プラネタリウム

第89回 暗黒宇宙を切り開くアルマ望遠鏡

目には見えない電波を捉え、冷たく暗い宇宙の闇をのぞき込むアルマ望遠鏡。観測開始から5年が経ち、惑星の誕生や銀河の誕生の謎に迫る驚くべき観測成果を次々と出しています。 この講演会ではアルマ望遠鏡の最新の成果をわかりやすく解説し、大きな一歩を踏み出した宇宙の謎解きの現場もあわせてご紹介しました。

概要

日時

平成29年2月4日(土曜日)午後7時~午後8時30分

講師

平松 正顕(ひらまつ まさあき)氏
国立天文台チリ観測所 助教

講演プログラム(当日配布したレジュメより)

  1. 太陽系外惑星の研究の進展
  2. 星と惑星の起源を探る、電波天文学
  3. 電波天文学の最先端、アルマ望遠鏡
  4. アルマ望遠鏡が見た宇宙
  5. 質疑応答

聴講者からの質問と講師回答

観測する星はどうやって決めているのですか?(Nさん・男性・42歳)

年に1回、世界中の研究者からの観測提案を募集します。世界中から集まった150名ほどの研究者が審査し、次の1年間の観測テーマを決定します。

アルマ望遠鏡でたとえば今日のお話にあったようなおうし座の星のまわりの様子を見るのには1つの星につきどのくらいの時間を要するのですか。写真のように一瞬? (Oさん・女性・36歳)

天体の種類によります。電波が強い天体であれば30秒で終わる場合もありますし、電波が弱い天体ではもっと長い時間が必要なこともあります。おうし座HL星の場合は、およそ10時間でした。

①アンテナに積もった砂(1)アンテナに積もった砂はどうしていますか? (2)ひとつの星を観るのにどれくらいの時間がかかりますか? (Fさん・女性・23歳)はどうしていますか? ②ひとつの星を観るのにどれくらいの時間がかかりますか? (Fさん・女性・23歳)

(1)できるだけアンテナに砂や雪が積もらないよう、使わない時はアンテナを風下に向けています。
(2)ひとつ前の質問と同様。

なんでアルマの写真にはいろいろな色があるのですか? (?さん・男性・9歳)

電波は目に見えないので、本当は色はありません。わかりやすいように色を塗ってあるだけなので、実際にあのような色で見えるわけではありません。

なぜチリや銀河は電波を出すのですか?(?さん・?・?歳)

チリを構成する極微小な粒子が振動しているからです。塵やガスに限らず、私たち自身の体も含めた世の中のすべての物体は、微弱ながら電波を出しています。

(1)アルマ望遠鏡の電波をキャッチする機械の開発にはどのくらいかかったのか?又どこで作っているのか。 (2)国立天文台(三鷹)に一般の人が訪れることができるのか。 (?さん・男性・63歳)

(1)日本でアルマ望遠鏡向け試作アンテナの予算がついたのが2002年、最初のアンテナが標高5000メートルに設置されたのが2009年、日本製のすべてのアンテナが標高5000メートルに揃ったのが2013年でした。受信機の開発と量産にも10年近くの年月がかかっています。
日本製のアンテナは、三菱電機通信機製作所(尼崎市)を中心とした80以上の企業が共同で開発したものです。アンテナの中に搭載される受信機は、国立天文台が中心となって10年近くかけて開発・量産しました。また日本製アンテナからやってくる信号をまとめて処理する専用計算機「相関器」は、富士通などの企業が開発に携わりました。
(2)年末年始以外はいつでも見学ができます。

どこのメーカーがこわれやすい?(Iさん・男性・64歳)

どこのメーカーが特別壊れやすい、ということはありません。

先生が最後に、ALMAはあと30年くらい観測をします、とおっしゃっていましたが、それはなぜ30年なのですか?ALMAの寿命はどれくらいですか? (Kさん・女性・35歳)

最初に装置の設計をするときに、30年使い続けられるものを、ということで作りました。日々のメンテナンスを確実に行うことで、それ以上使い続けられるようにしたいと思っています。また受信機や相関器など、部分的にアップグレードすることで性能はどんどん向上していきます。

アルマ望遠鏡の中で国によって性能が違うということはあるのでしょうか?また、そのようなことがあれば、どの国の望遠鏡が良いとはあるのですか? (?さん・女性・?歳)

求められる性能はすべてのアンテナがクリアしていますので、観測する時には大きな違いはありません。必要なスペック以上の性能では若干違いがあります。たとえば日本のアンテナは鏡面精度が非常に優れています。

(1)ALMA望遠鏡は国によって少し形がちがうとのことですが、性能や特徴に何か差はありますか? (2)望遠鏡の配置を変えたりしますか?頻度や目的も教えて下さい。 (?さん・女性・31歳)

(1)上記の通り性能はあまり違いがありません。形の面では、パラボラ面の上につきだした「副鏡」を支える4本の脚の形が異なっています。目に見えないところの特徴でいえば、日本とヨーロッパのアンテナは上下左右の首降りにリニアモーターを使っていますが、アメリカのアンテナは一般的なモーターとギアを使っています。
(2)配置は研究者の希望する研究テーマに応じて変えます。2016年10月から1年間の観測では、10回ほど配列を変えます。配列を変えることで、望遠から広角までズームレンズのように使うことができます。

干渉計をつなぐことさえできれば、もっと大きな望遠鏡にすることができるのですか? (?さん・女性・?歳)

できます。たとえばハワイやアメリカ本土にある望遠鏡と一緒に観測することで、何千キロメートルもの大きさの望遠鏡と同じ解像度を得ることができます。ただしこの場合は感度が落ちるので、ものすごく明るい天体しか観測できません。

(1)66台の干渉計をどのように配置したら、最も感度と分解能が上がりますか? (2)発見された糖類分子は、グリシンですか? (3)アルマの干渉計は、これから台数を増やす予定がありますか? (Tさん・男性・54歳)

(1)分解能を上げるにはアンテナをできるだけ広い範囲に展開します。感度を上げるにはアンテナをできるだけ狭い範囲にまとめます。これは相反するので、研究者は自分の研究テーマにあったアンテナ配列のタイミングで観測してもらえるように要望を出します。
(2)グリコールアルデヒド、という分子です。
(3)具体的な予定はありませんが、技術的な検討は行われています。

アルマ望遠鏡は1台1台規則的に並んでいるようには見えませんが、配列にはなにか意味があるのでしょうか。 (Nさん・男性・58歳)

限られた台数のアンテナで最もきれいに電波画像を作りだせるように、いろいろとシミュレーションした結果の配列です。等間隔にすると、実はきれいな画像が作れないのです。

アルマ望遠鏡の配置の位置が一様又は一定の規則に従っていないように見えるが、どのような意図で配置をしているのか?(等間隔で配置されていない)(Yさん・男性・50歳)

同上。

今後の宇宙観測で電波以外で行っているものはありますか?重力波以外で。 (Fさん・男性・65歳)

電磁波・重力波以外とすると、ニュートリノなどの宇宙線を観測するという手があります

天体のうしろにある星は重力レンズを使う以外では観測できないのでしょうか? (Pさん・女性・28歳)

手前にある天体が部分的に光や電波を通す場合は、通り抜けてきた光を観測することが可能な場合もあります。手前の天体が完全に不透明な場合は、重力レンズを使うしかないと思います。

(1)そもそもミリ波サブミリ波とは? (2)ALMAが出来るまで計画から建築まで ③3年前のテレビ東京「世界で働くお父さん」反響は? (Yさん・男性・?歳)

(1)波長が1ミリメートル~1センチメートルの電波をミリ波、0.1ミリメートルから1ミリメートルまでの電波をサブミリ波といいます。
(2)1983年に日本とアメリカで最初のアイディアが出され、のちにヨーロッパでも大型電波干渉計の計画が作られました。協力して検討を進める中で、3計画を統合してひとつの巨大電波干渉計を作ろうという機運が高まり、アルマ望遠鏡プロジェクトが誕生しました。詳しくは『アルマがわかるハンドブック』をご覧ください。
ALMAウェブサイト『アルマがわかるハンドブック』へ(外部サイトが別ウィンドウで開きます)
(3)科学好きに限らず多くの方に、アルマ望遠鏡について知っていただくよい機会になりました。

(1)太陽系の図の中に月が描かれていないのはなぜですか? (2)宇宙はどんな音がしているのですか?音を拾うことができるのですか?(Hさん・女性・?歳)

(1)講演中でお見せした図は、惑星と準惑星の図だけを書いたものでした。月はとても小さいので、描けないと思います。
(2)宇宙は真空に近いので、音はほとんど伝わりません。

(1)ALMA望遠鏡がVLBIに参加すると聞きました。例えばVERAと一緒に行うということで、さらにVSOPの計画があったと思いますが、VSOPは中止になったと聞きました。予算が立たなかったのでしょうか? (2)中国の500メートル、アレシボの能力をどのくらい上回っていますか?(Yさん・男性・57歳)

(1)VSOP2(ASTRO-G)は、宇宙空間で高精度なアンテナを展開するのが技術的に難しく、精度が十分に達成できないということで中止になりました。
(2)概算で言えば、中国の500メートルは一度の観測で直径300メートル分を、直径300メートルのアレシボは一度の観測で直径200メートル分を使うことができます。実質的な直径が1.5倍なので、観測波長が同じなら解像度は中国の500メートルのほうが1.5倍よくなります。また集光面積は中国のほうがおよそ2倍になります。

中国の500メートル観測実績は?(?さん・男性・?歳)

昨年(2016年)に完成したばかりなので、成果が出てくるのはこれからでしょう。

天文や物理に関する好きな本があれば教えて下さい。 (Rさん・女性・27歳)

最近はあまり本を読まないので、よくわかりません。科学雑誌Newtonは子供の頃から読んでいました。アルマ望遠鏡に関する本であれば、「アルマ望遠鏡が見た宇宙」(宝島社)が入門編です。

クエーサーは、今、どうなっていますか? (Hさん・男性・67歳)

今でも重要な観測ターゲットとしてアルマ望遠鏡でもほかの望遠鏡でも観測が続けられています。クェーサーのエネルギー源や進化の過程など、さまざまな謎が残されています。

系外惑星が確認できている星は宇宙年令のどれくらいの星ですか?宇宙初期には惑星の材料が少なかったので違うタイプの惑星系があったのかと考えますが…。 (Aさん・女性・?歳)

太陽系外惑星が観測できるのはせいぜい天の川銀河の中なので、それほど昔が見えているわけではありません。太陽系は46億年前に作られたので、少なくともそのころには地球のような惑星を作りだすのに十分な材料があったということになります。
宇宙のごく初期は、ご指摘の通り惑星の材料が少なかったはずなので、惑星形成の様子も今とは違っている可能性があります。

おうし座うみへび座の恒星系で「チリが無いところがある」ことがわかりましたが、それでは「その場所に惑星があるか」は観測しないんですか?(Yさん・女性・?歳)

観測に挑戦している研究者はいますが、今のところ見つかっていません。アルマ望遠鏡だけでは惑星は見つけられないかもしれないので、大型の光学赤外線望遠鏡を使った観測も試みられています。

原始惑星系円盤が惑星(木星クラスの大型)移動を推すメカニズムを説明願えますか。 (Tさん・男性・?歳)

惑星の重力によって、原始惑星系円盤に渦巻き模様が作られます。この渦巻き模様は惑星の回転の勢い(角運動量)を外側に抜き取る働きを持っているので、惑星は回転の勢いを失って内側に移動していきます。

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