プラネタリウム

第90回 本家・宇宙線で探る宇宙 ニュートリノだけじゃない、宇宙の謎を解く手がかり

宇宙からやってくる様々な電磁波・粒子を宇宙線と総称します。昨年初めて検出されて話題になった重力波や、ノーベル賞で盛り上がったニュートリノも、広い意味で宇宙線の新しい仲間とされています。
興味深い話題には事欠かない宇宙線研究ですが、今回はその中ではもっとも古典的で一見地味な、本家・宇宙線についてお話しをいただきました。

概要

日時

平成29年3月11日(土曜日)午後7時~午後8時30分

講師

有働 慈治(うどう しげはる)氏
神奈川大学工学部 物理学教室 助教

講演プログラム(当日配布したレジュメより)

  1. 宇宙線とは?
  2. マルチメッセンジャー
  3. 宇宙線の観測
  4. チベットASγ実験
  5. テレスコープアレイ実験
  6. 宇宙線研究者の生活
  • 質疑応答

聴講者からの質問と講師回答

GZK限界以上の高エネルギー宇宙線は、全く観測されていない訳ではないのでしょうか? (Tさん・男性・40歳)

観測されています。GZK限界以上のエネルギーになると、予想よりも少ない数しか観測されなくなります。

陽子による宇宙線は、π0中間子の崩壊だけですか?π(パイ)+やπ(パイ)-中間子による崩壊はありますか?(Tさん・男性・54歳)

π(パイ)0中間子になったものはγ線を作り、π(パイ)+やπ(パイ)-中間子になったものはμ中間子とニュートリノを作ります。

宇宙像のチェレンコフ光は核分裂時のチェレンコフ光と同じ性質のものですか? (Tさん・男性・54歳)

チェレンコフ光は、粒子が媒質中の光速を超えたときに出ます。核分裂時のチェレンコフ光というのは、おそらく原子炉内のことだと思いますが、媒質が空気か水か、という違いの他は、基本的に同じ性質といってよいでしょう。

宇宙線シャワーのニュートリノ分解の過程と高エネルギー装置で粒子をぶつけることによって粒子の内部を調べる過程の理屈は同じと判断して良いのでしょうか? (Yさん・男性・50歳)

ニュートリノは色々な過程で出てくるのですが、元の粒子のエネルギーが同じくらいなら、同じ理屈でニュートリノが出てきます。そのため、現在のような大型加速器ができる前は、宇宙線空気シャワーの研究が素粒子物理学の検証に役立っていました。

大気蛍光望遠鏡はどの程度の寿命(運用耐久年数)を見ていますか?(Nさん・男性・58歳)

反射鏡と光センサーのどちらが先に寿命を迎えるかはわかりませんが、これまで 10年くらい耐えてくれたので、もう 10年くらい... と期待しています。

(先生は)どうして宇宙線を研究しようとおもわれたのですか?(?さん・女性・28歳) (先生は)どのようなことから、宇宙線に興味を持ち、今の研究に至ったのですか?(?さん・女性・?歳)

元々は天文少年で、天文・宇宙を勉強できそうな物理学科に進学しました。宇宙線を研究している研究室がふたつあったのですが、チベットで実験、という言葉につられて卒研に選びました。

もしも、宇宙線がどこからどうやって来るかわかったら、他のナゾの解明にもつながりますか?たとえば、宇宙の起源にせまったり、ダークマターの正体を暴いたり…。また、そういった野望を持って研究しているのでしょうか?(Yさん・女性・38歳)

宇宙の起源とまではいきませんが、宇宙の進化 (星がたくさん作られたのはいつ頃か、など) には関連があると考えられています。また、宇宙線の中の陽電子や反陽子を調べることで、ダークマターの正体を探る実験もあります。野望というほどのことはありませんが、宇宙からやってきている以上、研究していれば必ず宇宙論に繋がっていくだろうとは考えています。

この研究によって、(研究成果は)今後どのようなことに活用されるのでしょうか?(Nさん・女性・?歳)

あくまでも自然科学ですので、すぐに何かの役にたつ、というようなことはありません。現時点で活用されている、と言えそうなものとしては、宇宙線量の変化を見て太陽フレアを予測する宇宙天気予報という研究があります。

私たちに宇宙線は影響あるのでしょうか…?(Nさん・女性・28歳)

日常的には影響ありませんが、上空 10km を飛ぶ国際線では地上よりも宇宙線空気シャワーによる被曝が多くなります。乗客には影響ありませんが、乗務員には年間の搭乗時間制限が設けられています。

ずばり、宇宙線とは何ですか?(Nさん・女性・28歳)

大変むずかしい質問です...。広義の宇宙線に対しては、最近よく使われている「メッセンジャー (使者)」という言葉が最も適当だと思います。
長い間、人類に宇宙の様子を教えてくれるメッセンジャーは光 (電磁波) だけでしたが、この 100年あまりの間に、宇宙線、ニュートリノ、重力波と、一気に種類が増えました。それぞれ違った特徴をもったメッセンジャーなので、宇宙を知る手がかりが、それだけたくさん得られるようになりました。
もうひとつ、個人的に好きな言葉では「プローブ (探針)」という言葉があります。こちらは狭義の宇宙線に対する言葉ですが、電荷を持った宇宙線を観測することが、銀河磁場や太陽系周辺の様子を知る手がかりになるということです。他のメッセンジャー達にはない、荷電粒子ならではの役割だと思います。

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