プラネタリウム

第85回 火星の水の歴史

火星は現在でも表層に大量の氷が存在し、かつては磁場や厚い大気、そして液体の水(海・湖)が存在していたとされる。このように、火星は太陽系天体の中で最も地球に似た表層環境を有し、かつ地球から最も近距離にある生命の存在条件を満たした惑星として、地球外生命探査および比較惑星学的観点から、最も多くの探査機が送られてきた天体である。地球と同様、かつて表層に水(海)をたたえるほど温暖で湿潤な気候を有していた火星は、「いつ」「どのように」その姿を変化させていったのか。近年の火星探査の成果に加え、火星隕石試料から得られた最新の知見を紹介した。

概要

日時

平成28年5月21日(土曜日)午後7時~午後8時30分

講師

臼井 寛裕(うすい ともひろ)氏
(東京工業大学 地球生命研究所 特任准教授)

講演プログラム(当日配布したレジュメより)

  1. 火星気候変動の歴史
  2. 火星の海
  3. 火星からやってきた隕石
  4. 現在も存在する火星の水
  5. 将来火星探査にむけて
  6. 質疑応答

聴講者からの質問と講師回答

火星にはオリンポス山、タルシス三山がありますが、それを起源とする隕石はありますか?(その場合、火星の大気組成と異なることが考えられますが)オリンポス山、タルシス三山等の生成について火星に何らかの痕跡がありますか?(Yさん・男性・56歳)

火星隕石が火星のどこからやってきたのかは、未だわかっていません。ただし、火星隕石の年代が比較的若い(<13億年)ことから、新しい火山帯からやってきたと考えられています。その比較的新しい火山帯にはオリンポス山、タルシス三山が含まれます。

フォボスへの着陸はクレーターに一点とすると、もう一点、2本の岩石質の亀裂の交点がいいと思います。亀裂には岩石の露頭がよりよくみられるし、地球のリニアメント、地球のテクトニックと関連した場所と思います。自然の湧水(spring)はかたい岩の亀裂なので、岩石質の多い交点が火星にも水が出ていると思いますが。いかがでしょうか。(Kさん・男性・68歳)

亀裂の部分に着陸すると言うアイデアは面白いと思います。ただ、フォボスの場合は地球と違い、水との関連は薄いと思われます。

長い歴史の中で表面が大幅に変わったと聞きましたが、これほどの変化が激しかったのは火星だけなのでしょうか? (Bさん・男性・37歳)

そんなことはありません。金星でも水星でも地殻は更新されたと考えられています。外惑星(木星・土星)の衛星に関してもこれからさらに情報が増えれば、これら衛星の地殻に関する知見もさらに深まることと思います。

現在、太陽系の惑星は太陽にいずれ引き込まれるという説がありますが、もし火星が地球の軌道に近くなるときには、地球のように生命が豊かに繁栄するという可能性はあるのでしょうか。 (Tさん・男性・15歳)

凄く壮大な質問すぎて、答えられません。申し訳ありません。まだ15歳と言うことなので、これから武田君が研究してみてください。ぜひ!

火星の石が地球にやってくる際には、どのくらいの大きさの天体衝突があったのでしょうか?(Mさん・男性・34歳)

火星の脱出速度(~5キロメートル/秒)を超える衝撃を生じる程度の天体衝突が必要条件です。

(1)あれほど沢山あったと考えられている火星の海がなくなった(姿を変えた)のはなぜ?ということは推測されているのですか? 45億年のスパンを地球に置きかえた時に、今後地球が同じような変化を辿ることはあるのでしょうか?また現在の姿に大きな差がでた要因は何だと思われますか? (2)マーズ・ダイレクトの計画は実現性があるのでしょうか? (Aさん・女性・20歳)

(1)私個人の見解では、昔の海の大よそ10分の1が宇宙空間へ散逸し、残りが地下に含水地殻か凍土層として保存されていると考えています。地球の場合は火星とは天体の大きさが違うので、同じような変化は辿らないと思います。と言うことで、現在の姿に大きな差ができた要因は、たくさんありますが、主としては天体サイズだと思います。
(2)マーズ・ダイレクト計画についてはインターネットで調べられる以上の情報は持ち合わせていません。申し訳ありません。

火星の水はどこへ行ったのですか?(Mさん・男性・39歳)

上記の回答をご参照ください。

そもそも火星の水はどこからきたのでしょうか。それは地球の水も同じなのでしょうか。(Sさん・男性・57歳)

小惑星帯にある水を含む小惑星から来たと考えています。地球も同様と考えています。ただし、火星も水星も、一部の水は彗星からもたらされているかも知れません。

以前にも書いたのですが、地球の温暖化物質CO2などを、どんどん火星に運んで、火星をあたためて氷を水にして、野菜をドンドン植えて、重力も小さいので大きな野菜を作ったら、どうでしょうか。食料不足も解決しませんか。(Wさん・男性・65歳)

もし火星を温暖化するとしても、効率を考えると地球から運ぶことはしないと思います。

(1)水ではなく“水素を利用する生物”という語を使うこだわりは何ですか。 (2)火星の隕石を調べることと火星探査機が石を分析することの違いは何ですか。 (3)フォボスが壊れる前に是非サンプルリターンして欲しいです。 (Aさん・女性・?歳)

(1)生物学は専門ではないので、正確にお答えすることはできません。申し訳ありません。
(2)火星隕石は実験室で詳細な分析ができるというメリットがある一方、隕石が火星のどこからやってきたか分からないというデメリットがあります。逆に探査機の場合は、火星上での限られた分析に頼らざるを得ないのですが、火星上での地質学的産状が明らかです。
(3)はい、あと数億年以上壊れないので大丈夫です。

(1)火星の水のしょっぱさは梅干しとどっちがしょっぱいと思われますか?どれくらいしょっぱいですか。 (2)火星に水があるなら芋とかそばぐらいなら作れそうですか? (3)もし海ができたらマグロぐらい養殖できそうですか?マグロとはいかなくてもサンマぐらいいけそうですか?(Uさん・男性・42歳)

(1)火星の水の方が圧倒的にしょっぱいと思います。舌がヤケドするほどしょっぱいはずです。
(2)塩分がかなり強いはずなので、品種改良してそれでも成長する(かつ食べられる)芋を作る必要がありそうです。
(3)マグロもサンマも厳しそうです。

フォボスが10年で火星に接近するとのお話ですが、間に合うのですか?探査に。(Oさん・男性・67歳)

10年ではなく約10億年のはずです。なので、心配しなくて大丈夫そうです。

(1)火星には地球のような全球凍結の時代はあったのですか? (2)火星の磁気圏がないのは、プレート運動が止まったからですか? (3)凍土層の存在は、海水のマントル層への逆流が原因でしょうか? (Tさん・男性・53歳)

(1)あったと考えられています。
(2)磁気圏が消失した原因に関しては未だ良く分かっていません。
(3)凍土層はマントルではなく、地殻の浅い部分に存在するはずなので、マントル層への注入は考えなくてもよいと思われます。

火星にある水の存在状態が、液体(海)→表面の氷→地下氷と変化していったのは、どうしてでしょうか?(Pさん・男性・32歳)

主たる要因は大気の圧力が低下したためです。

火星の隕石を発見した際になぜ41億年前のものと分かるのでしょうか。(Tさん・男性・?歳)

火星の隕石かどうかは、酸素同位体を用いて判断します(地球と火星では酸素同位体が違うため)。41億という年代は、放射性同位元素を用いて決定しました。

火星大気中を飛ばす観測機器を用いない理由は?飛行機のようなもの(NASAで計画されていたとは思うが)(Sさん・男性・23歳)

あくまでも私個人の見解ですが、飛行機は大気投入から着陸までの短い時間での観測しか行えないことが大きなデメリットだと考えています。

日本の火星探査の年間予算は今いくらぐらい? (?さん・男性・65歳)

「日本の」というのがどこまで含まれるのか分からないので(大学や民間企業での予算も含む?)、お答えできません。確実に言えることは、NASAの火星関連の予算より2桁以上少ないということです。

フォボスやダイモスは何故球体ではないのですか? (Aさん・男性・34歳)

天体のサイズが小さく、球形にするほどの重力が強くないためです。

ロケットに搭乗するのは、NASAでも試験や訓練など必要ですが、研究者が行くと言って現実的に行かせてもらえそうなものなのでしょうか?(Nさん・女性・?歳)

研究者が訓練を積むことで可能です。実際、アポロ計画のパイロットには地質学者がいます。

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