プラネタリウム

第124回 太陽の謎に挑む:地上から/宇宙からの観測

※プラネタリウムシステム更新工事中のため、博物館講堂で開催しました。

太陽観測研究の意義や次期太陽観測衛星の計画など、太陽について最前線の話題を、SOLAR-Cプロジェクトリーダーの原先生をお迎えして解説いただきました。

(講師からのメッセージ)
太陽は夜空を彩る多くの星々と同様に、自ら輝く恒星の一つです。地球から最も近い恒星であることから、天文学者は太陽をさまざまな手法で詳細に観測してきました。この講演では、これまでの太陽観測からどのようなことが分かってきたのか、そして今後どのような観測をしたいと研究者は考えているのか、進行中の計画も紹介しながらお話したいと思います。

概要

日時

令和7年9月6日(土曜日)午後7時~午後8時30分

講師

原 弘久(はら・ひろひさ)氏
国立天文台 SOLAR-Cプロジェクト教授・プロジェクト長

講演プログラム(当日配布したレジュメより)

  1. はじめに
    :観察から観測へ
  2. 太陽という星
    :観測対象としての太陽
  3. 太陽の活動とその起源
    :黒点やコロナを生み出すメカニズムの謎
  4. 現代の太陽観測
    :謎の解明へ向けた現代の観測手法
  5. 最近の将来の太陽観測
    :新たな謎の解明のために

質問と回答

聴講者からの質問と講師回答

ご講演の中で「磁場」が大きなキーワードと感じたのですが、磁場はどういうものなのでしょうか?また、磁場はどのようにして生じているものなのでしょうか?(Sさん、40代・大人/男性)

磁力がおよぶ空間・場所のことです。磁石の周り、電流が流れる周囲に磁場があります。同じように、重力がおよぶ空間を重力場と呼びます。

最近「宇宙線」という言葉を聞く機会があるのですが、宇宙線とはどのようなものなのでしょうか?(Sさん、40代・大人/男性)

宇宙空間を飛び交う放射線を指します。電荷を帯びた粒子(正電荷を帯びたイオン、負電荷を帯びた電子)が加速されて高いエネルギー状態になったもの、またはエネルギーの高い光(例えばX線やガンマ線)といった放射線です。太陽からはこれらの宇宙線が飛来しますが、それ以外に太陽系外からエネルギーの高い宇宙線が飛来しています。

磁場は温度に関係なく活動しているのでしょうか?(Tさん、70代・大人)

温度は物質の運動の激しさ(温かい、冷たい)を数値で表したものです。星の表面にある磁場は表面の運動にともなってその方向に移動します。N極とS極が衝突するような場所では、磁場の繋ぎかえによって激しい現象が発生します。移動速度は温度環境によって変化しますし、強い磁場の領域では下層からの熱流が阻害されて表面は周囲より低温となります。
黒点が黒いのは周囲より磁場が強く、表面の対流運動が阻害されて下層から熱流が届きにくくなり低温となって、周囲より放出する光の量が少なくなるからです。

核融合反応によって磁場(電磁流体)が発生しているのですか?(Iさん、70代・?)

核融合が起きている中心核付近では磁場はないと考えられています。磁場は星の中の対流運動で生み出されていると考えられています。太陽の場合、半径の0.7倍から表面の間で対流が発生していると考えられていますので、0.7太陽半径より外側に太陽起源の磁場があることになります。

黒点の磁場は、S極とN極が赤道に対して平行に並んでいるように見えましたが、S極とN極が垂直になることはないのでしょうか?(Wさん、20代・男性)

S極とN極のペアを持つ黒点の場合、二つの極性を結ぶ線は赤道より少し傾いていて、太陽の回転方向に位置する黒点の方が低緯度に位置します。黒点のペアが南北に沿って現れるようなことはありません。しかし、比較的小さなS極とN極の磁極ペアの場合、黒点という形では見えませんが、南北を向くような形でS極とN極の対が表面に現れることがあります。この違いは、どのように磁場が作られているかという機構の違いによって生じているのではないかと考えられています。

可視光で黒点は確認できるが、他の波長の光でも黒点は観測できるのでしょうか?また、他の光では黒点以外の特徴的な現象は見つかっているのでしょうか?(Wさん、20代・男性)

黒点は赤外線や紫外線でも黒点として観測されます。光の放射量が周囲より少ないことが黒く見えている原因です。水素の出す線で見ると、表面とコロナの間にある彩層の明るい構造や暗い構造などが見えてきます。

11年ごと、太陽の活動が繰り返すと、オーロラの観察に良い年がありますでしょうか?(T.Oさん、40代・地球人)

太陽面で発生する激しい爆発現象に伴ってオーロラが発生した場合、規模の大きなオーロラ活動が観測されます。太陽の黒点周期の極大付近では激しい爆発現象の数が増加しますので、その時期には天空で激しく動くオーロラを見ることができるようになると思います。しかし、太陽からの磁場を伴った放出物は黒点周期中のどの時点でも発生していますので、単にオーロラの観察ということであれば、黒点数の少ない極小期でも可能と思います。

11年周期で、増、減、次に来るタイミングはいつですか?(Kさん、50代・大人)

現在は黒点の極大期を超えて1年くらいしたところです。暫くは太陽表面に黒点が多く見られる時期が続きます。次に黒点数が最小になるのは2032年頃になるでしょうか。

太陽の磁極が11年ごとに変化することは大変興味深く、なぜ?が純粋に沸きます。なぜですか?(S.Nさん、47歳・大人/男性)

極領域の磁極の逆転は、低緯度に現れる黒点の磁極の向きが変わることの結果として起こるものと考えられています。ではなぜ低緯度域の磁極が反転するのかですが、それが太陽の大きな謎の一つでそれを理解するための研究が進行中です。

太陽の近くでも燃え尽きない物質を地球上でつくれるのでしょうか?どのような物質で作れるのでしょうか?夏の暑さに活かせませんか?(S.Nさん、47歳・大人/男性)

現在の地球上の物質で最高融点は約4000℃程度ですから、この温度を超えると直射部分は溶けてしまいます。金属ですと、タングステンの合金が融点3400℃くらいでしょうか。それとは別に、電子機器のある場所はそれよりも低い温度環境でなければ動作しませんので、そのような環境となるように探査機を設計する必要があります。

1650~1700年の地球の寒冷化は、太陽の活動が弱まったからなのでしょうか?今後も、地球の寒冷化が起こりうるかは、太陽を観測していくことで予測できるのでしょうか?(Mさん、60代・地球人)
地球に届く太陽のエネルギーの量がほぼ変わらないと先生はおっしゃったんですが、黒点がほぼなかった17世紀の時、地球が冷えたのはなぜでしょうか(K.Rさん、20代・男性)

太陽黒点に現れる太陽の活動と地球寒冷化の関係については、まだはっきりしたことは分かっていません。火山活動によって、太陽からの放射が遮られる場合は短期的に気温が低下することは知られていますが、黒点が消失した期間は70年程度にわたりますので、それだけでは説明できません。
太陽活動と1650~1700年の地球の寒冷化が関係あるとすると、それは太陽からの放射量が変化したのではなく、太陽の磁気活動の変化が地球にどのような影響を与えるかということで理解されるのではないかと考えています。
ある研究者は、太陽の磁気活動が地球に降り込む宇宙線の雲の発生量を変化させて、地表面へ届く日射量を変化させるという観点でこの時期の寒冷化や現在の地球の温暖化について説明しようとしている研究者がいます。データからこの説を証明するには、太陽からの放射量や地球の雲の量を宇宙から観測することや、太陽の磁気活動を長期間にわたって観測し続けることが必要と思います。

1650~1700年の地球の寒冷化についてです。(黒点が見られなかったイコール地球に届く光量は多いので、なぜ寒くなったんだろう。逆ではないのか?)と思ったが、「黒点がないイコール磁場がない(?)」ということなので、爆発や10万度の大気が地球に届かなくなったからなのでしょうか?寒冷化のメカニズムを知りたいです。また、次に黒点が見えなくなる時期は予測できるのでしょうか?(Yさん、27歳・?)

一つ前の回答と同じです。
 今回説明を省いたために誤解されている点が一点あります。大きな黒点が発生すると黒点の位置からの放射量は減るのですが、実は太陽黒点の多い活動極大期の方が黒点がほとんど見えない極小期よりも太陽全体からの放射量は多いのです。黒点は磁場が非常に大きい領域ですが、磁場の強さが1/3程度になると磁場のない領域よりも放射量が大きくなります。黒点が多く現れる時期には、黒点の周囲に黒点よりも磁場の小さい領域が多くみられるようになり、全体として黒点の多く発生する時期の方が太陽全体は明るいということになっています。太陽活動と寒冷化の関係は、はっきりしたことはまだ分かっていないです。

地球温暖化は、太陽黒点と関係はありますか?1つ、1650~1700年の間に、寒冷期があったので、温暖期もあるのではないのでしょうか?(?さん、?代・?)

太陽黒点に現れる太陽の活動と地球温暖化の関係については、まだはっきりしたことは分かっていません。これまでは太陽活動の影響は小さいという説明がされてきていますが、それに異を唱える研究者も少なくありません。

太陽に接近する人工衛星は、太陽のコロナなどでこわれてしまうことはないですか?また、こわれないように、どんな工夫をしていますか?(M.Sさん、12歳・子ども)

コロナは太陽近くで100万度、地球近傍きんぼうで10万度程度となりますが、とても希薄ですので衛星のような塊を溶かしてしまうようなことにはなりません。むしろ、太陽から届くエネルギーの高い粒子が衛星の電子機器を誤動作させたり、構成する電子デバイスを破壊したりすることがあります。探査機や人工衛星はこれらによって損傷を受けにくいような素子そしを使って製作されます。このため、人工衛星は大変高価なものとなっています

太陽からどんどん外に向けて発散しているのに、太陽自体は空っぽにならないのでしょうか?(Sさん、60代・女性)

飛び出して行く量はごくわずかな質量ですので、星がなくなってしまうようなことにはなりません。

太陽の中では何か起きているのでしょうか?まだわかっていないのでしょうか?(Iさん、50代・大人・女性)

太陽の中で起きているものは直接は見えませんので表面のようには知ることができません。太陽の中を伝わる波を利用して、表面直下でどのような流れがあるかとかは知ることができます。また同じ方法によって、太陽の内部がどのように回転しているか、どのような温度をしているかについても、現在では観測結果より推定されて理解されています。

ちきゅうからみるたいようと、ほかのほしからみるたいようはちがう?(S.Nさん、6歳・学生/男性)

他の星から見ると、太陽は点にしか見えません。しかし、光の色の分布はどこから見ても同じですので、太陽がどのような星であるかは、地球の人が見ても、別の星の周りにいる人から見ても知ることができます。

たいようフレアはきずかないときにちきゅうにちかづく?(S.Nさん、6歳・学生/男性)

最近は、世界中の観測所や科学衛星で24時間太陽を観測していますので、地球側から見える太陽面で発生するフレアを見逃すことはないと思います。

たいようは、なんでばくはつするの?たいようはなんで大きいのですか?(T.Oさん、7歳・地球人)

爆発するのは溜まった磁場のエネルギーが解放されるからです。どのように解放されるのかという点について詳細な観測をしようとしています。太陽の大きさは星ができるときに集めた物質の量によって決まっています。

太陽は宇宙の他の星と比べると、大きいですか、小さいですか?年寄りですか?若いですか?(Kさん、?歳・大人/女性/地球人)

太陽は割と標準的な星のようです。大きなものでは太陽の直径の100倍や1000倍くらいのものもあると報告されています。

太陽の年齢は?太陽を人間(100歳寿命)と考えると、今は何歳ですか?太陽の最期はどうなりますか?(Rさん、63歳・大人/地球人)

50歳くらいになります。最後は地球くらいの大きさの星(白色矮星わいせい)になると考えられています。

宇宙には、太陽と同じような働きをする星が存在すると考えられますでしょうか?(Tさん、50代・大人)

別のスライドで示しましたように、太陽と同じように10年くらいの周期で明るさの変化をする星が見つかっています。

いつ頃か忘れましたけど、フロンガス等でオゾン層に穴が開いたということがありましたけど、その問題と磁場とは関係がありますか(人体に関する問題)?(T.Kさん、77歳・大人/男性/地球人)

磁場とは関係ないと思います。

太陽はいつまで燃えているのでしょうか?(T.Kさん、77歳・大人/男性/地球人)

星の進化の理論によると、あと50億年くらいと考えられています。

地球での観測は大気のゆらぎがあるため限度がある。そこで宇宙に出て、衛星で観測するとのことでしたが、太陽は自転をしていて衛星は同じ部分の観測する必要があると思いますが、衛星を止めることが出来るのでしょうか?どういう方法で止めて観測するのでしょうか?(Uさん、50代・?)

地球を周回しながら天体観測をする場合、衛星は目標点を常に変化させています。太陽の中心点を見続ける場合でも、衛星は常に指向方向を変化させることで太陽の中心点を向くようにしています。黒点などは太陽面が自転して移動していきますが、その自転速度はこれまでの観測から平均的なものはわかっていますので、それを使って衛星の指向方向をその移動速度に合わせて変化させることで、黒点を追跡しながら観測しています。

太陽の磁場の構造が解明できると、新しい発電方法に繋がるのでしょうか?(Uさん、50代・?)

それはないと思います。

ここ5年の急速な地球温暖化と、黒点の活動に関係はありますか?また、約1万年後くらいに氷期が来ると聞いたことがありますが、太陽の運動(現象)で説明できますか?(Mさん、60代・女性)

黒点活動が原因となって地球温暖化が起きているという決定的な証拠は示されていませんが、それを示唆するデータを示して太陽活動も温暖化に寄与しているのはないかと主張される研究者はいます。太陽から放射される光の量は、人工衛星の観測で50年弱くらい精密に測定されていて、その間に光の量に大きな変動はありません。この光を地球がどのくらい取り込めるかという点が太陽の磁場の変動によって変化しているのではないかと考えている研究者がいます。1万年くらいの期間になりますと、地球の自転軸の向きが変動することで太陽光を受ける条件が変わることで気候変動が発生すると考えられています。

どうやってマントル・コアをはっけんしたの?どうやって温度をはかったの?(K.Oさん、9歳・地球人)

地球では、地震を使っています。世界中に地震計があります。ある地点で発生した地震波が到達した時刻を測定して、その伝わる速度から地球の内部の状態を推定したわけです。太陽でも同様に太陽の中を伝わる波を表面の振動状態を測定して内部の状態を推定しています。

10年後に日本でも皆既日食が見られるようで、ぜひ見てみたいですが、どのようなところに注目して見ると、より楽しめますか?(Sさん、40代・大人/女性)

コロナだけでなく、地球側の様子の変化にも注目して下さい。

国際協力についてです。研究先進国はどこの国ですか?日本は主要国ですか?(Sさん、60代・大人)

太陽研究分野では、日本は主要国です。1991年に打ち上げたSOLAR-A(ようこう衛星)、 2006年に打ち上げた(ひので衛星)は日本の科学衛星計画に海外参加国が観測装置の一部を提供して軌道太陽天文台を構成しました。太陽研究は多くの国で進められていますが、研究の歴史は欧州が長く、また米国が研究先進国です。

原先生が、太陽に興味を持った経緯を知りたいです。(?さん、?歳・?)

小・中学生の頃は黒点の観測を小さな望遠鏡でやっていました。研究に進もうと考えたのは大学4年生になってからです。

中学生の理科レベルの知識しかない状態で、太陽についての解像度を上げるために、学ぶべき、入手すべき資料・文献は何ですか?(Kさん、?代・地球人)

まずは図鑑のようなものや、解説書を読まれると良いと思います。大きな書店で探すか、ネットで検索してみて下さい。博物館の学芸員さんに聞いてみれば教えてくれると思います。

研究が進むことによって、私たちの生活に直結するようなことは何かありますか?現在と未来でありましたら、身近なことで教えていただきたいです。(Mさん、40代・大人)

太陽面の爆発の観測と理論モデルから、地球までの到達時間と影響度の予測が行われて対策に使われるようになってきています。極領域を避けるように飛行機の航路を変更するようなことが行われていると思います。

原先生から聴講者のみなさまへ

(質疑応答への補足コメント)
太陽磁気活動の指標としての黒点と地球の気温について関心が高いように思います。以下の本が参考になるかと思います。

「太陽黒点が語る文明史:小氷河期と近代の成立」桜井邦朋(1987)中公新書
「眠りにつく太陽―地球は寒冷化する」桜井邦朋(2010)祥伝社新書    
「地球の変動はどこまで宇宙で解明できるか:太陽活動から読み解く地球の過去・現在・未来」宮原ひろ子(2014)DOJIN選書

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