プラネタリウム

第125回 現代天文学が明らかにする天の川の正体

私たちの銀河について、現代天文学の視点からおはなしいただきました。また、新しくなったプラネタリウムシステムを活用し、多波長の天の川観測データを投影しながら先生から解説をいただくなどして理解を深めました。

(講師からのメッセージ)
天の川は夜空では七夕で、アニメなどでは未来の宇宙旅行の舞台として、なじみがある天体ですが、その大きさや正体がわかったのはたった100年ほど前。近年ではその詳細な姿が次々と明らかになっています。これらについて研究の現場から数々の話題を紹介します。

概要

日時

令和7年11月22日(土曜日)午後7時~午後8時30分

講師

半田 利弘はんだ・としひろ)氏
工学院大学非常勤講師・元鹿児島大学教授・理学博士

講演プログラム(当日配布したレジュメより)

  1. 地球から見た天の川
  2. 天の川と太陽系
  3. 天の川を立体的に捉える
  4. 銀河としての天の川:天の川銀河の構造
  5. 天の川銀河の中心とブラックホール

質疑応答

聴講者からの質問と講師回答

銀河をまわる天体の回転エネルギーの源は何ですか?それぞれの天体の質量ということでしょうか?真ん中に大きな質量があるならわかるのですが、そうではないのでしょうか?(Hさん、51歳・大人/男性)

すべての物体は摩擦も含めて力が働かないと、同じ向きに同じ速さで進み続ける性質があります。これを「慣性の法則」といいます。もし、力が加わるとその向きに加速度が生じ、そちら向きの速度が増えます。進む向きと異なる方向に力が加わると進む向きが次第に変わります。太陽系の場合、惑星に加わる力はほぼすべて太陽の重力なので、太陽の周囲を巡っています。銀河の場合、中心に図抜けて重い天体があるわけではありませんが、多数の星が群がっているので、そのそれぞれが及ぼす重力の合計が、より外側にいる天体に対して中心に向かう重力となります。つまり、多数の星が集まっているからこそ生じる重力が中心周囲を星が巡る力の源なのです。なお、「回転エネルギー」というと、それは中心周囲を巡る運動に伴う「運動エネルギー」で、力とは異なります。このエネルギーは、もともと銀河ができるより前から各天体の材料が持っていた運動エネルギーに、銀河にその天体が引きつけられて近づいた結果、加速されたことで増えたエネルギーの和です。

天の川は民主主義と教えていただきましたが、それぞれの星の引力が集まって均衡して天の川になっているのでしょうか?天の川から出ていく星は無いのでしょうか。引力同士で反発し合うとかは起きませんか?(Sさん、30歳・大人/男性)

そうです。各星が及ぼす重力の総和が銀河という天体をまとめていることを象徴したのが「民主主義」という表現です。その例えでいえば、領民ではなく市民なのと同じく銀河から出入りする星は存在します。実例は見つかっていないと思いますが、何らかの理由で特定の星に運動エネルギーが集中すると、その星だけは飛び出します。探査機のスイングバイ加速と類似の機構によって引力しかない重力でも特定の天体を加速することは可能だからです。また、超新星爆発などでガスが銀河外に吹き飛ばされている例は見つかっています。逆に、銀河間にあった星(小さな銀河)やガスは銀河の重力によって大きな銀河に向かって落ちてきている例も見つかっています。1980年頃までは銀河(特に、天の川銀河)は孤立していて未来永劫姿が変わらないと考えられていましたが、今ではそれは間違っていて、銀河は今でも周囲からガスや星が集まってきていて成長過程にあるとする考えが主流になっています。

光の強さの変わる星というのは、いて座Aスターのように質量が非常に高く、その星の周囲のガスなどを取り込み、そのガス同士の摩擦により明るくなったり暗くなったりしているのでしょうか?(Hさん、24歳・大人)

星の明るさが変わる機構は複数あります。いて座A*のようにブラックホールに周囲からガスが落ちてきて回転円盤(降着円盤という)ができ、その明るさが変動するものもありますが、星全体が膨張収縮して明るさが変わる星もあります(脈動型変光星という)。他にも表面の明るさに著しい斑があり、それが自転している場合や互いに周囲を回っている2つの恒星が相手を隠すことで地球から見ると変光して見える星(食変光星という)も多数見つかっています。

セファイドが2種あることがわかっていなかったので、その違いからリービットの観測からM31が90万光年と見積もられました(その後正しく230万、最近は250万となっています)。セファイドのTypeIとTypeⅡの差は星の何が原因なのでしょうか?連続的にIからⅡまであるなら星の距離測定に使えませんが、まれにIとⅡで分かれるとするとそこに、重さ、まわりの状況、金属量、進化のステージなど、物理現象の違いがあると思います。(Hさん、60代・男性)

セファイドの場合は、2つのタイプは恒星の質量が異なっていることが原因です。つまり、別種の星と考えるのが良いです。周期-光度関係は、その後、詳しい研究が進み、今では少しずつ異なるいくつもの種類に分れています。その原因の1つは星の震動モードが異なることが原因です。弦楽器や管楽器で同じキーでも高さが1オクターブ異なる音が出せるのと同じ原理です。また、星が含んでいる元素の割合(金属量)が異なると光度が少し変わることも知られていて、精度が高い距離見積もりをする場合には、これらを測定・考慮した周期-光度関係を使うようになっています。

「ブラックホール」の定義をもう一度、簡単でいいので教えてください。(Rさん、60代・男性/地球人)

「重力が強くて、その表面からは光を含む何も脱出できない天体」とするのがわかりやすい定義でしょう。講演で強調したのは、どうやってできたかとは関係ないということです。なお、「光の速さ」が特別なのは、それが時空構造と直接関係がある速さだからです。このことを正しく理解するには一般相対論に対する知識が必要です。

天の川の中心にあるブラックホールは、どのように生まれたのですか?(Dさん、12歳・地球人)

わかっていません。太陽の10倍程度の重さのブラックホール(恒星質量ブラックホールという)のできかたはほぼわかっているのですが、天の川銀河の中心にあるブラックホールは太陽の400万倍もの重さがあるからです。恒星質量ブラックホールが多数合体してできるしかないと考えている研究者が多いのですが、太陽の100倍の重さのブラックホールだとしても4万個が合体しなければならず、順次合体しているなら、成長途中の重さのブラックホールが見つかるはずなのですが、まだ見つかっていないのです。

ブラックホールは、中心以外にもあると思われますが、その辺も詳しくお教えいただけませんか?(Sさん、70代・大人)

前の人の質問への回答と重なりますが、恒星質量ブラックホールは天の川銀河のあちこちで見つかっています。それらは周囲にできているガス円盤(降着円盤という)が放つ光により変光星、特にX線で輝く変光星として捉えられています(むしろ、こちらの方が先に見つかっています)。初期に発見された有名なブラックホールには、はくちょう座X-3や さそり座X-1などがあります。

天の川銀河の研究において日本の学者さんが多いということでしたが、それは天文学先進国という風に考えていいのでしょうか?その場合、機材が良いのか?日本が星の観察がやりやすいという事ででしょうか?(Y.Mさん、50代・男性)

日本は天文学研究の先進国の1つです。雨が多い土地柄なので観測には向いていませんが、明治以降、熱心に研究が進められてきたのが大きな理由です(天文学が盛んなのは先進国の明かしと理解されていたため)。学術研究には証拠となる実験や観測の結果と、それを解釈できる理論モデルの両方の進歩が必要で、日本ではそのどちらもそろっているからですが、世界一流の観測装置ができてきたのは1980年代以降です。ほかの学問分野もそうですが、この状況を失ってしまうと先進国から転落する危険も否定できません。

天の川のまわりにある雲のようにみえるものの正体は何でしょうか?(M.Sさん、60代・男性)

「まわりにある雲のような」が何を指して言うのかがよくわからないのですが、天の川自体が雲のように光って見えるのは、個々に識別できない無数の星の集まりです。これは望遠鏡で見ると、個々の恒星に分れて見えることで確かめられます(それでも限界はありますが)。望遠鏡で見るとそれ以外にガスが光った天体も見つかります。こちらは星雲と呼ばれます。それ以外に、天の川銀河の近くにある他の銀河も解像度が十分でなければ肉眼で見た天の川と同じく雲のように光って見えます。

日本で天の川をみる場所で、先生のおススメの場所はどこですか?参考までに世界ではどこですか?(K.Aさん、50代・?)

会場でお答えしたように、東京から手軽に行ける場所なら長野県の野辺山高原がお薦めです。基本的に街明かりがない場所ならどこでもきれいに見えるので孤島などがよいかも知れません。夏の方が天の川銀河の中心方向が夜見えるので、お薦めですが、関東地方だと夏は天気が悪いことが多いので冬の方がきれいかもしれません。世界では私が行った範囲だと南米チリの天文台でした。南半球の方が天の川が中天高く昇って見えるのでよいとされています。ニュージーランドなどには星空がきれいに見える土地を観光地として売り出しているので、それらを訪れるツアーに参加するのもいいですね。

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