プラネタリウム

第107回 流星群の予報研究とは? 身近な天文現象もわからない事だらけだった

流星群と言えば、天気予報で紹介される程なじみのある天文現象です。しかし、かつて「予報は無理だ」とさえ思える事象もありました。一方で、近年では詳細な予報も可能となり、準備を整えて観測に臨めるようになってきました。では、一体どのように流星群の予報研究は進展したのでしょうか。最新の研究成果をまじえてご紹介しました。

(講師からのメッセージ)
流れ星や流星群は、とても人気のある天文現象ですが、いまだ「〇時〇分〇秒に明るい流星が流れます。〇○の空をぜひご覧ください。」というような、詳しい予報をすることは、叶っておりません。しかしながら、流星を見る上で、少しでも役に立つ情報をみなさんにお伝えできるよう、個人的ではありますが流星群の予報研究に励んでおります。 
今日のお話を聞かれたみなさんが、「こんな研究をしている変な人がいたなぁ」なんて思い出しながら流れ星を観察していただけたら、とても嬉しいです。

概要

日時

令和2年2月22日(土曜日)午後7時~午後8時30分

講師

佐藤 幹哉(さとう・みきや)氏
流星研究家/日本流星研究会

講演プログラム(当日配布したレジュメより)

  1. 流星群予報の夜明け前
    -1,日本流星界の悪夢の一夜
    (1972年ジャコビニ流星群)
    -2,予報未確認のまま極大突入
    (2001年しし座流星群)
  2. 流星と流星群
    -1,流星群の発見
    (1833年しし座流星群)
    -2,母天体(母彗星)と流星群
    (ビエラ彗星とアンドロメダ流星群)
    -3,流星と流星群の定義
  3. 定常群の予報
    -1,統計的手法による三大流星群の予報
    -2,みんなそこまでは考えていない
  4. 突発(周期)流星群の予報研究
    -1,ダスト・トレイルモデルの革命
    -2,幻のほうおう座流星群、検証と予報と観測と
  5. 今後の流星雨について

質疑応答

聴講者からの質問と講師回答

突発群(周期群)の流星群が定常に移っていくとこはありますか?また流星群が消滅してしまうことはありますか?(Nさん・男性・61歳)

 長い年月を経ていくと、ダスト・トレイルが拡散していきますので、少しずつ定常的になっていく流星群は、実際に存在すると思われます。現在で言うと、しし座流星群が定常群に進行している最中だと思っています。
 また、定常流星群が見られなくなる可能性もあります。ダストの流れ(ダストストリーム)が、惑星引力による影響(摂動)によって少しずつ変化することで、地球軌道と交差しなくなるような場合です。逆に、現在は全く出現していませんが、将来新たに出現してくる流星群もきっとあるはずです。
 ちなみに、ふたご座流星群は、今からおよそ150年前から見え始め、現在も徐々に活発になっているようです。軌道の変化を計算してみると、あと200年くらいは活動すると推測していますが、いずれは徐々に数を減らして見えなくなると推測されます。

流星をデジカメで撮影すると、夏のペルセウス流星群はカラフルに写る流星が多く、冬のふたご座流星群は白っぽく写る流星が多いようですが、色の違いの原因は何でしょうか?運動エネルギー(流星体の対地速度)の違いでしょうか?(Tさん・男性・43歳)

 流星は、流星物質(砂粒のようなダスト)が地球の大気と反応し、本体に由来する物質(おもにマグネシウム・ナトリウム・鉄などの金属)や大気に含まれる物質(酸素原子や窒素分子)が、プラズマ状態になって発光し、輝いて見えています。明るい流星では、マグネシウムが多く発光して青っぽく見えたり、ナトリウムでオレンジっぽく見えたりするなど、個々に色がついて見えることがありますが、一般的には色が混ざって見えるため、白っぽい流星として見られます。
 一方で、写真の色の写り方には、流星自体の色以外に「短痕」というものが影響します。短痕とは、流星が流れた経路に沿って光が若干残り、筋(すじ)のような跡が見られるもので、おもに酸素原子が緑色に発光しています。短痕は流星より暗いのですが、同じ場所で10分の数秒~数秒間光っていますので、一瞬光って次の部分に移動してしまう流星本体の光よりも写真に写りやすくなります。また、一般的には速い流星の方が、短痕が残りやすい傾向にあります(ご指摘のように運動エネルギーが大きいことによるものだと思いますが、あまりはっきりとは調べられていないようです)。このため、ペルセウス座流星群、みずがめ座η流星群、しし座流星群などの高速な流星群では、短痕の緑と、流星本体の色が混じり合って、カラフルに写って見えることが多いと思います。
 しかし、あまり速くないふたご座流星群では、短痕が残りにくい傾向にあり、多くは白っぽい流星となって写ると思います。

ゆっくり流れる星と、速く流れる星は何がちがうのですか?(Aさん・女性・59歳)

 一番大きく影響するのは、地球にどちらの方向から突入してくるかです。地球は、太陽のまわりをおよそ秒速30kmで周回して移動していますが、この方向の前面(正面)から突入してくると、動いている地球の速度と流星の速度が加わり、相対速度が速くなって速く流れる流星になります。しし座流星群の流星がこの代表で、秒速約70kmです。
 一方で、地球を追い越すようにして、移動している地球の後方から突入してくる流星もあります。この場合は、流星の速度から地球の速度から差し引かれ、相対速度が遅くなり、ゆっくり流れる流星になります。ほうおう座流星群の流星がこの代表で、秒速10km程度です。
 なお、流星物質自体が太陽系内を移動する(地球に突入してくる)速度にも差がありますが、流星となって見える速度への影響は、前に述べた理由よりも小さいです。

母天体になる彗星の直径はどれくらいですか(たとえば、しし座流星群の母天体など)?(Aさん・女性・59歳)

おもな流星群の母天体の直径をご紹介します(なお研究によって諸説あります)。
※注:母天体の読み方には、さまざまなものがあります。
●しし座流星群
 母天体:テンペル・タットル彗星(55P/Tempel-Tuttle)-直径3.6km
●10月りゅう座流星群(ジャコビニ流星群)
 母天体:ジャコビニ・チンナー彗星(21P/Giacobini-Zinner)-直径2.0km
●ペルセウス座流星群
 母天体:スイフト・タットル彗星(109P/Swift-Tuttle)-直径26km
●ふたご座流星群
 母天体:(小惑星)ファエトン(3200 Phaethon)-直径6.25km
●オリオン座流星群およびみずがめ座η流星群
 母天体:ハレー彗星(1P/Halley)-大きさ14×7×7km(細長い形状)

流星の観測点による地域差はどれくらいあるものなのでしょうか?また1つの流星はどのくらいの範囲で観測できるものなのでしょうか?(Nさん・男性・42歳)

 流星群全体として考えた場合は、流星の元の物質の流れ(ダストストリーム)は地球の大きさよりも太いため、日本国内であれば「流星群」の見え方にはさほど変わりはありません。ただ世界的に見ると、その場所で流星群の放射点の高さ(流星が飛び込んでくる方向)が相当異なりますので、だいぶ差が出てきます。
 個々の流星では、見る位置によって変化があります。遠い位置から見上げると暗く見えますし、流星の真下から見上げると明るく見えます。経路も見込み方によって長く見えたり短く見えたりします。
 流星はおよそ上空100kmで光っていますので、一般的にはおよそ200~300km程の範囲で観測が可能です。低い空までカバーすることができれば、さらに広範囲で見ることができます。ただし、前述の通り、遠いと暗くなり見えづらくなります。個人的な最近の経験では、伊豆から四国上空(約500km遠方)に出現した明るい流星を観察したことがあります。

自分が中学生か高校生のころ(20~25年前)午後11時くらいに、茨城の庭で大量の流星をみました。それから同じ量の流星を見たいとずっと思っていますが何だったのか分かりません。わかりますでしょうか?(HMさん・女性・39歳)

 貴重な経験ですね。私の知っている範囲で内容から考えられる有力な候補は、1998年の10月りゅう座流星群(ジャコビニ流星群)です。もう少し詳しい情報をお聞かせいただければ、さらにはっきりと限定できるかもしれません。

《1998年10月8日:10月りゅう座流星群(ジャコビニ流星群)》
夕方暗くなってから少しずつ流れていましたが、22時過ぎ(午後10時過ぎ)に極大を迎えました。ただし、23時くらいにはほとんど流れなくなりました。私は当時山梨県で観測していまして、22時~22時30分の30分間に44個の流星を数えました(1時間あたり88個)。

人工の流星を作ろうとしているとききましたが、可能ですか?また、ビジネスになると思いますか?(?さん・男性・67歳)
人工流星という話があります。流星の研究家としてどう思われますか?(Tさん・男性・55歳)
人工で流星を作ろうとしているベンチャー企業があると前にニュースで見たのですがご存知でしょうか?また人の手で作る流星ができたとしたら、流星の研究には何か変化があると思いますか?(Pさん・男性・44歳)
人工の流星をつくる取り組みが最近ではありますが、(流星の)専門家から見ると、人工の流星はどのようにかんじるのでしょうか?(Yさん・女性・32歳)

 人工の流星に関する質問をいくつかいただきましたので、まとめてお答え致します。確かに、現在、地球を周回する人工衛星から高速で金属の球体を撃ち出して、人工の流星を出現させるプロジェクトが進んでいます。実際に、2020年には実験が始まると伺っています。
 私はこのプロジェクトには関与しておりませんが、科学的な視点からは、大変興味深い要素があります。本物の流星の場合は、その元になったチリの粒がどんなものであったかを調べることはできません。しかし、この実験では、あらかじめ組成がわかった物質からの人工流星を出現させます。その光り方を調べることで、本物の流星の光る仕組みに迫れる可能性があると考えています。ただし、地球の外部から突入してくる本物の流星に対して、人工衛星から撃ち出すこの人工流星は速度が遅いため、その違いは注意が必要です。
 また、流星群の予報研究は今回お話ししました通り進歩してきましたが、「何時何分にこの空に流星が出現します」という細かい予報までは実現できておりません。一方、人工流星では、あらかじめ流れる範囲と流れる時刻がわかりますので、より多くの人に見ていただくことが可能になります。そこで、なるべく多くの方に見ていただくことで、本物の流星自体にも関心を持っていただけるような状況を作り出したいと、あれこれ思いを巡らせています。
 この実験には、膨大な費用がかかりますから、ビジネスにするのは大変だと思いますが、逆にショー的な要素があった方が、資金を獲得しやすいのも事実です。幸い、このプロジェクトには流星分野を含む多くの研究者が関わっているようですので、単なるショーアップだけではなく、科学的な研究も進められるものと期待しています。
 なお、人工の流星はとてもゆっくりで、また経路も長く見られると予想します。願い事を何回も言えるくらいに光り続けるのでは、と予想し、とあるプラネタリウムの番組中で、人工流星を再現する番組を作って解説したことがあります。そのときには、観覧の皆様にも関心を持っていただけたようでした。

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