プラネタリウム

第106回 日本の銀河研究の歩み 岡山188cm望遠鏡から世界の先端へ

我が国の銀河研究は、1930年代に欧米の研究の紹介から始まりました。第二次大戦後1960年岡山に188cmの望遠鏡が建設されて、ようやく自前の研究がスタートしました。それから約60年、すばる望遠鏡やアルマ望遠鏡などの活躍により、日本の銀河研究は世界の最先端をになっています。本講演では、ここまでの歩みを振り返りました。

概要

日時

令和2年1月18日(土曜日)午後7時~午後8時30分

講師

岡村 定矩(おかむら さだのり)氏
東京大学名誉教授/東京大学EMPチェアマン補佐

講演プログラム(当日配布したレジュメより)

  1. 銀河からなる宇宙とその進化
  2. ゆりかごから独り立ちへ
  3. 発展期(木曽観測所)
    ブレイクタイム ※
  4. すばる望遠鏡
  5. アルマ望遠鏡
    質疑応答

    (補足)
    ※インターネット天文学辞典(公益財団法人日本天文学会)
    https://astro-dic.jp/の紹介と検索実演が行われました。

聴講者からの質問と講師回答

岡山望遠鏡(口径1.9m)からすばる望遠鏡(口径8.2m)へいきなりの開発だというお話でしたが、その間、口径4m級の望遠鏡を開発をしようという計画はなかったのでしょうか?(Eさん・女性・52歳)

簡単に答えるのは難しい質問です。あったと言えばあったしなかったと言えばなかったとも言えます。

岡山74インチの次の望遠鏡計画の検討は1974年にシュミット望遠鏡とともに木曽観測所が設立された後、1970年代の後半から始まっていました。東京天文台は国内に岡山望遠鏡の2倍(150インチ=3.8m)の望遠鏡を国内に作る考えを持っていましたが、京都大学の研究者を中心に、次の望遠鏡は観測条件の良い海外適地に置くべきだという機運が出てきました。この「次期望遠鏡計画」を巡る検討は、その後数年、日本中の関連研究者を巻き込んで続きました。みんな海外に作れれば良いと思ってはいましたが、それは到底すぐに実現しそうにないので、まずは国内に作って実力を付けてから海外に作るという現実路線が良いと考える人も多かったのです。1980年には関連研究者の全国組織「光学天文連絡会(光天連)」が結成され検討の中心となりました。1982年には野辺山宇宙電波観測所が開所し、次はいよいよ光学望遠鏡の予算要求をする時期になりましたが、計画はなかなかまとまりませんでした。一時は国内に3m、海外に2m程度の中口径望遠鏡を先ず作り、その後海外に大型望遠鏡を作るという「三本柱計画」まで出てきました。1984年にようやく、海外に大型望遠鏡を設置するという方向で光天連の意見がまとまり、東京天文台にハワイのマウナケア山頂に設置することを目指した「大望遠鏡計画調査室」が設置されました。当初は口径7.5mでしたが、ヨーロッパやアメリカが口径8-8.1mの望遠鏡計画を進めていたので、やるなら(1枚主鏡として)世界一を目指すということで、途中で口径8.2mに変更されました。この計画に予算がつき建設を開始したのが1991年で、完成(ファーストライト)は1999年です。2000年から共同利用観測を開始しました。建設以前の計画ではJNLT(Japan National Large Telescope)と呼ばれていましたが、公募によって「すばる」という名前になりました。

日本の銀河研究を助けた企業に三菱とキヤノンがあると知りました。他に活躍した日本の企業はありますか?(Hさん・女性・41歳)

すばる望遠鏡で言えば、三菱電機が総合請負業者で、キヤノンは広視野カメラに必須の主焦点補正光学系を製作しました。望遠鏡の制御およびデータ解析に欠かせないコンピュータシステムは富士通が請け負いました。アルマ望遠鏡では、日本担当のアンテナは三菱電機が製作し、コンピュータは富士通が製作しました。何れも大プロジェクトなので、これら三つの元請け大企業の下で活躍・貢献した中小企業はたくさんあります。

すばる望遠鏡よりも大型の、30mクラスの光学望遠鏡の建設計画はどのようになっているでしょうか。アルマ望遠鏡同様、国際協同プロジェクトでしょうか?(Nさん・男性・61歳)

日本が関わるTMT(Thirty Meter Telescope:ハワイのマウナケア山頂に置く口径30mの望遠鏡)は、日本、アメリカ、カナダ、中国、インドの国際協力事業です。ご存知のように、ハワイの先住民の一部から反対運動が起きて建設工事が現在中断しています。南米のチリに建設中のGMT(Giant Magellan Telescope: 8.4メートルの円形の鏡を7枚組み合わせた合成鏡で合成有効口径は24.5m)は、アメリカ、韓国、オーストラリアなどが参加する国際プロジェクトです。16ヶ国が加盟するヨーロッパ南天天文台(ESO)は超巨大望遠鏡E-ELT(European Extremely Large Telescope: 口径39m)をチリに建設中です。

写真乾板で得た情報を現在の天文研究において利用することはあるのでしょうか?(Aさん・女性・?歳)

写真乾板はほぼ100年前から天文観測に使われた最も古い検出器で、現在でも多くのものが保管されています。新しい天体が発見された場合に古い記録を確認するなど、主に古記録として活用されています。
https://astro-dic.jp/photographic-plate/

銀河はひとつひとつが(回ってる?)集まっていますが、とびちらないのですか?(?さん・男性・66歳)

渦巻銀河は回転しています。回転による遠心力が内側に引っ張る重力とちょうど釣り合うような速度で回っているので星が飛び散ることはありません。また、多数の銀河の集団である銀河団の中でも銀河は動いています。この場合も飛び散ろうとする力が引っ張る重力と釣り合っているので、銀河団がバラバラにはなりません。
ある形を保っている天体(自己重力系)ではこのように、バラバラになろうとする力と引き止める重力(自分自身の重力)が釣り合っています。
https://astro-dic.jp/self-gravitating-system/

天の川銀河が横に広がっているとのことですが、横というのはいわゆる水平(XY方向)なのでしょうか?また、どのようにして横のみがひろがったのでしょうか?縦方向には広がらない理由は何なのでしょうか?(?さん・男性・36歳)

銀河は巨大なガス雲(原始銀河雲)が自分の重力で収縮してできます。収縮の過程でガスから星ができます。もとの大きさの100分の1くらいまで収縮するのですが、小さくなると全体が回転を始めます。あとで説明する角運動量保存の法則のためです。回転を始めると回転軸に垂直な方向には遠心力が働くので、収縮しにくくなります。回転軸方向には遠心力が働かないので、重力収縮が妨げられずどんどん収縮して薄くなります。銀河でなく星ができるときにも、このように回転するガスが自己重力で収縮すると必ず扁平な円盤構造ができます。
角運動量Lとは回転する勢いみたいなもので、回転するものの質量mと速さvと回転中心からの距離rを掛け合わせた量です。すなわちL=mrvです。外部から力が働かなければ角運動量は保存する(変化しない)というのは物理法則です。原始銀河雲の中でガスはいろんな方向に運動していますが、全ての向きの運動が全て打ち消し合ってゼロになることはなく、ある向きの回転速度がほんの少し残ります。重力収縮で大きさが小さくなるとL=mrvの値は同じでrが小さくなるので、大きな時は目立たなかった小さなvが大きくなって回転が速くなるのです。フィギュアスケーターのスピンが広げた両手を縮めると回転が速くなるのも同じ原理です。
従って、横となる方向は原始銀河雲の中で回転がわずかに優勢だった方向なのです。ただし、銀河が回転する原因は銀河同士の近接遭遇にもあります。ある銀河のすぐ近くを別の銀河が通り過ぎるとその重力の影響で回転するようになることもあります。
https://www.youtube.com/watch?v=3CWc53KBoDU

銀河と銀河の間には、星はないのでしょうか?銀河と銀河の間の星から見上げる夜空には、2つの銀河が光って見える他には星は見えず、(地球から見る星空のようには見えない)暗い夜空なんでしょうか?(Hさん・男性・45歳)

銀河団のなかでは、銀河同士が衝突したり近接遭遇したりするときに銀河からはぎ取られた星が銀河間の空間に散在しています。しかしこれは銀河に属する星に比べればごくわずかの量です。銀河間空間にある星からみた夜空の見え方は、その星と近くの銀河の位置関係によってさまざまに変わるので、一概にはなんとも言えません。
https://www.youtube.com/watch?v=3CWc53KBoDU

アンドロメダ銀河と銀河系は約40億年後に衝突すると考えられています。そのときの夜空の様子のコンピュータシミュレーションが以下から見られます。
https://www.astroarts.co.jp/news/2012/06/04andromeda/index-j.shtml
https://hubblesite.org/contents/media/videos/2012/20/702-Video.html?Year=2012&page=2&filterUUID=8a87f02e-e18b-4126-8133-2576f4fdc5e2&news=true

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