プラネタリウム

第80回 月から読み解く太陽系の歴史

 地球と違って月面には数多くのクレータが残されています。これは月面が非常に古いことを意味します。つまり地球では失われてしまった、地球や太陽系の様々な歴史記録が月には残されているのです。本講演では「かぐや」をはじめとする近年の月探査やアポロ時代の成果の見直しによってえられた新たな太陽系の描像について紹介しました。

概要

日時

平成27年9月19日(土曜日)

講師

諸田 智克(もろた ともかつ)氏
名古屋大学大学院 環境学研究科 地球環境科学専攻 助教

講演プログラム(当日配布したレジュメより)

  • 月の形成仮説:巨大衝突説
  • 太陽系の形成
  • 太陽系の謎:巨大惑星の大移動?
  • 月のクレータ記録と巨大惑星大移動の痕跡
  • 将来の月探査
  • 宣伝:小惑星探査「はやぶさ2」
  • 質疑応答

聴講者からの質問と講師回答

クレーター年代法では、後期重爆撃期は別として、衝突の頻度は一定と考えているということでよいですか。(?さん ?・?歳)

クレータ年代学で年代を決定する際には,表面の年代とクレータ数密度の間の関係,つまり過去の衝突頻度の歴史がわかっていないといけません.月ではアポロで持ち帰られた試料があるので,その岩石の年代とその試料を採取した地点でのクレータの数密度の関係がわかっています.ですので,衝突の頻度が一定である,という仮定をしているわけではありません.ただ,アポロ試料の年代とクレータ数密度の関係から結果的に,過去30億年間は衝突頻度がおおよそ一定であることがわかっています.

直径が4分の1なのに月の質量が地球の80分の1と小さいのはなぜですか。ほぼ同じ組成とおっしゃっていたような気がしますが。 (Aさん 女性・?歳)いたような気がしますが。 (Aさん 女性・?歳)

密度が同じであれば,質量は体積に比例します.体積は直径の3乗に比例するので,月の体積は地球の4分の1の3乗である,64分の1です.実際の月の質量がさらに80分の1と小さいのは密度が地球よりも小さいからです.月と地球では岩石部分の組成は非常に似ているのですが,おそらく金属が少ないために,月の密度は地球よりも小さいと考えられています.

地球と月の組成が似ていると言っていましたが、どのくらい似ているのでしょうか?衝突した天体が地球の近くだった場合でも説明できないほどなのでしょうか。(Oさん ?・?歳)

天体によって酸素の同位体比が異なることが知られており,それは太陽からの距離に関係していると考えられています.例えば,地球は火星よりも質量数17の酸素に対して質量数18の酸素の量が多いことが知られていますが,地球と月の酸素同位体比の違いは,その100分の1以下であることが知られています.

月の「海」はいつごろ形成されたと考えられているのでしょうか?(?さん ?・?歳)

アポロ計画で持ち帰られた岩石試料によると,おおよそ40〜30億年前につくられたことがわかっています.海は月の内部の岩石が溶融して表面に噴出し,冷却固化したものです.ですので,40〜30億年前の月の内部は岩石が溶けるほど熱かったわけです.

諸田さんにとって星とは?(Mさん 男性・34歳)

私をモヤモヤさせるもの,でしょうか.わからないことがたくさんあり,研究しても謎がどんどんでてきて解決しません.

地球に似た星、水と空気もあるとか、今現在、生命がいるという確証はまだないのでしょうか。 (Mさん 女性・63歳)

残念ながらまだ生命が存在する天体は見つかっていません.近年,太陽系外にも多くの惑星が発見されており,地球に似た天体も発見されつつあるので,期待したいです.

「ヘルツシュプルング盆地」という名称は、恒星の色と明るさの関係を示す「ヘルツシュプルング‐ラッセル図(HR図)」と関係があるのでしょうか。(Nさん 男性・56歳)

ヘルツシュプルング‐ラッセル図で有名なヘルツシュプルングの名前から名付けられました.一般に月面のクレータには科学者の名前が付けられています.

他の惑星の月の組成は惑星自身と同じですか?それとも違う?(?さん ?・?歳)

木星や土星などの巨大惑星は多くの衛星を持っており,それらは主に氷でできています.しかし,それぞれの衛星の氷や岩石部分の組成がどれだけ似ているか,異なっているか,はよくわかっていません.また,火星もPhobosとDeimosという2つの小さな衛星がありますが,それらの組成はまだよくわかっていません.火星の組成に近いのか,または小惑星に近いのかが分かれば,それらの衛星の起源に迫れると考えられます.

月は、この先、地球との距離がかわることはあるのでしょうか?その影響は?(Rさん 男性・53歳)

月は年間に数センチメートルづつ地球から遠ざかっています.潮汐力を介して地球の自転の角運動量が月に運ばれているためであり,それによって地球の自転は少しづつですが遅くなっています.実際に,地質記録から6億年前では1日は22時間程度であったことがわかっています.

今回の話を詳しく知るためにおすすめの本は?(Nさん 女性・29歳)

月に関する科学的な読み物としては,長谷部信行・桜井邦朋編「人類の夢を育む天体「月」」(恒星社厚生閣)は月についての一般的な理解やこれまでの探査の紹介,月周回衛星「かぐや」の初期成果がわかりやすくまとめられています.専門的になりますが,日本惑星科学会が発行している「遊星人」では,惑星科学全般についての最新の研究成果を日本語でわかりやすく解説している記事が多くあり,おすすめです.

興味深いお話をありがとうございました。講演内容とあまり関係ない質問ですみませんが、月は本当に地球の周りを回っているのでしょうか?波々の軌道じゃないか? 地球は太陽の周りを1年で回ってます。月は地球の周りを1ヵ月で回転してます。(Kさん 男性・65歳)

おっしゃるように月は地球の周りを回りながら太陽のまわりをまわっているので,太陽からみると月はわずかに近づいたり遠ざかったりしながら太陽のまわりを回っています.ただ,地球に固定した座標系でみると月は地球のまわりを公転しています.

#質問の意図が理解できているか不明ですが..

衛星に衛星があったりするとおっしゃっていたので気になりました。木星たちが移動したことでたくさんの小惑星が月にぶつかってきたと思います。それらで土星のように輪ができたりはしないのでしょうか? (Kさん 女性・26歳)

小惑星にも衛星があるという話であったかと思います. 月で大規模な衝突が起こったことでその破片が月の周囲をまわり一時的に輪のようなものをつくったことがあったかもしれません.しかし,長期的に維持するためには定常的に破片を供給するプロセスが必要です.

巨大惑星が移動したとすると現状の位置は安定なのでしょうか。それとも今も移動中なのでしょうか。 (Hさん 男性・54歳)

巨大惑星の移動は太陽系形成初期や39億年前の比較的短い時間で起こったと考えられている現象です.現在の惑星の配置は比較的安定しています.ただし数十億年という長い時間スケールで考えると惑星の軌道はカオス的なので,現在の配置が維持される保証はありません.

衝突した時、移動した時、両方とも重力のキンコウはくずれてよいのでしょうか?平面の惑星の軌道がくずれるようなことはなかったのでしょうか。(Wさん 男性・65歳)

巨大惑星が大移動を起こした時にはその影響で多くの小天体の軌道が乱され,軌道の傾斜角が大きくなったと考えられています.逆に惑星は小天体との力学的な相互作用によって軌道傾斜角は小さくなったと考えられています.

月に300キロメートルもある物体がぶつかっても軌道は変わらないのか。(Hさん 男性・64歳)

月は自転周期と公転周期が同じで常に地球に同じ半球を向けています.これを同期回転とよんでいます.月の衝突盆地をつくったような大規模な衝突では月の同期回転がはずれ,一時的に月は地球に対して回転したのでは,と考えられています.しかし,過去にそのようなことが起こったことを示唆する観測事実はまだ見つかっていません.

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