プラネタリウム

第77回 生命の素材は宇宙起源?

 人類は長い間「生命がどのように誕生したのか」という謎に挑戦してきました。最近の研究では、宇宙で作られた生命の素材が彗星や隕石によって地球に到達して生命になった、という宇宙起源説が有力視されています。
本講演では、宇宙生命研究の最新の話題をいくつかご紹介いただきました。

概要

日時

平成27年1月31日(土曜日)

講師

大石 雅寿(おおいし まさとし)氏
(国立天文台 天文データセンター センター長 准教授)

講演プログラム(当日配布したレジュメより)

前半
  • 生命起源研究の歴史
  • 惑星に運搬される生命素材物質
  • 太陽系内の有機物質
ブレイクタイム
  • 探査機が捕えた彗星の核の写真をじっくり
  • 宇宙起源の生命の素材を調べる~はやぶさ2
後半
  • 星や惑星形成現場の有機物質
  • アミノ酸の前段階物質があちこちに!
  • どうやって宇宙の生命を探すのか?
  • 質疑応答

聴講者からの質問と講師回答

地球以外の星にも生命体のある可能性が高いと思いましたが、高等生命体が存在している可能性はどう思われますか?(Kさん 男性・54歳)

我々の銀河系内に1000から2000億個の恒星があり、銀河の数も1000から2000億個と言われていること、そして、ケプラー衛星の観測によってかなりの数の恒星に惑星が付随することが明らかになったことを考えると、この宇宙のどこかには高等生命体が存在していても不思議ではないと、個人的には思っています。

地球での常識で考える生命体はアミノ酸でDNAを持った高等生物を想定しているようですが、それ以外の生命の可能性(宇宙的生命として)はあると思いますか?目には見えない波動が生命とか・・・。 (Jさん 女性・?歳)

私達は地球に存在している生命しか知らないので、同じような生命しか思いつきません。しかし、自己を外界から区別し、外界からエネルギーを取り込み、複製能力や変異能力があれば、異なる形態の生命が存在しても良いと思います。でも、目に見えない波動が、というのはちょっとオカルトっぽいと思います。

地球が30~50億年後に爆発すると読んだことがあるが、何かそういう予想が可能でしょうか? (?さん 女性・68歳)

地球が爆発することはありませんが、今から約50億年後には太陽が膨張して地球を飲み込んでしまうと予想されています。

はやぶさ2が、アミノ酸あるいはその成分を持ち帰れば、彗星のちりから地球の生物ができたと証明されるのでしょうか?(?さん 女性・68歳)

科学的に証明することは簡単ではありません。はやぶさ2は有機物が多いと予想されている小惑星を目指しているので、小惑星にアミノ酸などが見つかれば、彗星だけではなく小惑星(隕石)の有機物が生命の素材となった可能性は高まると思います。

すでに地球には生命がいるので、地球が何かしらの形で(例えば隕石の衝突等で散ったら)宇宙に生命の素が散りますか?(Sさん 女性・36歳)

地球の生命体が宇宙に放出されても生存可能であり、かつ、他の惑星に到達すれば、地球由来の生命体が他の惑星での生命の起源になる可能性はあると思います。これは、パンスペルミア仮説の逆バージョンです。

他の天体に生命が見つかった場合、話は次にどのように拡がっていくのでしょうか?どんなことが考えられていくのでしょうか?(Tさん 男性・44歳)

見つかった生命が地球型生命と異なるのか似ているのかによって、生命の存在形態についての理解がより深まっていくのだと思います。

生命にあふれた地球を含む太陽系が寿命をむかえると、どれくらいの有機物が宇宙空間に残存すると考えますか?(Aさん 女性・39歳)

約50億年後には太陽が膨張し、地球を飲み込んでしまいます。その時の太陽の表面温度は3000度ほどですので、地球表面付近にある全ての有機物が燃え尽きるのではないかと思います。

エアロゾルによる、彗星ダストの回収についてもう少し詳しい説明をしてほしい。(Aさん 女性・39歳)

日本惑星協会のウェブサイトに詳しい説明があります。こちらをご覧下さい。

日本惑星協会(外部サイトが別ウィンドウで開きます)

彗星のちりの中からグリシンが見つかっていたかと思いますが、このグリシンはどのように生成したとお考えでしょうか?(Yさん 男性・46歳)

2つの可能性があると思います。1つは彗星の母体となった星間ガス中で生成された可能性。もう一つは、より単純な化合物が彗星に存在し、太陽からのエネルギーによってグリシンに変化した可能性です。

グリシンが見つかった後は、生き物(生物)を探すことになるのでしょうか?(Sさん 男性・65歳)

惑星形成現場は非常に遠く、ロケットによって到達するのに何千年もかかりますから、そこで生き物を探すのは現実的ではありません。グリシンがもし見つかれば、次は、より複雑なアミノ酸や核酸塩基の前段階物質の探査を実施することになるでしょう。また、惑星大気の詳細分析により、生物の兆候(バイオマーカー)を探そうというアイデアは古くからあります。

大石先生は野辺山の45メートル電波望遠鏡の観測によって、生命に必要なアミノ酸の一種であるグリシンの前段階のメチルアミンを発見されたそうですが、このグリシンという有機分子は単独で発見されたことはあるのでしょうか?もし発見されにくいとすれば、星間分子雲の濃淡とか、電波の強弱、周波数の帯域などの違いによるものなのでしょうか?(Tさん 男性・51歳)アミノ酸が見つからないのはなぜですか?無いから?見つけにくい?(Sさん 女性・39歳)

これまでに宇宙のグリシンは発見されていません。おそらく、グリシンの存在量が望遠鏡の感度に満たなかったためだと思われます。

動物の活動状態をスペクトル分析で大まかにでも把握することは可能なのでしょうか? (Sさん 男性・32歳)

ご質問の「動物の活動状態」が何を指すのかがよく分からないのですが、スペクトル分析ではどのような物質が存在するか、また、どのような温度にあるのかといったことは分かります。

たくさんの星が見つかっていますが、生命体がいるとおもわれる惑星は見つかっていますか? (Hさん 男性・16歳)

生命の存在にとって液体の水が重要であると言われています。液体の水が存在できる惑星を居住可能惑星(ハビタブル惑星)と呼びます。ハビタブル惑星はこれまでに複数見つかっていますが、実際にそこに液体の水が存在するかどうかまでは分かっていません。

誰がどうやって星の名前をつけたのですか?(Jさん 男性・13歳)

シリウスやベテルギウスといった星の名前は、ギリシャ語やアラビア語を語源として持つと言われています。

「宇宙人はいるらしいのに、その証拠がみつからない」というフェルミパラドックスについてはどうおもわれますか?(Nさん 男性・61歳)

個人的にはパラドックスではないと思っています。恒星間の距離は非常に大きいので恒星間移動にはとてつもない時間が掛かります。SFで言われるようなワープ航法が実現できれば別でしょうけれど、他の知的生命体が地球に存在していなくても不思議はないと思います。それから、「宇宙人」とはどのような形態の生命体なのかがはっきりしないままでは、宇宙人の証拠と言われても一体何をもって証拠とすれば良いのかも分かりませんよね。

地球外惑星(原文ママ)の具体的な形は?(Hさん 男性・30歳)

惑星が十分に大きくて重ければ、最も安定な形である球形になると思われます。しかし、あまり大きくなければ球形からはずれてしまうと思います。

有機物、アミノ酸と生命を考える時に、「右手左手」の問題は避けて通れませんが、その起源はどのようにお考えでしょうか?(Mさん 男性・50歳)

いくつかの考え方が提唱されています。一つは、宇宙で生成されたアミノ酸に円偏光が当たり、その時に少しだけ右手タイプあるいは左手タイプが増え、その小さな差が増幅された、という考え。もう一つは、素粒子の性質に起因する、という考え方です。

どのくらいで生命(アミノ酸)は見つかる予定でいますか?予想というか目標で結構です。 (Kさん 女性・40歳)

目標は、1~2年のうちに見つけること、です。

メタン・アンモニアに放電して有機物ができたように、宇宙からふっている有機物を加熱して細胞をつくる実験はありますか?(Sさん 女性・39歳)

有機物を加熱するだけでは細胞にはならないと思います。そのような実験が行われたかどうかは分かりません。

なぜ昔、有機物は生物からしか生まれないといわれたのでしょうか?有機物は、その他と比べて特殊なのでしょうか?(Sさん 女性・39歳)

19世紀に有機物という概念が提唱されたのですが、有機物とは生物由来の物質という意味です。

グリシン以外に探さないのですか?(Sさん 女性・39歳)

もちろん探しますが、それはグリシン発見後の予定です。

初代はやぶさが、小惑星イトカワのサンプリングをしていますが、生命の元となる物質は見つかっていますか?(Kさん 男性・46歳)

私の知る限り、見つかっていません。

以前、南極で、火星から来たと思われる隕石から生命の跡ではないかという報道があったが、正体は何ですか?(Yさん 男性・48歳)

現在でも明確な回答はありません。細胞のようなものの中にPAH(多環芳香族炭化水素)があることなどを証拠として発見者は火星の生物であると主張していますが、生命活動がなくてもPAHが生成されるのでそうではないと主張する研究者もいます。論争は火星表面での生物探査の結果が出るまで続くでしょう。

ハレーすい星がジェットを噴射し続けているなか、小さくなっているのでしょうか?周期が長いし核がちいさいなら、見えなくなる時が近いのでは?(Sさん 女性・51歳)

その通りでだんだん小さくなっています。いずれは消滅すると思われます。

エチレンイミン、化学式から二重結合(ダブルボンド)が存在します。化学的にはダブルボンドは不安定なのですが、宇宙空間では関係ないのでしょうか?(Yさん 男性・55歳)

二重結合をもった化合物は複数存在しています。物理的には安定だからです。なお、星間分子雲内での化学反応が起きる確率は非常に小さく、1年に数回程度です。このため、反応性が高いラジカルなども安定に存在しています。

青酸→メチレンイミン→メチルアミン→・・・の反応は、実験室では何度くらいの条件で起きているのでしょうか?それは宇宙空間でも同じくらいでしょうか?(Nさん 男性・56歳)

実験室では、15ケルビン(マイナス258度)の温度で生成実験を行いました。この温度は、星がまだ生まれていない星間分子雲内の温度とほぼ同じです。

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