プラネタリウム

第75回 21世紀の月の科学的描像〈テーマ:月のサイエンス〉

 アポロの有人探査から半世紀近くが経ち、月は良く理解された星だとの印象を持たれています。ですが、実は月の科学的描像は今まさに大きく変わりつつあります。例えば、月は極度に乾燥した星だと考えられていましたが、この5年で月は内部に水に富む領域を多数持つ星であることが判明しました。地殻の厚さや内部温度にも大きな見直しがされています。
 このような観測事実の積み重ねは近い将来の月の起源論にも変革をもたらすでしょう。本講演では、月探査の現状と関連する論争について分かり易く解説していただきました。
 また、講師が、「はやぶさ2」光学カメラ主任研究者も務めておられることから、太陽系形成への探求、小惑星探査の意義について等もお話しいただきました。

概要

日時

平成26年9月6日(土曜日)

講師

杉田 精司(すぎた せいじ)氏(東京大学 新領域創成科学研究科 教授)

講演プログラム(当日配布したレジュメより)

前半
  • アポロ探査が描いた月の近代的描像
  • 月は乾燥した星なのか?

ルナープロスペクターの水素分布図の謎

月面衝突探査機LCROSSを出し抜いた月周回機M^3

再びアポロ試料へ

  • 月の起源論へ
ブレイクタイム
  • プラネタリウムでお月見(月のクレーターをじっくりと)
後半
  • 月のクレーターに残された太陽系揺籃期の記録

変貌を遂げる惑星起源論

水星探査からの新情報

小惑星探査との関連

  • 今後の月探査の展望
  • 質疑応答

聴講者からの質問と講師回答

月のレゴリスの成分に含まれているガラスの成分と地球のガラスとは、違いがあるのでしょうか? (Tさん 男性・50歳)

基本的にはよく似ていますが、月のガラスには地球の火山性ガラスより鉄分が多いことが大きな違いです。

月の「海」と呼ばれている部分には玄武岩、「高地」と呼ばれている部分には斜長石が含まれているといわれていますが、なぜこのように、はっきりと分かれているのでしょうか? (Tさん 男性・50歳)

月の表と裏で土地の高度が大きく異なるため、低地の多い表には玄武岩が表面に噴出できた一方、裏には噴出できなかったことが大きな理由だと考えられています。

※月の玄武岩には鉄が多く含まれていて非常に重たいことが特徴です。反対に、月の斜長石は岩石の中では非常に軽い部類に属します。そのため、浮力の関係で、月の玄武岩溶岩は高い場所に噴出できず、低地にしか噴出しないのです。次の質問にも関係します。

なぜ、月の表側にだけ、玄武岩があるのですか? (Yさん 女性・50歳)

月の表は、もともとの地形高度が低いので、そこに玄武岩が噴出して溜まったと考えられています。
裏側は低い場所が少ないため、玄武岩は表面まで到達できなかったのだと考えられています。

グリーングラスの中に10ppmの水が含まれていることから、今後、月全体に含まれる水の総量が推測できるようになるのでしょうか?素人考えでは10ppmというのは、かなり濃い濃度だと感じるのですが…。 (Tさん 男性・51歳)

水の総量推定には、もう少し詳しい調査が必要でしょう。主には深さ方向の分布を知る情報が必要です。
そのためには、ぜひとも着陸探査が必要です。なお、10ppmという濃度は、少し前までは最新の分析機器で検出ができなかったほどですので、残念ながらあまり濃いとは言えません。

小惑星探査機「はやぶさ2」の光学カメラの能力について教えてください。(Nさん 男性・34歳)

視野63.5度の広角カメラ2台と、視野角6.35度の望遠カメラ1台を備えています。
望遠カメラには7つの波長を分けて分析できる能力があります。

なぜ、(月面衝突探査機エルクロスの、衝突観測のようすを)地球から可視では 確認できなかったのですか?(Nさん 男性・34歳)

地球大気の散乱光が邪魔をしたことが主な要因でした。

アポロ探査後、なぜ直接採取の計画は実施されないのですか?(Nさん 男性・34歳)

アポロ探査で単一地点を深く探るという研究が行われたため、その後には月の全体像を探るための全球リモートセンシング観測に力が注がれることとなりました。着陸機を必要としないリモートセンシング観測の方が低予算で実現できることもあり、その後はこちらのタイプの探査が主流になりました。ですが、リモートセンシング観測も一通りやり終えた状況になっているので、今では日本を含む各国の宇宙機関が着陸探査を検討したり実施したりする状況となっています。

月はいつも、地球に対して、同じ向きになっているのはなぜですか? (Hさん 男性・65歳)

月の形が完全球でなく楕円形に歪んでいることが、原因です。細長くのびた方向が地球の方向を向いた方が、重力的に安定になるため、いつも同じ向きを向くことになるのです。ですが、現在の向きから180度回転した状態(裏側が地球側を向いた状態)も同様に安定するので、月の裏が地球の方向を向いていてもおかしくはありません。ただ、それ以外の向き(例えば90°回転した向きは)いずれも不安定です。月は地球に真裏を向け続けるか、真面を向け続けるかの2つの可能性しかありません。

月の石の保管は、どんな所(どんな状態、条件)がよいのでしょうか? 真空とか無重力、なにか必要な要素があるのでしょうか?(Wさん 男性・64歳)アポロ探査機採取した試料は、地球由来の汚染を避けるために、どのように保管されているのでしょうか?(Nさん 男性・55歳)

無重力である必要はありませんが、地球大気に触れることは避ける必要があります。
乾燥窒素ガスと一緒に密封容器に封入して保管します。

太陽系の内側が岩石惑星、外側がガス惑星になったのはなぜでしょうか?(Kさん 男性・62歳)

岩石惑星は、太陽系内のガスが吹き払われた後に成長したこと、ガスを大量に捕獲できるほどの大きさにまで成長はしなかったことが、ガス惑星にならなかったことの理由です。

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