プラネタリウム

第95回 すばる望遠鏡のデータを使って宇宙旅行を楽しもう

1608年に望遠鏡が発明されてから約400年、望遠鏡はより大きく進化してきました。望遠鏡が進化してなされる科学的発見の裏には、それを支える工学技術の発展が必要です。「すばる望遠鏡」は、日本の最新技術の粋をこらした望遠鏡です。

ハワイ島マウナケア山頂にある「すばる望遠鏡」は、ハイパー・シュプリーム・カム(HSC)という、超広視野カメラを持っています。2014年から、HSCを使った大規模な戦略枠観測プログラムが始まり、その第一期データが2017年2月に全世界に公開されました。誰でも、すばる望遠鏡の本物のデータに触れることができるようになりました。
本講演では、すばる望遠鏡の模型を触ったり、最新のデータに触れながら親しみを感じていただきました。また、「HSCビューワ」を使って、すばるのデータで手軽にバーチャル宇宙旅行する方法をご紹介しました。さらに、現在計画中である、一般市民の方々にも、すばるのデータ解析を手伝っていただく「市民天文学」プロジェクトについてもご紹介しました。

概要

日時

平成30年2月3日(土曜日)午後7時~午後8時30分

講師

臼田-佐藤 功美子(うすだ-さとう くみこ)氏
国立天文台天文情報センター 特任専門員

講演プログラム(当日配布したレジュメより)

  1. 自己紹介
  2. 国立天文台について
  3. 望遠鏡を使って宇宙を調べる
  4. すばる望遠鏡について(マウナケア山頂に行ってみよう!ショートムービー)
  5. 超広視野カメラ、ハイパー・シュプリーム・カム(HSC)
  6. すばる望遠鏡の3D模型を触ろう
  7. HSCを使った戦略枠観測プログラム
  8. HSCデータを誰でも使える?「HSCビューワ」について
  9. いろいろな形の「衝突する銀河」
  10. すばるからTMTへ:30メートル望遠鏡計画
  • 質疑応答

聴講者からの質問と講師回答

(注)この回答は、平成30年3月時点のものです。

(すばる望遠鏡の)反射の鏡とは、「鏡」ですか?反射材ですか?汚れて支障がでることはないのでしょうか?また、メンテナンスはどんなことをしているのでしょうか?(Hさん・男性・66歳)

鏡です。厳密に言えば、表面を凹面の形に磨いたガラス材にアルミニウムでメッキをして、光を反射するようにしています。汚れると支障が出るため、メンテナンスとして、2週間ごとにドライアイスによる洗浄、2~3年ごとにアルミニウムの再蒸着(コーティング)がなされています。
詳しくは、すばる望遠鏡のサイト内「すばるを支える最新技術」ページ(外部サイトが別ウィンドウで開きます。)をご覧下さい。

すばる望遠鏡へは行かなくともリモートで操作や研究ができるということでしょうか?現地に行くのは、メンテナンスや改修、テストのためにくらいなのでしょうか?(Hさん・男性・40歳)

現在、観測はハワイ島マウナケア山頂の観測棟(すばる望遠鏡のとなりの建物)、ハワイ島ヒロ市の山麓施設、東京三鷹市の国立天文台の3箇所から行えます。どこから観測を行うかは、観測者の希望が尊重されます。今ではヒロまたは三鷹からのリモート観測が増えています。リモート観測を行う場合でも、オペレーターという職業の方2人が山頂の観測室にいて、TV会議システムで山麓施設の観測者と密な連絡をとりあいながら観測をすすめます。

山頂施設または山麓施設での観測のようすについては、すばる望遠鏡サイト内「すばる望遠鏡での観測」ページ(外部サイトが別ウィンドウで開きます。)をご覧下さい。
また、リモート観測風景の動画(外部サイトが別ウィンドウで開きます。)もあります。

あんなに高いところにどうやって大きな望遠鏡をつくったんですか?(Sさん・男性・6歳)

ドームと望遠鏡本体は、別のところ(山の上ではないところ)で一度組み立て、出来具合を確かめてから一度ばらして、山頂に運んでから組み立てました。
望遠鏡の建設のようすは、すばる望遠鏡サイト内すばるギャラリー「すばる望遠鏡建設風景」(外部サイトが別ウィンドウで開きます。)をご覧下さい。
あわせて年表(外部サイトが別ウィンドウで開きます。)もご覧下さい。

すばる望遠鏡を作った人はだれなのですか?(Hさん・男性・10歳)

すばる望遠鏡は、日本の国立天文台が作りました。望遠鏡やドーム、観測装置を作るのには、日本の企業の協力を、主鏡を作る時にはアメリカの企業の協力を得ています。

(すばる望遠鏡で)太陽系外惑星の撮影ができたときには、どの位の明るさ(等級)で見えたのでしょうか? (Nさん・男性・59歳)

例えば、2013年に発表された「第二の木星」の直接撮像(外部サイトが別ウィンドウで開きます。)では、赤外線の波長で17~20等です。中心にある恒星の60万分の1くらいの明るさしかありません。そのため、中心星からの光を遮る「コロナグラフ」を使って観測されています。(そのため、上記サイトにある画像の真ん中が、黒くぬけています。)コロナグラフについては、例えば(一世代前の装置ですが) すばる望遠鏡サイト内「コロナグラフ撮影装置 CIAO」(外部サイトが別ウィンドウで開きます。)をご覧下さい。

すばる望遠鏡では、NASAが昨年(2017年)発表したトラピスト1の観測も行いますか?観測にはどのくらい時間がかかり、いつ頃世間に公開されるものでしょうか?(Oさん・女性・37歳)

すばる望遠鏡ではトラピスト1に関する成果発表は行っていません。また、観測時間は内容や目的によるので一概に言えません。観測時間を得るには観測提案書を提出し、審査を経て採択される必要がありますが、観測提案は1~2夜くらいで行われることが多いです。観測結果を解析し、論文として発表するまでの時間も一概には言えませんが、データ自身は、観測から1年後には公開されるので、誰でも使うことができます。

少ないながらも発生する大気のゆらぎを補正するために、人工星をレーザーで発生させていると聞いたことがあります。これは本当でしょうか?もし本当なら、なぜ補正できるのでしょうか?(Fさん・男性・51歳)

本当です。大気の揺らぎを補正する「補償光学」装置を使うためには、観測天体の近くに恒星などの点光源が必要です。恒星を使って、大気の揺らぎのよる光の乱れを測定するからです。しかし実際には、観測天体の近くに都合よく恒星があることが少なく、そのため、レーザーを上空90キロメートルのナトリウム層に照射して、人工の星(点光源)を作ります。
くわしくは、すばる望遠鏡のサイト(外部サイトが別ウィンドウで開きます。)をご覧下さい。

(ハイパーシュプリームカムの)高感度カメラで撮影したの画像は4K、8K画面で見られるのでしょうか? (Wさん・男性・67歳)

見られると思いますが、まずはご自分のパソコンまたはタブレットでお楽しみ下さい。詳しくは、国立天文台トピックス(外部サイトが別ウィンドウで開きます。)をご覧下さい。

HSCビューワーを使う際のPCやインターネット回線のスペックはどのくらいあれば良いでしょうか? (Hさん・男性・41歳)

他のウェブサイトにアクセスするのに必要なスペックがあれば大丈夫です。

(HSCビューワーで見た銀河画像について)銀河の雲のように見えるのは何ですか?(Hさん・?・?歳)

銀河は恒星の集まりで、広がりを持っているからです。例えば、南半球から見えやすい「大マゼラン雲」「小マゼラン雲」は、私たちが住む天の川銀河の外にある小さな銀河ですが、雲のように見えます。HSCビューワで、まるい銀河、細長い銀河、渦をまいた銀河など、いろいろな形のものを探してみて下さい。

膨大なデータから星や銀河に関する大発見をするのは、すごく難しそうだと思いました。データ処理の技術が進むと、どんな宇宙のナゾが解明されると思いますか?(?さん・?・?歳)

いろいろなことを解明しようと、沢山の研究者が、このすばる望遠鏡+ハイパー・シュプリーム・カムのデータを使っています。私たちが「市民天文学」プログラムで知りたいのは、銀河がどのように進化してきたのか(衝突しながら、どのように大きさや形を変えてきたのか)です。
いろいろな研究テーマについては、Hyper Suprime-Cam Subaru Strategic Program(すばるHSC戦略枠プログラム)のサイト内Scienceのページ(外部サイトが別ウィンドウで開きます。)をご覧下さい。(現時点では英語ページのみ)

銀河や星の名前はどうやってきめているんですか?(?さん・?・?歳)

基本的には、発見した人が論文の中で呼び方を決めています。が、見つかる天体の数がものすごく多く、ひとつひとつの名前を決めるのが大変なため、座標(天の緯度と経度である「赤経」と「赤緯」)の数字を並べたものが多いです。

天体、銀河までの距離は分光によってわかると思いますが、もう少し説明していただけますか? (Tさん・男性・?歳)

距離の測り方は、どのくらい遠い天体によって方法が変わります。詳しくは、国立天文台のサイト内「星までの距離はどうやって測定するの?」(外部サイトが別ウィンドウで開きます。)をご覧下さい。

(すばる望遠鏡やTMTの)観測のひとつのテーマとして、遠い銀河を見ること、それはより昔の銀河を見ること、知ることになるが、宇宙あるいは銀河の成り立ちを知る事ができるのでしょうか?また、何億光年まで見える可能性があるのでしょうか?(Tさん・男性・57歳)

おっしゃる通り、(光の速さが有限であるため)遠くを見るとより昔の天体が見えます。より遠くを見てより昔の宇宙を調べ、始まりから現在までの宇宙の歴史を調べています。その中で、銀河がどのように成長してきたかは、大きなテーマのひとつです。すばる望遠鏡など、現在稼働している望遠鏡で見える最も遠い銀河は(すばる望遠鏡のとなりにある、アメリカのケック望遠鏡で観測された)EGSY8p7という銀河で、132億光年の距離にあります(132億年前の銀河です)。TMTでは、それよりも遠い、宇宙が始まってから最初に生まれた銀河にせまる予定です。

宇宙誕生138億年というお話が出ましたが、ついこの間までは137億年と言われていたように思います。1億年の違いはどういった根拠によるものですか?そこにすばる望遠鏡の活躍もありましたか? (Iさん・男性・46歳)

すばる望遠鏡ではなく、「宇宙マイクロ波背景放射」の温度の精密な地図を作った「プランク(Plank)衛星」が活躍しました。プランク衛星の前に、WMAP衛星で同様の観測を行ったところ、宇宙の年齢は137±2億歳と求まりました。プランク衛星で、より精度の高い観測を行った結果、宇宙の年齢が138.13 ± 0.58億歳となりました。詳細については、理科年表のサイト「宇宙の年齢が1億歳延びた?」(外部サイトが別ウィンドウで開きます。)をご覧下さい。

TMTはいつごろできるのですか?(Yさん・男性・73歳/Iさん・男性・57歳)

現在、2027年観測開始を目指しています。

天文手話ってどんなものをどのように表すのでしょうか?(Iさん・男性・57歳)

私たちのプロジェクトは始まったばかりですが、「天文学」「太陽」「月」「星」「彗星」など、日常よく使うと思われる用語47語について、世界各国の手話を集めました。詳しくは国際天文学連合(IAU)のリリース(外部サイトが別ウィンドウで開きます。)をご覧下さい。
また、私たちが集めた世界各国の手話をまとめたシートは こちら(外部サイトが別ウィンドウで開きます。)よりご覧になれます。

※以下のご質問は、本講演内容には直接関係はありませんでしたが、講師より回答を頂きましたので、合わせて掲載いたします。

初期の銀河も2032年頃観測可とのことですが、何百億年、何千億年前の銀河の光から、宝物が現存するとの理解可なのですか? 銀河の合体途中の光?磁波の透明な形が、近海河川に生きる極小さい生物の透明さと光に反射する様が一様に思えるのは、地球の重力と同様な作用でできるのか? (Kさん・女性・71歳)

おもしろいご発想ですね。生物の体からの反射は、地球の重力とは無関係でしょう。何を宝物と思うからは、人それぞれでしょうが、宇宙が始まってから最初に生まれた銀河を発見することは、私たちの宇宙の歴史を調べる上で、大変重要なことですから、宝物と言ってもいいでしょう。

かいき月食の月はなぜ赤色なのですか?(Hさん・男性・10歳)

国立天文台の「皆既月食を観察しよう2018」サイト内、「皆既食中の色に注目しよう!」のページ(外部サイトが別ウィンドウで開きます。)をご覧下さい。

ずっと宇宙を観測していると、期せずして未確認飛行物体が観測されてしまうこともありますか?もし観測されたらどのように処理されるのですか?(火山の多いところには、UFOが良く出るとこの前テレビでやっていました)(Oさん・女性・37歳)

UFOは残念ながらまだ科学として扱えない領域です。科学として扱うためには再現性(ここでまた見られるということ)、客観性(複数の人が独立に見たという報告があること)が必要です。そもそもUFOは、「未確認(Unidentified)」飛行物体なので、正式に確認されたら、"U"FOではなくなってしまいますね。

30億年で天の川銀河とアンドロメダ銀河が交わると言われていたが、地球の成り立ちからするととても短い時間のように感じる。(Tさん・男性・57歳)

おっしゃる通りです。太陽はあと50億年くらい生きると考えられています。ということは、太陽が最期を迎える前に、天の川銀河とアンドロメダ銀河が衝突するということになります。

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