プラネタリウム

第115回 木星氷衛星探査機JUICE(ジュース)
:特にガニメデレーザ高度計GALA(ガーラ)開発者の視点から

木星の衛星のひとつ、ガニメデを探査するJUICE計画について、探査機の開発に関わる研究者からお話をいただきました。

(講師からのメッセージ)
2023年4月、JUICEが南米仏領ギアナ宇宙センターより打上げられました。JUICEは木星の氷衛星、特にガニメデを軌道上から詳しく観測します。ガニメデの表面は氷の世界ですが、その地下には大規模な液体の海が存在する可能性が指摘されています。GALAはJUICEに搭載された科学観測機器のひとつです。GALAの重要な目標のひとつは、ガニメデの僅かな潮汐変形等を計測することで、地下海の有無をつきとめることです。氷衛星の地下海について解明することは、アストロバイオロジー(宇宙生命論)のためにも重要です。講演ではJUICE計画の概要と合わせて、GALA開発当事者ならではの視点から、開発や打上げなどの経験も紹介したいと思います。

概要

日時

令和5年11月11日(土曜日)午後7時~午後8時30分

講師

塩谷 圭吾(えんや・けいご)氏
JAXA 宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 准教授

講演プログラム(当日配布したレジュメより)

  1. なぜ木星氷衛星ガニメデを探査したいのか
  2. JUICEミッション
  3. ガニメデレーザ高度計GALA
  4. GALAで探る氷の世界と地下の海
  5. 開発・打ち上げ紀行
    :南米仏領ギアナ宇宙センターへ
  6. 今後に向けて
    :JUICEの長旅とその先

質疑応答

聴講者からの質問と講師回答

ガニメデにうみがあったらどんないきものがいるとおもいますか?うみがしょっぱいですか?(Nさん・子ども・6歳)

 まず、いきものがいるかどうか、まだわかっていません。
ざんねんながら「いない」かもしれません。
「いる」ばあいは、まず、「びせいぶつ」はかならずいるとわたしはかんがえています。

 なぜなら、せいぶつはまずびせいぶつとしてたんじょうして、
そのあと、おおきなせいぶつにしんかします。
いきなりおおきなせいぶつがたんじょうするかくりつは、ほぼゼロです。
そのため、おおきなせいぶつだけがいることはないとおもいます。
もしびせいぶつがうまれていたら、そのあとしんかして、
おおきなせいぶつもいるせかいになっているかもしれません。
もし、さかなやくらげ、くじらがいたらとおもうとわくわくしますね。

氷の下に、大きな海があったとして、そこに生命が生まれたとして、届く太陽エネルギーは極小なのに、生命活動を続けていけるのでしょうか?(Hさん・大人・49歳)

 地球において、多くの生物は太陽を元とするエネルギーを利用しています。いっぽう、海底や地底などには、光エネルギーを利用せず有機物を合成する生物がいることが知られています。したがって、ご質問への回答は「太陽エネルギーが極小でも活動可能な生物はあり得る」です。より詳しくは、「独立栄養生物」、「光合成独立栄養生物」、「化学合成独立栄養生物」あたりの語を手掛かりに検索すると楽しいと思います。

氷衛星で水の存在をつきとめることは重要だということは理解できましたが、その次の段階として、アミノ酸や核酸の生成がないと生命の誕生の話に直結できないと思います。星間物質だと分光学的に同定できていると思うのですが、現時点で、物理学的探査をくっしての存在を微量でも突き止めることはできないのでしょうか?また、炭素の存在も必須だと思うのですが、炭素についてはどうなのでしょうか?(R.Zさん・女性・?歳)

 氷衛星であるエウロパやエンセラダス(土星衛星)では、噴出物を観測したという報告があります。そのような噴出物に対しては、物理的な遠隔観測で成分を調べることが考えられます。さらに詳しく調べるなら、着陸探査が必要になるでしょう。
どのような物質が見つかったら生命の証拠と言えるかは、たいへん奥が深い課題です。例えば炭素やアミノ酸は地球生命と関係が深い物質ですが、宇宙においては生命由来でないものが発見されています。宇宙生命を探索するためには、有機物やアミノ酸、核酸なども含めた複数のターゲットを分析する必要があると私は考えます。

軌道探測の対象はどうしてエウロパやカリストではなく、ガニメデですか?(Rさん・20代)

 木星の4大衛星のうち、氷衛星として科学的に魅力があったのはガニメデとエウロパでした。なかでもガニメデは木星衛星のなかで最大の衛星で、太陽系の中でも最大です。また、ガニメデには地球と同じように磁場があります。エウロパでは液体の水と思われる噴出物を観測したという報告があります。しかし、エウロパの環境は放射線が強いため、探査機が長くとどまることができません。これらのことを考慮して、JUICEでは詳細観測を行う最終目的地としてガニメデを選びました。

ガニメデたちの周り90個以上ありますが、他の衛星に、ジュースがぶつかる危険がないのか安全面などわかれば教えてほしいです。(Nさん・大人・20代)

 発見されている木星衛星は90個以上あっても、それらの軌道は分かっています。また、宇宙は広いので、90個の衛星があってもそれほど過密ではありません。例えば地球を周る人工衛星は、もっと遥かに多くあります。結論として、木星衛星にJUICEがぶつかる心配はしなくて良いと考えられます。

パイオニア、ボイジャーは2~3年で着いたと思うのですが、スイングバイは一切していないのでしょうか?(M.Nさん・大人・64歳)

 スイングバイは行われています。講演でお見せした軌道の図で言うと、探査機の軌道が惑星の軌道と交差する箇所で折れ曲がっている箇所が複数あったのですが、スイングバイはそのような箇所で行われています。インターネット上にも同様の図があると思いますので、検索して見ていただけたら分かりやすいと思います。

ガニメデ内部の構造(地下海の複数層構造)は、どのような根拠があるのでしょうか?(M.Nさん・大人・64歳)

 講演では詳しくは説明できませんでしたが、現状では観測データが足りないため、内部の構造を完全に決めることはできていません。講演でお見せした例も、とある想定を行ってシミュレーションすると、そのような結果が得られる、というものです。ただ、その背景には、溶けている物質によって密度が変わることや、氷が圧力で高密度になると沈むことなど物理の基本的な性質があります。

先生の好きなイラストに、氷の割れ目から熱風(?)が出ている部分がありましたが、それについても根強い根拠があるのでしょうか?(Mさん・60代)

 お見せしたイラストには、氷の割れ目から液体の水の噴出を表した箇所がありました。ただ、図はあくまで氷衛星全般についての想像図です。氷衛星のうちエウロパや、土星の衛星であるエンセラダスについては、噴出を観測したという報告があります。いっぽうガニメデについては、そのような報告は現時点ではありません。

潮汐による変形か、地殻の動きによる変形かは、どうやって見分けるのでしょうか?(?さん・大人・地球人・39歳)

 潮汐力はガニメデが木星のまわりを周る軌道運動にともなって発生します。軌道運動は周期的で予測可能です。
したがって、長期的に観測を繰り返して、ガニメデの変形が軌道運動に対応した周期的なものかどうか確認することで、潮汐による変形かどうかは見分けることができると考えられます。

GALAでは、1本の光を使って測距をするのですか?同時に5本くらいの光を使えばより効率的に正確な形がとれると思います。光の選別や距離的に難しかったのでしょうか?(S.Iさん・学生・男性・21歳)

 まず結論ですが、GALAは1本の光を使って測距します。仰る通り、複数の光線で同時に測距できれば効率は良くなります。ただ、探査機では載せる装置の重量や大きさ、使えるエネルギーなどが非常に限られています。複数の光線を使うためには、装置も大きく重くなります。また、光線一本あたりのエネルギーも低くなり、測距の精度が下がってしまいます。このようなことを考えた結果、GALAは、複数の光線で低精度の測距をする方式ではなく、1本の光線で高精度の測距をする方式になっています。もしJUICEに搭載できる重量や大きさ、エネルギーに余裕があったら、GALAは複数の光線を使う方式になっていたかもしれませんね。

3D地図を作るとのことでしたが、どこにレーザーが当たったかはどうやって分かるのでしょうか?緯度・経度を求めると思いますが、どの程度の精度なのでしょうか?(Aさん・大人・50歳)

 GALAはJUICE探査機に固定されているので、探査機の位置と姿勢の情報から、GALAがどこを観測しているかが分かります。また、JUICEに搭載されたカメラによっても、GALAがどこを観測しているか確認できます。
GALAが測距に使うレーザーは、ガニメデの表面では直径が約50mに広がっています。したがって、それより細かい箇所を分解して理解することはできません。

地表を向けておく必要があると思いますが、観測する為の時間は期間1年の内、どの程度予定されているのでしょうか?ずっと向けるのでしょうか?また、計測にあたり、移動量は本体と連携して行うのでしょうか?(T.Eさん・大人・男性・40歳)

 地表にはずっと向けて観測しますので、1年のうち観測できない期間は特にありません。また、GALAはJUICE探査機に固定されていますので、その通り、測距スキャンはJUICE探査機本体の移動にともなって行われます。

ガニメデもJUICEも常時動いているので、ガニメデのある地点の観測日A,B,CでのJUICEの観測位置は変わっているはずですが、観測結果に問題ないとなぜみなせるのですか?(Eさん・男性・50代)

 GALAの機能の核心は単純で、GALA自身と天体表面の観測地点との距離を測るものです。その結果とJUICE探査機の位置情報を組み合わせて、初めて天体表面の観測地点の高度が分かります。JUICE探査機の位置の情報は、天体表面の高度を求める段階で計算に取り込まれるので、問題ないと言えます。

日本単独での探査はやはり難しいのでしょうか?(?さん・大人・地球人・39歳)

 その通り、少なくとも現時点では木星圏やそれより遠い所に行く探査は難しいです。その主な理由は、予算の制約と、ロケットの輸送能力の制約です。それでも個人的には、いつかぜひ日本単独で、あるいは日本主導の国際協力ミッションで、氷衛星探査ができたら良いなと思っています。

国際協力での役割分担(3つのモジュール開発)は、どのように決まるのでしょうか?国やチームの得意な分野・技術が考慮されるのでしょうか?氷や生命関連の担当国はどこですか?(Mさん・大人・?歳)

 開発に関しては、仰る通り、国やチームの得意な分野や技術は考慮されます。GALA開発の国際分担を決める際には、日本には月探査機「かぐや」や「はやぶさ」、「はやぶさ2」の実績があったことも考慮されました。将来、GALAで得られたデータを使って、GALA国際チーム内のどの国がどんな科学テーマをリードするかは、まだ決まっていません。今後、我々が頑張ることで、良い科学テーマを日本にもたらしたいところです。

ドイツのクリーンルームはマスク無しですか?(Y.Tさん・女性・30代)

 講演でお見せした写真は、あまりクリーン度要求レベルの高くない、簡易的なクリーンルームのものでした。そのとき行っていた実験も、それほど高いクリーン度は必要としないものでした。そのため被写体の人はマスクを着用していなかったのだと思います。
ちなみに、コロナ禍でも顕著だったのですが、平均的に欧米人は日本人に比べてマスクが嫌いみたいですね。

モジュール(日本開発)の原動力は何ですか?(Y.Tさん・女性・30代)

 まず、日本の多くの研究者が欧州のJUICEというミッションに参加して活躍するためには、機器開発を行うことが必要なので、そのための使命感が第一にありました。単に自分が一研究者として欧州チームのメンバーになるのではなく、日本として、JAXAとして国際協力することで、日本の多くの科学研究者がJUICEに参加し、次世代の若手が育つ場を作ることができます。また、私は一研究者としては、宇宙における生命や地下海が好きなので、それらに向けた研究がしたいという目標がありました。いっぽう開発期間中の日々においては、開発を失敗させないという意識が原動力のかなりを占めていました。

飛ぶときの耐久確認を物理で行っていましたが、事前にモデリングはするのでしょうか?データは(表面地形など)動画として見れるのでしょうか?(Y.Tさん・女性・30代)

 その通り、物理的な試験は最終確認であり、設計段階で多くのモデル解析をしています。具体的には、熱解析、構造解析(強度や歪み)、放射線解析など、いろいろあります。
将来、JUICEが木星圏で観測をしたら、カメラのデータをもとに動画が作られると思います。また、GALAとしてはガニメデの潮汐変形を捉えて動画にして公開したいところです。お楽しみに!

開発期間含めてトータル何年になりますか?(打上げから完了まで10年、プラス何年?)(?さん・女性・30代)

 GALAの提案から打ち上げまで11年でした。そこからカウントすると、トータルで20年以上のプロジェクトということになりますね。このように長期にわたる計画ですので、科学観測期に活躍する若手の新メンバーの参加を歓迎したいところです。皆さんの中から現れるかも!?

開発の納期を間に合わせるために、一番苦労したことは何ですか?(Mさん・大人・女性・30代)

 全ての過程がとても大変でしたので、ひとつを選ぶことは難しいです。ただ、設計・製造・試験など正味の開発の過程は、大変ですが同時に喜びでもあり、苦痛ではありませんでした。プロジェクトの各段階にある審査会対応は、特別に大変でした。

レーダーの測定で色々調べる…とても素ばらしいです。でも、耐久性に関しても、性能に関しても想像をぜっするような努力、困難があったと思います。一番苦労したのは、どのような点だったのか知りたいです。(T.Tさん・女性・50代)

 全ての過程がとても大変でしたので、ひとつを選ぶことは難しいです。ただ、設計・製造・試験など正味の開発の過程は、大変ですが同時に喜びでもあり、苦痛ではありませんでした。プロジェクトの各段階にある審査会対応は、特別に大変でした。

探査機をつくっていく中で一番大変だったことは何でしょうか?また、一番楽しかった工程も知りたいです。(M.Kさん・大人・30代)

 全ての過程がとても大変でしたので、ひとつを選ぶことは難しいです。ただ、設計・製造・試験など正味の開発の過程は、大変ですが同時に喜びでもあり、苦痛ではありませんでした。プロジェクトの各段階にある審査会対応は、特別に大変でした。

耐久テストのためのモジュールは何個くらい試作しますか?(一個だけでは不安すぎる)(Hさん・大人・地球人・40代)

 講演でお話ししましたように、GALAの開発では、日本は3種類のモジュールを開発しました。それらのそれぞれについて、様々な試作モデルを作りました。具体的には、熱試験・構造試験だけのためのモデル、フライトモデルと同様の設計の試作モデル、そしてフライトモデル、その予備となるフライトスペア等です。また、モジュールより小さい単位の部品レベルですと、さらに多くの試作品をテストしたものもあります。

独語も話せますか?(探査機を打ち上げした南米ギアナ宇宙センターは)仏領のため仏語も?(Hさん・大人・地球人・40代)

 残念ながら私のドイツ語・フランス語は、どちらも挨拶程度です。

打ち上げ後は、先生はどんなふうに、このプロジェクトのお仕事に関わられるのですか?もしくは他にどのような研究に携われるのですか?(?さん・女性・50代)

 JUICEとGALAについては、幸いにして開発と打上げが成功しましたので、ここから先はドイツチーム等と協力を続けて、運用の仕事やデータ解析システムの開発、科学観測に備える検討を行う期間が長く続きます。その後は、いよいよJUICE/GALAの観測です。
いっぽう、JUICEとGALAは開発と打上げが完了して、ひとつの山場を越えたことも事実です。そのため今後は他の研究開発も行って行くつもりです。

観測が行なわれるまでの10年間は、先生は別の仕事をされるのでしょうか?(Hさん・大人・49歳)

 JUICEとGALAについては、幸いにして開発と打上げが成功しましたので、ここから先はドイツチーム等と協力を続けて、運用の仕事やデータ解析システムの開発、科学観測に備える検討を行う期間が長く続きます。その後は、いよいよJUICE/GALAの観測です。
いっぽう、JUICEとGALAは開発と打上げが完了して、ひとつの山場を越えたことも事実です。そのため今後は他の研究開発も行って行くつもりです。

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