の関係があるとは言えないでしょう。

一番最初に星ができるきっかけは何なのですか?(Mさん 男性・47歳)

宇宙初期においては、物質(水素・ヘリウムガス)の分布はほぼ一様であったわけですが、宇宙のゆらぎによって生じたわずかに密度の高い部分が、重力(引力)によって物質を引きよせてさらに高い密度へと成長し、そこで宇宙で最初の星ができます。ただ、ガスの弱い引力だけで物質を集めて星をつくろうとすると宇宙の年齢を超えてしまうので、宇宙の年齢を超えないで星をつくるために、目には見えないが重力をもつ暗黒物質の存在が必要になるのです。

大規模構造は、トップダウンとボトムアップのどちらが主要因と先生は考えていらっしゃいますか?(Oさん 女性・50歳)

現在有力となっている宇宙の大規模構造形成のシナリオは、まず小さいスケールの構造ができ、それらが合体・成長することによってより大きなスケールの構造ができるというボトムアップ説です。はじめに、超銀河団のような大きなスケールの構造ができ、それらが分裂して順に銀河団、銀河と小さいスケールの構造ができるというトップダウン説は、今ではほとんど受けいれらていません。

今日お話されたシミュレーションなどの計算は天文学者が自分でするのですか?IPMUで数学担当の方は、主に何をされているのでしょうか?(Tさん 男性・46歳)

天文学におけるシミュレーションは、天文学者が自分でそのシミュレーションのプログラムを書いて計算をしています。より具体的には、研究している対象に関係するあらゆる物理・化学過程の方程式をプログラムに組み込み、ある初期条件を与えることによってシミュレーションを実行しているのです。IPMUでの数学者は、物理学者と密接に連携して宇宙の謎を紐解くための近代数学の研究に取り組んでいます。ここでは具体的なことは述べませんが、重要なことは、「宇宙は数学の言葉で書かれている」とガリレオが述べたように、宇宙の物理法則を理解するためには、数学の発展なしでは成し遂げられないということです。実際、ニュートンは力学法則を記述するために微分積分を確立しましたし、アインシュタインの一般相対論もリーマン幾何学という数学を発展させることによって確立されたものなのです。

宇宙空間の温度はどのくらいなのでしょうか?(Mさん 女性・36歳)

宇宙には、主に水素ガスとヘリウムガス(とちょっとの塵)があるわけですが、地球の大気と比べると極めて希薄です。気温とは大気の温度のことを言うので、ほぼ真空に近い宇宙では気温という概念は基本的にはありません。それゆえ宇宙空間の温度というと、宇宙空間に満ちている光の温度のことを差します。現在の宇宙は、2.725ケルビンの温度に対応する宇宙マイクロ波背景放射に満ちているので、宇宙空間の温度は2.725ケルビンだとすることが多いです。実際には、宇宙空間に存在する物質は星からの光を吸収して2.725ケルビンよりも暖められます。すなわち、宇宙空間のある物質の温度は星からの距離によって決定されるが、2.725ケルビンより低くなることはない、ということです。

昭和19年頃、星空はエントロピーは十にしか仂かないので、星は拡散していると聞きましたが、今もその考えはないのでしょうか?(Aさん 女性・85歳)

確かに「孤立系のエントロピーは増大する」という熱力学第二法則から考えると、宇宙のエントロピーも増え続けていることは間違いありません。そして、そのエントロピーが最大になるときは宇宙のエネルギーがすべて均等に分布されることを意味するので、最終的には星が均等に分布するように星が拡散されていると考えることもできるようです。ただし、重力や量子効果がはたらく複雑な宇宙の中で、熱力学だけもとにしたこの単純な考え方がよいのかどうかは、今となっては非常に疑わしいようです。

宇宙の大変革とは? 宇宙はそのまま(今ある形?)が当たり前なのでしょうか?(?さん 男性・40歳)

宇宙の大変革という正式な言葉はないのですが、「宇宙にはじまりはなく、時間によって変化しない」という考え方から、「宇宙ははじまりがあり、時間とともに変化する」という考え方に変わったのは、宇宙の研究の歴史の中では革命的な出来事です。現在の理論では、宇宙はビッグバンから始まり、宇宙初期のゆらぎによって星や銀河、大規模構造ができ、現在も宇宙は膨張しながら常に進化し続けている、というのが定説になっています。

カミオカンデのような陽子崩壊が心配です。現実見つかったら、宇宙はなくなってしまいますか?(?さん 男性・67歳)

陽子崩壊とは、原子の中心の原子核を構成する陽子が分裂してしまう現象ですが、この陽子崩壊は今のところ確認されていません。スーパーカミオカンデなどを含めた実験結果から、陽子の寿命は少なくとも10^33年(1千億年の1千億倍のさらに1千億倍)と見積もられているので、まず現実には起こらないと思ってよいです。陽子崩壊によって宇宙がなくなってしまうことはありませんが、宇宙膨張が永遠に続いて物質同士が切り離されるほど宇宙が希薄になってしまうと陽子崩壊も起こります。ただ、陽子崩壊が起こる前にすべての物質は超巨大ブラックホールに飲み込まれてしまうようです。

地球がブラックホールにのみこまれてしまうことはありますか?(Yさん 女性・28歳)

地球の最後としては、およそ40~50億年後に太陽が地球の軌道ほど大きくなって、地球が太陽に飲み込まれてしまうと考えるのが一般的です。ただ、アンドロメダ銀河が秒速300キロメートル/秒で我々の天の川銀河に近づいているという事実から、およそ30億年後にアンドロメダ銀河が衝突するとも言われています。仮にアンドロメダ銀河が衝突しても、銀河内の星が地球にぶつかる可能性は非常に小さいと見積もられていますが、たまたま地球がアンドロメダ銀河の中心部にぶつかり、その中心にある巨大ブラックホールに飲み込まれてしまうという可能性は、極めて小さいですがゼロではありません。

最近、超光粒子タオキンが確認されたというニュースを耳にしました。まだ反対の立場をとる学者も多いらしいですが、個人的には恐らく相対論と量子力学との見解の相違をうめてくれるのではと思うのです。光よりも速いものはないという相対論がくずれれば、従来型の宇宙モデルに大規模な訂正をせまるのでしょうか?そのあたりの影響について教えてください。(Tさん 男性・41歳)

はい、最近OPERAという国際共同実験グループが、ニュートリノの速度は光速(秒速約30万キロメートル)よりも秒速約6キロメートルほど速いということを報告しました(タキオンという言葉は、光速より速いと仮定されている粒子の総称です)。この実験結果については、まだ賛否両論ありますが、もしこれが事実であったならば、光速よりも速いものはないという考えの下で確立された相対論を見直す必要があります。ただし、相対論によって私たちが観測できる様々な現象は説明されていますので、相対論が実は間違っていて修正をしなければいけない、というわけではありません。実際、相対論はニュートン力学を否定したわけではなく、むしろニュートン力学をより一般的に拡張したものなのです。つまり、今回の実験結果が正しければ、光速より速い物質の存在、相対論、ニュートン力学のすべてを統一的に説明できる新たな物理体系が必要になるのではないか、と私は考えます。

オリオン座の星雲は、なぜあんなかたちなのですか?(Sさん 女性・10歳)

星雲の形は、もともとどういう構造で星雲ができたかだけでなく、そこで生まれた星からの光や星から吹く風または超新星爆発の爆風によりガスがどのように吹き飛ばされるかによって決定されます。例えばオリオン座の馬頭星雲は、広がった星雲の中で馬の頭の形をした領域だけが極端にガスの密度が高かったため、そこだけ星からの光や超新星爆発の影響をほとんど受けずにそのままの形で残っているのだと考えられます。

赤外の映像で、オリオン座全体が赤い理由を教えてください。アソシエーションは関係ありますか? オリオン座の星が生まれたときの、もやもやですか(すばるのまわりみたいな)?(Uさん 女性・?歳)

オリオン座は、オリオン大星雲とよばれる水素ガスと塵が濃くなっている領域(分子雲)の中にあります。オリオン大星雲では、大量の新しい星が次々と生まれ続けており、星の集団(アソシエーション)を構成しています。オリオン座が赤外線で明るいのは、これらの星からの光によってあたためられた周囲の塵が赤外線を放出しているからです。すばる(プレアデス星団)のまわりのもやもやは、星団とは元々関係のない星間ガスが星の光を散乱しているものですので、性質は異なります。

冷たいチリとあたたかいチリとはどう違うのですか?(Aさん 女性・36歳)

冷たい塵もあたたかい塵も物質の性質としては基本的に同じです。もし近くに星があって星の光をたくさん吸収できるならば、あたためられやすいので塵の温度は高くなりますし、星から遠いところにあるならば、光をあまり吸収できないので塵は冷たいままとなります。感覚的には、どちらも大気のない岩石でできた天体であるのに、水星は太陽に近いため温度が高く(平均170度)、月は太陽からより遠いところにあるため温度は低い(平均-20度)、といったことと同じです。

太陽の中心は何でできているのですか?(Mさん 男性・47歳)

太陽は、その中心部で水素をヘリウムに合成する核融合反応から発生するエネルギーによって輝いています。従って太陽の中心は、水素ガスが合成されてできたヘリウムガスでできています。太陽の中心温度はヘリウムをさらにより重い元素に合成できるほどは高くないので、中心にはヘリウムガスの小さいコアがあり、その周りで水素ガスがヘリウムに燃えている、と言うのがより正確な言い方です。

星を維持している力は何によるものなのですか? 太陽は、H(水素)、He(ヘリウム)がたくさんあるとのことですが、惑星をつなぎとめている大きな質量をもっている様なので…。(Mさん 男性・47歳)

星は非常に質量が大きいため重力も非常に大きく、星を構成するすべての水素ガスやヘリウムガスを中心に集めようとします。それゆえ、この重力に対抗する何か外側に向かう力がなければ星はその中心につぶれてしまいます。星の中心では核融合反応が起こっており、その中心温度は非常に高い(1千万度以上)です。一方、表面に行くにしたがって1万度以下まで温度は減少していくわけですが、実はこの中心から外側への温度の減少によって外側へと向かう力が生じるのです。ややわかりにくい例かもしれませんが、地球上で風が吹く原因は空気に温度差があるとあたたかい空気が冷たい空気を押すように力を与えるためなのです。つまり、星の中心から外側に行くにつれて温度が減少しているので、星の中心から表面に向かって強い風が吹いているということになります。その外側に向かってはたらく力と内側に向かってはたらく重力とが釣り合っていることによって、星はつぶれることもなくその形を維持できるのです。ちなみに惑星が太陽に落ち込まないのは、太陽の重力と惑星の公転による遠心力が釣り合っているからです。

白色矮星になった後は、どうなりますか(時間的にはどのくらいの長さですか)? ハビタブルゾーンを持てるほどエネルギーは放出されますか?(Hさん 男性・50歳)

白色矮星とは、その中心部で核融合反応を起こさず、恒星のときの余熱で輝いている天体です。白色矮星は、形成時は1万度以上の温度を持ちますが、その後ゆっくりと冷えていって、最終的に冷え切ってしまうと光が出せなくなる黒色矮星になります。ただ、白色矮星は非常に小さく(重さは太陽くらいだが、地球くらいの大きさ)、それゆえ表面積が小さいので、光の放出によりエネルギーを失う効率が非常に悪いです。それゆえ、黒色矮星になるまでには、数百億年以上、すなわち現在の宇宙の年齢よりも長い時間がかかってしまうと考えられています。もし白色矮星が、連星系として(別の恒星と対をなして)いるのであれば、そのもう一方の恒星の表面の水素が白色矮星の表面に降りつもり、(白色矮星の質量が大きくなって)中心温度が上がり、中心で暴走的に核融合反応が起こって最終的に爆発することもあります。これがIa型という超新星爆発で、Ia型超新星は爆発のときの明るさがほぼ一様なので宇宙の距離を測る際に用いられます。宇宙が加速膨張しているという発見も、このIa型超新星の観測から得られたのです。 さてハビタブルゾーンとは、太陽の周りを回っている地球のように宇宙の中で生命が誕生・生存できる領域のことを言うわけですが、白色矮星は太陽よりもおよそ100倍も暗い(放出するエネルギーが小さい)ので、ハビタブルゾーンを持つとしても白色矮星に非常に近いところとなるでしょう。ただし、恒星は白色矮星になる前に、大きく広がった赤色巨星という段階を経過しますので、星のそばにあった惑星はそのときに星に飲み込まれてしまっているはずです(将来、太陽が膨れて地球を飲み込んでしまうように)。ですので、白色矮星には地球のような惑星は存在しないと思ってまず間違いありません。(実際、単独で存在する白色矮星には惑星は一つも見つかっていません。)

超新星爆発の次の候補はベテルギウスだそうですが、白色矮星での候補は何かあるのでしょうか?(Mさん 女性・17歳)

太陽の質量の8倍以下の星は、最終的に白色矮星になります。白色矮星の質量は太陽と同程度かそれより小さいので、星が白色矮星になる前に、もともとあった質量の多くを宇宙空間に放出(ダイエット)しなければいけないことは、講演でお話ししたと思います。それゆえ、これといって天体名を挙げることはできませんが、その質量が太陽の8倍以下で、現在活発に表面から物質を放出している天体が、白色矮星の時期候補となります。ちなみに、次の超新星の候補はベテルギウスだとお話ししましたが、これはあくまでも私たちに近い天体という意味での候補で、天の川銀河全体を考えれば、超新星爆発を起こしそうな候補はたくさんいます。

現在はないけれど、遠い将来南極星が生まれるということを聞いたことがありますが、可能性はありますか? (R・Mさん 69歳男性)

まず、この星が何世代目の星である、とは正確に言うことはできません。5代目かもしれませんし、100代目かもしれないわけです。私たち自身や生まれてくる赤ちゃんが人間の何世代目であるかは言えないように、宇宙全体の歴史がわからなければ、太陽もこれから生まれてくる星も何世代目かは正確に言えないのです。ただ、星の大体の世代を知るには星の重元素量を測ります。ビッグバンのときには、炭素より重い元素(重元素)は存在しませんでしたが、星は中心で合成した重元素を星間空間に放出し、その少しの重元素を含んだガスからまた星ができて重元素を合成・放出します。これらを過程を繰り返すことによって宇宙の重元素量は少しずつ増加していくのです。ですので、重元素量が多い星ほど最近できた星だということがわかるのです。2000年代に入って、重元素量が太陽の重元素量の10万分の1以下の星が数個見つかっています。重元素量が非常に少ないということは、上の話から極めて古い(宇宙初期にできた)星だということがわかります。これらの超低金属量星が、第2、第3世代の星なのか、それとも第1世代の星でその長い寿命に間に星間空間に漂う重元素が表面に積もったものなのかは研究者の間で熱い議論が交わされています。もし、重元素を全くもたない星が見つかったときは、それは紛れもなく第1世代(宇宙最初)の星だと言えるでしょう。

大きさ、とか、重さって何ですか? (T・Sさん 49歳男性)

宇宙空間における有機物をつくる一つのメカニズムとして考えられているのは、塵表面の氷の光触媒反応です。分子雲中では、非常に温度が低い(-260度くらい)ので、固体の塵の表面に、水や二酸化炭素、メタン、アンモニアなどの分子が氷となって付着します。その氷が星からの弱い光によって長い時間さらされると、お互いの分子が結合してアルコールやアミノ酸などの有機物が合成されることが、最近の実験によって明らかにされています。

宇宙塵の量は宇宙全体では今後増えていくのか、減るのか、それとも一定なのでしょうか?(Sさん 女性・?歳)

この質問はまさに私が明らかにしたい研究テーマですね。私の講演では、塵がいつどこでできるのか?ということのみをお話ししてきましたが、実は星間空間中にある塵は超新星爆発によって生じた衝撃波によって破壊されたり、新しくできる星の中に取り込まれたりして減少することも考えられます。塵の形成と破壊過程を考慮に入れて塵の量がどう進化するかを計算してみると、例えば私たちの天の川銀河系では、現在の塵の総量は減少しているさなかにあるという結果が得られています。また、色々な銀河を観測してみると、星の形成が活発な銀河は塵の量が多く、星の形成があまり起こっていない銀河は塵の量が少ないことが知られています。宇宙全体としては、星形成が最も活発だった時期は今からおよそ100億年前で、現在にかけて星の形成活動はゆっくりになっています。それゆえ、上で述べたように星形成活動と塵の量が関係しているとすると、宇宙全体の塵の量も減少していると考えるのが自然なのかもしれません。

人間が死んだら、元素になってまた地球上の物質(人間)になるということもあるのですか?(Sさん 女性・31歳)

そうですね。人間も様々な元素できていますので、人が死んで燃やされた時に、体を構成していた元素は空気中や土などにかえります。植物は土の中の栄養をすって育ち、動物は草木を食べ、私たちはその野菜や動物の肉を食べるとともに、空気中の酸素を吸います。その結果、元素が巡り巡って私たちの体内に入り込み、また人間の体を構成するという可能性はゼロではありません。私たちの体の元素の一部が、もともとは別の人間の体の中にあった元素であったかもしれないと考えると、とても興味深く感じますね。

超新星1987Aのリングはどうしてあのような形になるのでしょうか?(Sさん 女性・36歳)

超新星1987Aの周りには小さいリングがあり、さらにその外側に二つの大きなリングが超新星をはさんで対称的にあります。これらのリングは爆発の時にできたものではなく、星が爆発する前にその表面から星間空間に放出していたガスと塵なのです。このリング構造の成因についての一つの説は、超新星1987Aの爆発前の星(親星)は実は連星系であり、もう一方の星がその親星に飲み込まれたときにできた、とするものです。しかし、星が回転していてその回転の軸方向に沿って物質が放出されるとか、または超新星爆発の前に小規模の爆発を起こした結果リング構造ができたとか、色々な可能性も議論されています。講演でいくつかお見せした惑星状星雲(星間空間に放出した物質を中心の白色矮星が照らしている天体)の画像でも、球形だけでなく複雑な形状があったと思いますが、なぜそういった形になるのかはよくわかっていません。そもそも、星が星間空間にどのようにガスを放出するのかがよく理解されていないのです。

爆発で、Fe(鉄)などがつくられるようですが、Fe(鉄)のほかにも星によって造られるものが異なることがあるのでしょうか?(Tさん 女性・45歳)

超新星爆発を起こす星の質量や爆発の仕方によって、作られる元素の量は変わりますが、作られる元素の種類が大きく変わることはありません。ある超新星では少しの金を作るが、ある超新星では金を全く作らない、ということはあり得ますが、金の方が鉄より多く作られるとか、鉄はできないでウランばかりができてしまうとか、そういったことはありません。超新星で主に放出される元素は、鉄、酸素、炭素、シリコンなどで、これは宇宙に存在する元素として酸素や鉄が多い、ということをうまく説明できるのです。

惑星の数は、今見えている銀河(?)の数の数倍あると考えてもよろしいのでしょうか?(?さん 男性・40歳)

2011年秋の時点で発見されている太陽系外惑星(文字通り太陽系以外の惑星)は600個近くもあります。太陽は8つの惑星を持ちますが、観測された系外惑星を調べてみると、星一つに対して一つの惑星というのがごく普通なようです。単純に、一つの星が一つの惑星を持つとすると、私たちの銀河系にはおよそ1千億個の星があるので、惑星も1千億個ある、と見積もることができます。さらに、今見えている銀河が1千万個あるとすると、惑星の数はさらにその1千万倍あることになります。厳密には、銀河の年齢や星の質量の分布を考えて惑星の数を見積もる必要がありますが、少なくとも惑星の数は、見えている銀河の数、というよりは見えている星の数ほど存在していると考えた方が良いでしょう。

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