プラネタリウム

第108回 2022年、ふたたび月へ ついに、ついに、月へのチャレンジが始動する

2022年、いよいよ新世代の月探査が動き出します。アメリカ合衆国が提唱して日本も参加している有人月探査計画「アルテミス計画」や、日本の民間月面超小型ローバー「YAOKI(ヤオキ)」、同じく日本の民間月面探査機「HAKUTO-R(ハクト‐アール)」。
日本で、そして世界で動き出した月探査の大きな潮流をご紹介いただき、私たちの向き合い方を考えました。

概要

日時

令和4年1月29日(土曜日)午後7時~午後8時30分

講師

寺薗 淳也(てらぞの・じゅんや)氏
合同会社ムーン・アンド・プラネッツ/元・JAXA広報部

講演プログラム(当日配布したレジュメより)

  1. 月探査の歴史
  2. アルテミス計画
  3. 日本の月探査
  4. 月探査と私たち
    質疑応答

聴講者からの質問と講師回答

なぜ最近は小さなたんさきをうち上げることが多いんですか?(Yさん・?性・10歳)

 小さな探査機はより安く(お金がかからず)、また早く(時間がかからず)作れるので、探査機を作る上ではうってつけなのです。ただ、大きな探査機よりは積めるものが限られるので、例えば「カメラだけ」「小さな観測装置だけ」というように、機能を絞ることが多いのです。また、こういった小型の装置を作るための技術が進んできたことも、小さな探査機作りを後押しする理由の一つです。

ミッションの計画は誰がどのような経緯を経て実現されていくのでしょうか?予算はどのように割り振られるのでしょうか? (Nさん・女性・40代)

 日本(JAXAや宇宙研)の場合には、宇宙ミッションで何かの観測をしたいという場合には、まずその意義を学会などで発表し、賛同する仲間を集めます。その中で方向性や必要な観測装置などを議論した上で、大まかなミッション計画を立てます。この段階で宇宙研内の委員会に対し、より進んだ検討を行いたいという意味で「ワーキンググループ」設立の申請を行います。これが認められるとさらに議論が進みますが、ワーキンググループ段階で止まってしまった探査計画もまたたくさんあります。ここからさらに実行段階へと進んでいくのですが、基本的には探査の進み方に応じて国から(実際にはJAXA内部での配分)の予算配分の仕方が決まってきます。

無名ベンチャーの資金源は何ですか?(Jさん・?性・54歳)

 基本的には、自らのビジネスモデルに対し、「ベンチャーキャピタル」と呼ばれる投資家に対して事業の意義を説明し、資金を呼び込んでくることになります。また、特に創業直後は政府など公的機関からの補助金も重要になります。場合によってはクラウドファンディングなどといった手法も使われます。最近ではこういった、投資をしたい人(企業、団体)とベンチャー企業を結びつけるマッチングビジネスなども存在します。

スペース・ローンチ・システム(SLS)大型ロケット化と紹介されていましたが、大型によってどうなるのでしょうか?物資の大量輸送でしょうか、所要時間の短縮でしょうか?(Gさん・?性・50代)

 SLSが目指すのは、将来的に火星へ人間を送ることです。そのためには大きな宇宙船を(火星の往復に伴って必要になる大量の物資を載せて)打ち上げる必要が出てきます。SLSの開発によってそのようなことが可能になってきます。また、月面基地についても、将来必要になる大量の物資を載せて打ち上げることも可能になるでしょう。ただ、残念ながら時間の短縮は難しそうです。
(注)スペース・ローンチ・システム(SLS)=NASAが2022年現在開発中の大型打ち上げロケット。スペースシャトルの代替えでもある。

ラグランジュポイントの利用については、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が話題になっていますが、今後利用したい国や団体が増えた場合、いくつでも探査機等を設置できるのでしょうか?( Tさん・?性・58歳)

 いまのところ、ラグランジュ・ポイントの利用については明確な規定がありません。同じように宇宙空間で「人気がある」場所としては、静止衛星の軌道(上空約3万6000キロ)が挙げられますが、ここについては国際機関で明確な割り当てを行ったり、使用済みの衛星を軌道から撤去するなどの手続きが行われています。今後ラグランジュ・ポイントに多数の衛星が配置される見込みとなった場合には、同じような取り決めが行われるかと思います。

「ゲートウェイ」の食料は、どうするのでしょうか?地球から運ぶのでしょうか、現地でつくるのでしょうか?また、国際宇宙ステーション(ISS)は、「ゲートウェイ」にとってかわられるのでしょうか?(Uさん・男性・14歳)

 おそらくですが、いまの国際宇宙ステーションのように、地上から運ぶことになるでしょう。輸送機には日本が開発を進めているHTV-Xも使われる予定です。また、国際宇宙ステーションは2031年に運用を停止するということですが、ゲートウェイ自体がそれに取って代わる形になるかというと微妙です。もともとの構想は国際宇宙ステーションの次をゲートウェイにするということでしたが、いまは新たな地球軌道上の宇宙ステーションの構想なども出てきています。
(注)「ゲートウェイ」=月周回有人拠点(Gateway)。米国の提案により国際的に構想中の、月面及び火星に向けた中継基地。

アルテミス計画には月移住計画もありますか?(?さん・男性・60代)

 いまのところのアルテミス計画では、月基地を作る計画までは入っていません。ただ、おそらくは月面基地構築という話には今後進んでいくのではないでしょうか。

月では地震が起きるのですか?それは地球の場合とメカニズムは同じなのですか?(Sさん・男性・60代)

 はい。月でも地震は起きます。この月の地震は、地球の地震を英語でEarthquakeと呼ぶのに対しMoonquake(月震げっしん)と呼びます。アポロ計画で月に置いた地震計で、1万回以上の月震が観測されています。その中には、温度差で岩が割れるときの衝撃といったものまで含まれています。内部で起こる月震には、深さ1000kmくらいのところで起こる「深発しんぱつ月震」というものがあり、これは地球と月の引力(潮汐ちょうせき)による力で起きると考えられています。ほかにも、深さ300kmくらいのところで起きる浅発せんぱつ月震というものがありますが、このメカニズムは実はよくわかっていません。

月の構造は、内部も含めてどのくらいわかっているのでしょうか?先生は月の地震の研究を行われていたとのことですが、月にも地震があるのでしょうか?あるとすると、何が震源になっているのでしょうか?(Fさん・?性・61歳)

 最近になって月の地震の解析が進んできて、また「かぐや」をはじめとした月探査によって月の重力の測定が進んできたことで、内部構造についてもだんだん詳しくわかってきました。おそらく、月の中心部には直径300kmちょっとのコアがあり、その外側に地球でいうマントルに相当する部分があると考えられています。マントルは何層かに分かれている可能性が高いです。外側の近くに当たる部分は厚さ20~80km程度と考えられています。ただ、まだデータが少ないため、確定ではありません。

月の内部は、空洞説があると聞きますが、事実はどうですか?(Yさん・男性・63歳)

 数年前、月の地下に長さ数十kmの溶岩ドームがあるという発表があったときに、「やっぱり月の中は空洞なんだ」という話がインターネットを中心に流れたことがありました。ただ、この「月内部が空洞だという説」は、月の中心部が空洞になっているという説で、溶岩ドームとは異なります。ただ、中心が空洞であるということはありません。最大の理由は、ちょっと専門的になりますが、慣性能率という値です。この値が0.4以下であると内部の方が重いということになりますが、月は0.393と、かろうじてですが0.4を下回っています。そのため、内部が空洞、あるいは外側より内側が軽い物質でできているということはないと思われます。なお、地球の慣性能率は0.331です。

月に宇宙人(地球外生命体)はいると思いますか?太陽系内での地球の役割は何だと思いますか?月は、表面にはほとんど地名がついていますが、地球人が土地を仲良く使うにはどうしたらいいでしょうか?自由主義の国と中国で争いになったりしないか心配です。(Mさん・?性・?歳)

 月は水も豊富ではなく、温度差も激しく(昼と夜の温度差が200度もある)、空気もなく、生命の存在には極めて厳しい環境です。まして知的生命体は育ちにくいと思います。
地球自身は、太陽系内で何か役割を持っているというよりは、太陽系の中で「液体の水が存在でき、生命が育っている」という点で特別なのかと思います。
月の地名は国際天文学連合(IAU)という組織で決められています。また、月を含め、国家による天体の土地の所有は宇宙条約によって禁じられています。「月は世界のすべての人のもの」という考え方を徹底していくことが、これからの月開発、宇宙開発が必要なのかと思います。特に民間企業の月開発については、利益優先主義にならないよう、監視を強めていく必要があるでしょうね。

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