プラネタリウム

第65回 地球の水を調べる衛星「しずく」

地球観測衛星「しずく(GCOM-W1)」は、2012年5月18日の早朝(真夜中)に種子島宇宙センターから打ち上げられました。「しずく」は、空気中の水蒸気や雨の量、海の温度や流氷の分布、土壌の湿り具合や雪の分布など、さまざまな姿で存在する水の量や状態を観測する衛星です。
「しずく」の先代として9年以上の観測を続けてきたアクア衛星搭載AMSR-Eの観測結果をご覧いただきながら、「しずく」への期待と将来展望についてご紹介していただきました。

概要

日時

平成24年5月26日(土曜日)

講師

今岡啓治(いまおか けいじ)氏
(JAXA地球観測研究センター 研究領域リーダ)

講演プログラム(当日配布したレジュメより)

  • 地球の水循環と「しずく」の役割
  • 「しずく」のご紹介
  • 「しずく」がみる地球

継続観測で見えてくる地球の変化

日々の暮らしとのつながり

  • 将来の展望

地球環境の変動把握を目指して:地球環境変動観測ミッション(GCOM)

  • 質疑応答

聴講者からの質問と講師回答

観測データの精度をはかる手法にはどのようなものがあるのでしょうか?同じ対象をいくつかの衛星で調べて比較するなどでしょうか?(Oさん 女性・52歳)

おっしゃるとおりで、同じ対象を他の衛星で調べて比較する方法も使います。また、世界中の気象・海洋機関(例えば日本の気象庁)が常時取得している様々な地上観測データを使わせてもらうこともあります。例えば、海上に浮かべたブイで海の温度や風の強さが刻々と測られていますし、バルーンに取り付けた温度・湿度計で大気の状態も調べられています。土壌水分量などはそういう観測が少ないので、世界中の研究者と協力して専用の観測実験も行います。これらの地上観測データと衛星データを比較して精度を確かめます。正確ですが「点」で行われることの多い地上観測と、「面」を調べることのできる衛星観測を組み合わせて、地球全体の様子を正しく捉えることができます。

しずく」のデータは何キロメッシュ単位にデータが取れるのでしょうか?一日おきに1回観測するようですが、大気の水平方向の流れはわかるのでしょうか?(Oさん 男性・50歳)

「しずく」は、5~10キロメートル間隔でデータを取得します。1回の観測だけで大気の水平方向の流れを知ることはできませんが、1日間隔(高緯度では1日に数回)のデータから、水蒸気や雲の動きを捉えることは可能です。海に浮かぶ海氷についても、日々取得する画像を解析することにより、移動方向を調べることができます。

地球の水は減っているのですか?(Tさん 女性・40歳)

地球上には、直接目に見えない地下水のような形でも水が存在します。地球大気の端で宇宙へ逃げていく水もあれば、流星のような形で入ってくる水もあることでしょう。これらを全て測って、地球の水の量を精密に評価した研究は、私が知る限り無いと思います。NASAのGRACE衛星のように、重力の偏りから地下の貯水量を推定するような新しい手段も現れており、将来はもっと正確な見積もりができるかもしれません。しかし、我々人間の生活に関係するレベルでは、水は循環していて減っていないと考えて良いようです。但し、どんな種類の水を考えるかによっても違いそうです。詳しくは是非下記の書籍※を読んでみてください。著者の沖大幹先生は、「しずく」のサイエンスチームリーダを務めていただいています。
※「水危機 ほんとうのはなし」 沖大幹 著 新潮社(新潮選書)

「しずく」の打ち上げが、夜の打ち上げになったのは何故ですか?(?さん 女性・33歳)

「しずく」はA-Trainという衛星編隊飛行群に加わり、他の衛星と同時観測を行います。このA-Trainを構成する衛星群は、私たちの上空を深夜1時半頃に北から南へ、昼の1時半ごろに南から北へ通過します。種子島宇宙センターからは海の方向、つまり南側へ打上げを行いますので、A-Trainに加わるためには深夜1時半頃に打ち上げる必要がありました。

「しずく」の開発から現在の観測までどの位の人が関わっているのか教えてください。 (?さん 女性・?歳)

計画の構想から衛星の開発・運用・データ処理、そしてデータ利用や科学研究に至るまで幅広い分野の方々の協力を得ています。正確な人数は把握していませんが、衛星を構成する部品は20万点にものぼり、それらの部品の製造会社の方々を含めれば本当に数え切れないほど多くの方々に携わっていただいています。

「しずく」をつくろうとしたきっかけは?(Aさん 男性・10歳)

今年の夏、北極海の海氷が大きく減ったように、地球の気候は変化しています。気候がどのくらい、なぜ変化しているのかを知るために、地球をくまなく観測し続ける必要があると世界中の研究者が考えています。GCOM計画は、地球全体を観測するのに最適な人工衛星を使って、地球環境変化の観測に役立つために考えられました。なかでも「水」の観測は重要で、先代の衛星の観測を早く引き継ぐ必要もあったので、GCOM計画の最初の衛星として「しずく」を作ることに決めました。

「しずく」のアンテナの回転速度はCGで見た通りですか?(Oさん 女性・?歳)

「しずく」のアンテナは1.5秒に1回の速さで回転しています。ご覧になったCGの回転速度は本物と同じです。

(「しずく」の開発には)いくらかかったのですか?(Kさん 男性・37歳)

「しずく」(衛星)の開発費は180億円です。

人工衛星をおおっているキラキラのものは何のため?(Kさん 男性・37歳)

キラキラしているのは「サーマルブランケット」という素材です。宇宙空間では、太陽に照らされているときは温度が100度以上に、日陰の時はマイナス100度以下になります。そのため、衛星内部を温度変化から守るための断熱シートがサーマルブランケットです。ポリイミドという黄色フィルムにアルミメッキを貼りつけているため、金色になります。

「しずく」のおおきさはどれくらいですか?(Kさん 男性・10歳)

打ち上げる時は折りたたまれてロケットの上部に格納されていますが、宇宙に行くと太陽電池パドルやセンサのアンテナを展開するので大きくなります。
打上げ時:縦3.3メートル×横3.0メートル×高4.7メートル
軌道上:縦4.9メートル×横17.7メートル×高5.1メートル

「しずく」はどの速さでとぶのですか?(Kさん 男性・8歳)

秒速約7.5キロメートルです。東京~品川間を1秒以内で通過する換算になりますね。

「しずく」のセンサー稼動部は今まで見聞きしたものの中でもかなりダイナミックに感じたのですが、運用寿命的には、長持ちするのでしょうか?(Tさん 男性・48歳)

約250キログラムのセンサ部を宇宙空間で1.5秒に1回転の速度で回転させており、おっしゃるとおりかなりダイナミックな観測方法です。この回転を支持するための軸受け部分の摩耗が寿命を制約しますが、AMSR-Eという先代センサが約9.5年の実績を持っており、同じ設計の軸受け潤滑機構を持つAMSR2も同じくらい長持ちすることを期待しています。

「しずく」は何年位観測するんですか?地球に帰ってこれますか?(Tさん 女性・43歳)

「しずく」の設計寿命は5年ですが、5年間観測した後も可能な限り観測を続けます。地球に帰還するようには設計されていないので、残念ながら帰ってくることはありません。

「しずく」の運用は何年を予定しているのでしょうか。3期後継予定されているということは、その3倍の期間の運用を考えているのですか?(Kさん 男性・41歳)

「しずく」衛星1機の設計寿命は5年ですが、「しずく」シリーズの衛星を3機続けて打ち上げて運用し、合計して15年程度観測したいと考えています。

今回のアムサー2(しずく)の稼動期間予定は5年間ということですが、前回のアムサーEは10年近くの稼動実績があったとの事です。何故今回の方が短い期間なのですか?アメリカ製のサテライトの方がすぐれているからですか?(Sさん 男性・63歳)

AMSR-Eの運用予定期間(設計寿命)は3年間で、「しずく」のAMSR2よりも短い設計でした。運用予定期間は、予想される最悪の環境下で品質保証ができる期間を基に決めるため、異常がなければこれより長期間運用できることが期待できます。AMSR-Eは3年間を過ぎても機器の状態が健全でしたので、その後も運用を続けて10年近く観測できました。AMSR2も観測が可能な限り運用を続ける予定ですので、5年間を超えた運用も視野に入れています。

どの程度の精度(センチメートル、ミリメートル?)で、ロケットから衛星軌道に入らなければいけないのでしょうか?またA-trainの軌道に入らなければいけないのでしょうか?(Kさん 男性・?歳)

センチメートルやミリメートルほどの精度は必要ありませんが、目標軌道に対して±10キロメートルの範囲に「しずく」を投入するという約束をロケット側と交わしています。A-Train軌道上で「しずく」に割り当てられている運用範囲は、衛星進行方向で約±300キロメートルの範囲となっていますので、その範囲でコントロールする必要があります。

観測したデータはA-train以外の人(国)に対し、自由に使っていいのですか?(Kさん 男性・?歳)

「しずく」のデータはオンラインで誰でもダウンロードでき、研究目的であれば世界中の誰でも自由に使うことができます。A-Trainの他の衛星データも同様であり、世界中の研究者・利用者の協力や競争を通じて良い成果が生み出されることを期待してます。

A-train以外にも軌道があるのですか?(?さん 女性・58歳)

A-Trainほど、多くの衛星が同じ軌道上で編隊飛行をしている例は他にはありません。しかし、人工衛星の軌道そのものは他にもたくさんあります。地球を観測する衛星では、地上からの高さが400~800キロメートルくらいの低軌道と、36000キロメートルの静止軌道が良く用いられます。

A-trainの衛星たちで得たデータを合わせてつかって、今岡先生が特に研究したいことはありますか?(Uさん 女性・37歳)

雲の観測に適した衛星がA-Trainに多数参加しています。雲はとても移り変わりが早いので、A-Trainの同時観測能力はとても重要です。地球上の様々な地域でどんな種類の雲が発達し、どのような性質を持っているのか、これらの雲が地球の気候変化にどう影響するのか、分かっていないことが多くあります。「しずく」も雲や雨の観測が得意分野の一つですので、A-Trainの様々なデータを総合して詳しい研究をしてみたいです。

今岡先生の天体の興味の動機をおしえてください!(Eさん 女性・59歳)

宇宙への興味は子供の頃からのもので、学生の頃は電波天文を学び、現在は逆に宇宙から地球を電波で見るようになりました。加えて、新しい測定原理や装置を使って見えないものを見るという行為自体に惹かれているように思います。以前は、地球と宇宙の研究は違うものという漠然としたイメージを持っていました。しかし、地球も惑星のひとつであり共通的な理解が必要だと分かり、その上で人間との直接的な関わりと、それ故の難しさももつ地球の観測が面白いと感じています。

火星に第二の地球を作ると本(うちゅう)に書いていました。本当ですか?(Tさん 男性・9歳)

どんな本だったのか分からないので想像になりますが、火星や金星など、今は人間が住むことのできない惑星の環境を人工的に変化させて、地球のように変えてしまうテラフォーミングという考えがあります。そのことが書いてあったのかもしれません。将来は可能になるかもしれません。その場合、今回の講演でもお話した「水」も重要になることでしょう。でも、技術的に可能だとしても、人間が勝手に他の星を変えてしまっていいのか、いろいろなことを話し合うことが必要だと思います。

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