プラネタリウム

第81回 宇宙につくる発電所

 エネルギー資源と地球の温暖化は、人類社会の大きな課題です。一方で、地球には太陽から常時莫大なエネルギーが降り注いでいます。太陽エネルギーの大規模利用は、今後の人類の発展に大きく貢献できると考えます。本講演では、宇宙環境を新しいエネルギー取得の場として開拓する太陽発電衛星の構想を紹介しました。

概要

日時

平成27年11月28日(土曜日)午後7時~午後8時30分

講師

田中 孝治(たなか こうじ)氏
JAXA宇宙科学研究所 准教授/東京理科大学 理学研究科 応用物理学専攻 客員准教授

講演プログラム(当日配布したレジュメより)

  • JAXAの紹介
  • 人工衛星の構造と従来の宇宙利用
  • エネルギーと環境問題
  • 新しい宇宙環境の利用
  • 太陽発電衛星
  • まとめ
  • 質疑応答

聴講者からの質問と講師回答

送信に関して送信ビームが大きいと聞きましたが、どの位の大きさですか?又 資料で以前に見た時にビームが受電装置に当たらず他にそれた場合にそこに影響があると書いていたと思いましたが。(Bさん・男性・66歳)

送電に使うマイクロ波のエネルギー密度は、1平方メートル当り数百ワットから1キロワット程度で検討がされています。地上での太陽光のエネルギー密度とほぼ同じ強さです。マイクロ波ビームの制御に問題があっても環境へ影響が生じないような強さのマイクロ波の使用が検討されています。

24時間、一定のエネルギーをつくることができるのか?「テザー型」の動画シミュレーションでは、太陽光に送電パネルを向けている時間があるように見えましたが・・・ (Iさん・男性・43歳)

御指摘のように今回説明に用いたベーシックモデルと呼ばれるテザー型の太陽発電衛星の場合は時間により発電面と太陽の向きが変わりますので発電量が変化し、それに伴い地上への送電量も変化します。但し、地上での太陽光発電とは異なり、発電量をきちんと予測することができます。もう一つのアドバンストモデルは、太陽指向を行う大型の反射鏡を有していますので、一定のエネルギーを地上に送ることができます。但し、このモデルの場合も、春分秋分の前後数日間太陽発電衛星が地球の影に隠れる時間が少し発生します。その時は、エネルギーを供給できなくなります。

重力がほとんどない宇宙に集光パネルを吊るというのはどういうことですか。(Aさん・女性・?歳)

物体が地球から遠ざかっていくと受ける重力の強さは小さくなります。しかし、人工衛星は、地球の重力により地球の中心方向に常に引っぱられて、地球を周回しています。36000キロメートル上空の静止衛星も同じです。人工衛星は、地球の中心に向かって引っぱられますが、水平方向に高度に応じて適切な速度を与えると、地球は球体に近いために地表面に落下せずにその高度を周回するようになります。この時、二つの物体が長いひも(テザー)で結ばれて地球の周りを周回しているとすると、上にある物体には下にある物体よりも遠心力の影響が大きくなり、ひもは上下に引っ張られます。これを重力勾配力といいます。この原理を用いて、テザー型太陽発電衛星では、大きな発送電一体パネルをテザー(ひも)を用いてバス部とよぶ物体と連結して吊り下げ、それにより、送電面は常に地心方向を向きます。鉛筆の端をつまむと、もう一方の端は常に下を向きます。また、月はいつも同じ面を地球に向けています。これらと同じ原理を用いています。

宇宙での太陽光発電の電気を地上に送る時、カーボンナノチューブを介して送ろうとするとどのようになるのですか。(Yさん・男性・49歳)

今回のわたしのお話は、人工衛星で発電した電気エネルギーを無線で地上に送る方式の説明いたしました。しかし、もし、人工衛星と地上を電線で結ぶことができれば、地上での電気の利用と同じように、電線で電気を衛星から送ってもらうことができます。カーボンナノチューブは宇宙エレベータにも使える高強度材料として注目されています。太陽発電衛星は高度36000キロメートルの静止軌道上での建設が検討されています。カーボンナノチューブの中に電線を通して、静止軌道からつなげられたとしても、送電距離が長いので、電線での損失をいかに少なくするかは、大きな課題になると思います。

ロケット打ち上げは赤道近くが効率的と聞きましたが、日本では赤道近くに発射場を作る計画は有りますか。(Aさん・男性・66歳)

昔、赤道直下のキリバス共和国のクリスマス島で宇宙開発事業団(現JAXA)が日本版スペースシャトルHOPE-Xの実験場を計画しましたが、その計画はなくなり、残念ながら現在日本では赤道近辺での打ち上げ施設の計画はありません。

焼き鳥にはならないそうですが、完全に安全なのでしょうか。(?さん・?・?歳)

太陽発電衛星から送電するマイクロ波(電波)は、地上での太陽光のエネルギー密度とほぼ同じ強さです。マイクロ波方式の太陽発電衛星はエネルギー密度を低くすることで、環境影響をできるだけ小さくする検討が行われています。

宇宙ゴミが送信のジャマにはなりませんか。(?さん・?・?歳)

多少の宇宙ゴミが太陽発電衛星と受電システムの間にあっても、エネルギー送電には影響ありません。

コスト面では、ペイするのでしょうか。(?さん・?・?歳)

いろいろな発電方式との競争になります。私たちは、将来の社会インフラとしての普及を目指して課題解決に取り組んでいます。耐用年数40年で、その条件で、電力コストが他の発電方式と競合できるようなシステムが検討されています。

“つるす”の意味をもっと詳しくお願いします。(?さん・?・?歳)

重力勾配力を利用して発送電一体パネルの送電面が常に地心方向を向くような構造の採用を検討しています。前の回答を参考にしてください。

太陽発電衛星で作ったエネルギー1日分は、具体的にどれほどの規模の電力として扱えるのでしょうか。(家庭の照明数日分など)(?さん・?・?歳)

商業用太陽発電衛星は1機1ギガワットくらいの電力を供給できる規模が検討されています。電気事業連合会のホームページを見ると、一世帯当りの一ヶ月の電力消費量は300キロワットアワー程度ですから、240万世帯分相当になります。

仮にこの衛星がデブリとぶつかり、発電に支障が出た場合(発電すること自体が不可能になり、代用機を宇宙にとばし、発電するなど)、また発電が再開できるまでどれほどかかるのでしょうか。(Aさん・女性・25歳)

太陽発電衛星の太陽電池は、デブリ衝突などで部分的に故障しても、他の部分に影響がないように設計されています。そのため、発電が完全にストップしてしまうことはありません。故障した部分の補修については、ロケットなどの宇宙輸送の状況によります。万が一、全損に近い被害が発生した場合でも、作り直しと同程度の期間(1~2年)があれば復旧可能と考えます。

スペースデブリ問題で、イリジウムとコスモスの衝突が知られていますが、講演では確率が低いということだった気がします。タマタマでしょうか。(Yさん・男性・55歳)

意図しない衛星同士の衝突は、これが初めてのようですが、二つの衛星が近い距離ですれ違う場合が増えてきており、このケースは、稼働中の通信衛星イリジウム33号の回避運用が難しかったらしく、事故が起きたようです。近年のスペースデブリの増加は、宇宙環境利用には深刻な問題となっており、2007年に「スペースデブリ低減ガイドライン」が採択され、宇宙先進国では、デブリを増やさない取り組みが行われています。太陽発電衛星のような大型構造物が静止軌道にある場合、現状では、1平方キロメートルのパネル状構造物への衝突頻度は、10センチサイズのデブリは70年に1回、1センチサイズは3年に1回、1ミリメートルサイズは1年間に2400回と見積もられています。

人工えい星からの情報に悪影響はないのか(Iさん・女性・9歳)

エネルギー送電のためのマイクロ波が、他の機器に影響を与えないようにすることは、課題の一つです。

人体への影響はないのでしょうか?(電磁波などの)(Oさん・女性・58歳)

太陽発電衛星から送電するマイクロ波(電波)は、地上での太陽光のエネルギー密度とほぼ同じ強さです。マイクロ波方式の太陽発電衛星はエネルギー密度を低くすることで、環境影響をできるだけ小さくする検討が行われています。また、地上のマイクロ波を受電する設備は、立ち入り管理区域と想定しています。受電エリア外は、安全な領域となります。受電区域内にきちんとマイクロ波を制御する技術は、日本は世界で最も研究が進んでいます。

環境に影響がないとのことですが、すべてに安全に完成できるのでしょうか。(?さん・男性・?歳)

環境影響が少ないシステムと考えられていますが、本格的な導入の前に、定量的な影響評価を十分に行う必要があります。

テロリストの地上からの操作で受電機も含めて悪意・戦争等の悪害は全く無く管理も可なのですか?(Kさん・女性・69歳)

セキュリティに関してはこれからの検討課題です。

レクテナは、どこに設置しますか?(Kさん・女性・31歳)

電力の大消費地の近くや商業電力網に接続が容易な場所が好ましいと思いますが、多くの条件の考慮が必要です。

静止軌道は利用できる衛星の数が決まっていると聞きましたが、実験できる余裕はあるのでしょうか。(?さん・女性・?歳) 気象衛星、通信衛星等との競合で静止軌道に空きがなくなってしまいませんか?(Nさん・男性・56歳)

静止軌道は地上のある地域からは衛星がいつも静止して見える便利な軌道ですので、込み合ってくることは考えられます。発電所に通信や気象観測、その他機能を組み合わせた複合的なインフラでスペースベルトを作る構想も提案されています。

いつ、実現しますか?(Kさん・男性・35歳) 実現するとしたらいつですか。(Uさん・男性・65歳) 実現目標年(ef 2030年)はあるのか?(?さん・?・?歳)

20年から30年後は、一つの目標と考えます。

各国の技術交換はあるのか?(?さん・?・?歳)

日、米、欧、中国等の研究者間で、学会等で交流があります。

現在の年予算はどの位?(Tさん・男性・52歳)

JAXAでは、今年は、太陽発電衛星関係に0.1%程度でした。一つのテーマと考えるとかなり重要なテーマと位置づけられていると思います。

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