プラネタリウム

第63回 海を持つ月 氷の下に海を探る

木星や土星といった巨大惑星の衛星はみな表面が氷に覆われていて、一部の衛星の内部では氷が融けた「海」があると"予想"されています。海の存在は地球外生命も想像させ大きな注目を集めていますが、直接見つけたわけではない海の存在を研究者たちはどのように"予想"したのでしょうか? そのアプローチについて将来の探査計画とともに解説しました。

概要

日時

平成24年2月25日(土曜日)

講師

木村 淳 氏(惑星科学研究センター 北海道大学研究員)

講演プログラム(当日配布したレジュメより)

  • 岩の月と氷の月

太陽との距離と月(衛星)の関係

  • 木星の衛星「エウロパ」に海がある?

見た目からの予想

磁場観測からの予想

理論計算からの予想

  • 地球外生命はいるか?
  • 将来のエウロパ探査計画

米国・欧州とも手を組んだ全人類的ミッションへ

  • 質疑応答

聴講者からの質問と講師回答

水ではない氷でおおわれるサテライトはないのか?(Kさん 男性・54歳)

たくさんあります。例えば天王星や海王星は太陽から極めて遠いため、その衛星表面の温度は-200度以下になります(エウロパは平均約-170度)。それゆえに水の氷だけではなく、窒素やメタン、二酸化炭素などの揮発性がより高い氷も存在します。

エウロパの表面温度は?昼・夜(Hさん ?・?歳)

昼間の最高温度で約-150度、夜では約-220度になります。

塩水と言ってますが、地球の海と同じと考えてよいのですか?(Tさん 男性・9歳)

そのように考えてよいです。磁場観測の話を思い出して下さい。ガリレオ探査機に積まれていた磁力計は、木星磁場との電磁誘導によってエウロパに生じた二次的な磁場を捉えました。その観測結果は、エウロパの海水が地球の海水程度の電気伝導性を持っていると考えれば説明が付きます。我々はまだエウロパの海水を直接手にしてはいませんが、そのような解釈からエウロパの海水は地球の海と同じようなものと考えられています。

エウロパの海には魚がいそうですか?そして、そいつらマグロのようにうまそーだと思いますか?地球から魚をもっていって養殖出来そうですか?(Uさん 男性・38歳)

逆に、「いない」と言い切ることはできないですね。エウロパの海に何らかの生物がいる可能性は個人的には高いと思っていますが、それがどういった形なのかは想像もつきません。プランクトンのようなものかもしれないし、まさに魚のような高等生物かもしれません。それは行って見つけてみてからのお楽しみにしましょう。ちなみに魚がいたとしても私は食べてみようとは思いません。美味いかどうか以前に地球外生命を摂取して自分の身体を壊したくはないですから。地球から魚を持って行っての養殖は餌も持参すればある程度は可能かもしれませんが、それ以前に他天体に地球の生物を持って行く(そこの生態系を汚染する)こと自体が現状では許されない(極めて難しい)でしょう。

天体の質量の推定方法を教えてください。(Yさん 男性・43歳) 衛星の質量はどのように調べることができたのでしょうか?また、水(H2O)と決めたのは?エタノールとか他の気体とかはありえないのですか?(Uさん 女性・?歳) 平均密度はどのようにして求めるんですか?あと、海はどれ位の厚さあると思いますか?(Kさん 女性・17歳)

《質問を3つまとめて回答しています。》
衛星の質量に関してはまとめて回答させて下さい。平均密度を知るためには、天体の質量と体積を知る必要があります。体積は、探査機が近くを通りがかった時に衛星の形を調べることで計算します。探査機が行けない天体は、例えばある天体がその後ろにある天体を隠すような現象を望遠鏡で観察することで大体の直径を知り、そこから体積を計算します。衛星の質量の調べ方は、実は面白い(一筋縄ではない)問題です。天体が回っている中心の星の方(エウロパに対する木星、あるいは木星に対する太陽)の質量は、回っている天体の軌道半径と公転周期を使ってケプラー第三法則から求めることができます(回っている天体の質量は関係ない!)。回っている天体の質量を求めるのは、実は一筋縄ではいきません。回っている天体と中心の天体とは、お互いの共通の重心の回りを円運動する(中心天体の真ん中を中心にした円運動ではない)と考えます。その上で万有引力と向心力が釣り合うとした円運動の式を立てることによって、回っている天体の質量を求めることができます。それから水と決めた理由(エタノールとか他の気体を考えなかった理由)は、太陽系にごくありふれた物質であり、表面にもそれが見えているから、です。物事はまず単純に考えるのが基本であり、見えていない物質や可能性の低い物質を最初から考えに入れてしまうと話がややこしくなるので、普通は避けます。 もうひとつ、海の厚さについては、最もぶ厚い見積もりでは200キロメートル、最も薄い見積もりでは100キロメートルないくらいだろうと思われています。

氷の解ける温度が圧力が0から始まる時は、氷が溶ける温度が下がってきて、ある時点の圧力から氷の溶ける温度が上がってくるが、なぜ途中の圧力を境に氷の解ける温度が上がってくるのですか。分子構造の変化による自由度、分配関数、比熱の変化と関係があるのですか?(Mさん 男性・45歳)

一般に、物質の状態は自由エネルギーが最小となるように決まります。言い換えると圧力を上げるに従って体積が減る方向に相平衡が移動します。もっとも低圧下で現れる氷Ih相はその密度が液体よりも低い(体積が大きい)特徴を持ち、これが高圧ほど融点が下がる理由です。密度が低いのは、氷Ih相が六方晶という結晶構造を持つ、つまり水分子が他の4個の水分子と四面体的に結合する構造を取る(これを配位数が4と言います)ことに対し、液体の水の平均配位数が氷Ih相よりも大きい約4.4という値を取る(液体水の方が分子が密である)ためです。もっと高圧になると氷III, V、VI・・・と結晶構造が変化(配位数が変わる、分子結合の長さや角度が変わる、複数の結晶構造が入り組む、など)して密度が液体水より大きくなってしまうため、高圧ほど融点が高くなるのです。

エウロパのしみが赤っぽく見えるのは、なぜですか?(Iさん 女性・?歳)

酸化した鉄(要はサビです)や硫黄が赤っぽく見せているのではないかと考えられています。水の氷の中にこうした不純物が混ざっているイメージです。

イトカワの土はどのように分析されているのですか?(Fさん 男性・63歳)

※講演会の内容と関係ないので回答は控えさせて頂きます。

JAXAは、はやぶさIIの後は成功したイカロスを大型化し、イオンエンジンとソーラーセールのハイブリットで木星のトロヤ群に向かう計画があるようですが、それで木星の磁気圏も調べる予定なのでしょうか?(Tさん 男性・70歳)

そういった計画が可能かどうかについて実際に検討してはいますが、まだプロジェクト化はされておらず、具体的な方法の決定や機器の製作には至っていません。

エウロパの水の成分は、わかっていますか?成分によっての氷になるならないの温度は変わりませんか?(Sさん 女性・30歳)

水、いわゆる化学式H2Oで表される物質をメインとして、マグネシウムやナトリウムの硫酸塩が混ざっているのではないかと考えられています。その塩(えん)は表面の筋模様やシミ模様に存在していることから、模様が作られた時にその塩も表面に出てきたのかもしれません。水に混ざっている物質によって凍る温度は変わります。身近な例では、例えば食塩水は0℃以下になっても凍りませんね。

木星の放射線について教えてください。電磁誘導は地球-月では行われてないということですか?(Mさん 女性・?歳)

地球にもヴァン・アレン帯の名前で知られる放射線帯があり、太陽風などによって運ばれてきた粒子が地球の磁場に捉えられて高エネルギー化し、赤道上空をドーナツ状に取り巻いています。木星にもこれと似た、しかし荷電粒子が地球よりはるかに高速に加速されたことによる強烈な放射線帯があります。これが、近くを通る探査機(に積まれた電子機器)には大きな敵となります。木星とエウロパで生じる電磁誘導は地球と月でももちろん起こっていますが、月にはエウロパ内部に予想されているような液体の水の海はないので、エウロパで観測されたような二次磁場は月では確認されていません。しかし月を構成している岩石も僅かながら地球磁場の変化に応答するため、これを細かく調べることによって月内部の状態を予想してみよう、と言う検討はされています。

先日、「氷だけでできた惑星」のニュースを目にしました。木村先生の研究の守備範囲にはいりますか?今日の講義を拝聴して、ぜひその天体についてのお話をうかがいたいと思いました。(Tさん 男性・48歳)

おそらく、とある系外惑星をハッブル宇宙望遠鏡の観測した結果、水だけでできている可能性が高いことが分かった、というニュースのことかと思います。直接の守備範囲ではないのでその観測内容や結果については把握し切れていませんが、その天体が厚い水蒸気大気を持っていることと、平均密度が約1800キログラム/平方メートルと見積もられることから内部には相当量の水が存在するはず、という解釈のようです。直径は地球の約2.7倍、質量は同7倍という「巨大地球型惑星(スーパーアース)」というカテゴリーに入るタイプの天体で、これは太陽系における地球のような岩石型惑星、木星や土星のような巨大ガス惑星、天王星のような巨大氷惑星、の3タイプとは異なる新たな種類の惑星です。太陽系外にはそれまでの我々が持ってきた惑星科学的常識から外れる特徴を持った天体が次々と発見されているので、その理解には今後のさらなる観測と研究の進展が待たれます。

ガニメデに氷の下の海がある可能性はどのくらいあるのですか?(Tさん 男性・46歳)

ゼロではないが、エウロパよりはかなり低いと考えられています。見た目の予想では、エウロパで見られるような模様がガニメデでは明確ではないこと。磁場観測からの予想では、電磁誘導による二次磁場の徴候が捉えにくいこと(エウロパよりも木星から遠いことと、ガニメデ自身が金属核起源の磁場を持っているため、検出しにくい)がその理由です。また海があったとしても、その上にある氷の地殻の厚さがエウロパよりも厚く、掘削するのも難しいと思われています。

天王星、海王星の氷の部分もエウロパと一緒でしょうか?(Tさん 女性・?歳)

はい。両惑星とも水素・ヘリウム・メタンからなる大気の下に固体部分があり、そこが水やアンモニア、メタンの氷からできていると考えられています(中心には岩石と金属からなる核がある)。

エウロパのコア付近の熱量、温度は計算できますか?温度計算のところで疑問2つ。・外部熱(太陽からの熱)は計算に入れなくてもOKなのか? ・今のガニメデは再び凍りかけているというグラフがあったが、まさつ熱では液体でありつづけるには足りないのか? (Iさん 男性・31歳)

コア付近の熱量や温度も計算できます。ここでの細かい説明は省きますが、内部海の厚さの変化はコア付近の熱量や温度の変化に対応しています(コア付近の熱量が減少、温度が低下するほど内部海は凍っていく)。太陽からの熱は、主に表面の温度に関係します。講演会でお見せした計算は表面温度を100ケルビンに固定していて、エウロパ表面の平均温度になっています。太陽からの熱をエウロパの表面が受ける時、ある割合は反射しある割合は吸収しします。そのバランスで表面の温度が決まっています。また、講演会でお見せしたエウロパ(質問にはガニメデとありますがエウロパの誤りだと思います)の内部海が再び凍りかけているグラフは、摩擦熱の効果を小さめに仮定した場合の計算結果でした。これを大きめに仮定した場合はほとんど凍らず、維持されます。この摩擦熱がどれくらい働くかをキチッと見積もることは非常に難しいため、その効果に幅を持たせて計算しているのです。

星の誕生について教えて下さい。具体的に、木星と土星はどちらが先にできたと考えられていますか?(Nさん 男性・32歳)

惑星がどのようにしてできたか、についてはまさに惑星科学の最大の問題であり未だ確実なシナリオはありませんが、木星の方が土星よりも若干(数百万年)先にできたという考え方が一般的のようです。

何歳ですか?(Kさん 男性・37歳)

宇宙の歴史に比べれば人の年齢なんて瞬きよりも短いですから、その辺は気にしないで行きましょう。

天文用語を使った好きな言葉を教えて下さい。(Kさん 男性・16歳)

特別これが好き!という言葉はないですね(というか、何が好きとか考えたこともなかった)。言い換えれば、天文が好きなのでそれにまつわる言葉は全てが好きとも言えます。でも「天文」というと銀河系とかブラックホールまで含まれるので、私が知らない用語もまだまだたくさんあります。

系外惑星には衛星はないのですか?(Aさん 女性・17歳)

今はまだ見つかってはいませんが、太陽系には名前が付いた衛星だけでも100個以上あることを考えると、あってもまったく不思議ではない、むしろあると考える方が自然だと思います。

予算と技術の制限がもしなかったら、やってみたい(参加したい)探査研究はなんですか?(?さん 女性・?歳)

やはり第一には、エウロパの回りに探査機を周回させ、そして着陸させたいですね。かぐやがそのハイビジョンカメラで月面からの地球の出を撮ったように、エウロパ表面から木星がせり上がってくる姿をまずは見てみたいものです。

エウロパ以上のえい星で海のある天体は、いくつくらいあるのか?(Dさん 男性・16歳)

可能性があると見られている主な衛星は、エウロパの他に同じ木星系のガニメデ、カリスト、土星系のエンセラダス、タイタン、海王星のトリトンなどです。しかしこれらの衛星では、エウロパでの内部海の予想に用いられる「見た目」「磁場観測」「内部温度計算」の3つのアプローチ全てが使えるわけではなくどれか1つに限られている点で、予想の強さはエウロパより弱くなっています。

エウロパの氷のうすいところは、どうやって見つけるのですか?(Oさん 男性・16歳)

将来の探査計画を見すえた検討では、探査機からレーダーを放って固体の氷と液体の水との境界面を見つける方法が考えられています。あるいは、氷が薄いところは内部からの熱を効率よく表面へ逃がせるポイントでもあるので、表面温度(熱流量)を精度よく調べれば分かるかもしれません。

イオはなぜ他の木星の衛星と違い例外なんですか?ついでに・・・パンダは好きなんですか?(Tさん 男性・16歳)

イオでは、潮汐とそれによる発熱の効果が他の衛星よりも特段に大きいことがその理由です。木星の重力が強大であることと、イオはその木星に非常に近いことによって、イオが受ける潮汐発熱が段違いに大きいのです。それは氷を融かすレベルを遥かに超え岩石をも溶かしてしまうため、いわゆるマグマが作られ火山として表面から噴出しているのです。この点で、イオだけは他の衛星と大きく異なるのです。パンダについては特別好きというわけではないのですが、私が動物園でパンダを見る時はいつもグタッと休んでいる姿ばかり見るので、「休憩」のイメージといえばパンダなんです。

氷で作られているエウロパは宇宙で太陽の影響を受けて溶けて消滅したりしないでしょうか?(Yさん 男性・16歳)

その影響をエウロパが強く受けるとしたら、太陽系ができて46億年経った現在すでにエウロパはなくなっているでしょうね。エウロパの表面温度はもちろん太陽から受けるエネルギーで決まるという意味で影響はありますが、予想される太陽活動の変化の範囲においては、エウロパを溶かしたり消し去ることはありません。

いん石の心配は?(Gさん 男性・64歳)

何がどうなる心配を考えるかによるのですが、エウロパへの隕石衝突が内部海の存在可能性を脅かす心配、と勝手ながらこちらで解釈すると、それはむしろ可能性を上げる効果になると思います。隕石はその衝突による熱エネルギーをエウロパ側へ渡すことになるので海を温める方に働くのと、隕石という不純物が水に混じると融点が下がるので海は凍りにくくなる効果の2つがあると思われます。

私は6年生ですが、その年の頃から宇宙などに興味があったのですか?もし人類以外の生物が存在しても、とても小さなび生物のようなものなのでしょうか?(Kさん 女性・12歳)

そうですね。星とか惑星の図鑑を良く読んでいた記憶があります。お年玉を溜めて双眼鏡を買い、自分の目でガリレオ衛星を見た覚えも。夏休みに自由研究というのがあったのですが、そのテーマにしたこともあります。地球外天体に生物がいるとしてその姿や形は、地球の環境にいる生物を見渡す限りで想像するとおそらく微生物のようなものである気はしますが、「地球生物学」が他の天体にも当てはまるとは限りません。想像を絶するようなものが居るかもしれません。自然とは、常に人類の想像を越えるもの、いい意味でも悪い意味でも裏切るものだと思っています。

ほんとうにうみがあるですか?(Yさん 男性・6歳)

わたしはあるとおもっています。Yくんが研究者になるころには、きっと海を「発見」できるようになっているかもしれませんよ。がんばってべんきょうして研究者への道をめざしてください!

他の氷をもつ衛星にも亀裂やしみがあるのですか?(Tさん 女性・?歳)

亀裂は、長さや太さ、数に違いはあれど他の多くの氷衛星にも見られます。一方で(流氷のような外見の)シミ模様が見つかっているのは今のところエウロパだけです。海があるにしてもなるべく表面に近い(浅い)方が、地形(模様)を作るには都合がよいです。

エウロパ探査のプロジェクトの話があがったら参加したいと思いますか?(Fさん 女性・17歳)

ぜひとも参加したいですね。これまで検討を進めてきたNASAも決してあきらめたわけではないので、何らかの形で加わっていきたいとは今でも思っていますし、実際に情報交換も進めています。日本独自で探査機を送り込めればベストなのですが、それは色々な理由でちょっと難しいのです。

海というと塩とか不純物のイメージでした。何故鉄分がふくまれているのでしょうか?(Mさん 女性・52歳)

鉄はむしろ一般的で普遍的に存在する元素です(例えば地球の地殻では、酸素、珪素、アルミニウムに次いで4番目に豊富な元素。そして地球の海水にも鉄分は含まれています)です。エウロパがその昔、小惑星や隕石の衝突合体で作られた際に鉄も取り込まれました。そして水の海と岩石の核とに分かれた現在も、海底の岩石から海へしみ出す成分の中に鉄があるのは特異なことではありません。

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