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インタビュー 「コズミック・ハーモニー 138億年の響き」に込められた想い・制作秘話
令和4年3月2日
令和4年1月8日に公開となったプラネタリウム番組「コズミック・ハーモニー 138億年の響き」。この番組では、「TOMITA information Hub」の全面協力のもと、冨田 勲氏が遺したサラウンド音源を使い、彼が生涯をかけて追求した『音に囲まれた宇宙』を、当館プラネタリウムの映像と音響機器を駆使して表現しました。
「TOMITA information Hub」の代表であり、冨田 勲 氏のご息女である妹尾 理恵 さんにこのプロジェクトに込めた想いなどを、質問形式のメールインタビューで語っていただきました。


妹尾 理恵 さん プロフィール
TOMITA information Hub 代表。酒サムライ・聴き酒オーガナイザー。冨田勲長女。慶應義塾大学卒業と同時に建築家と結婚し夫の仕事を手伝う。子供達の独立後は、国内外の大使館などで日本酒の国際化に向けて数多くの日本酒の会をプロデユース。2007年に日本酒造組合中央会日本酒造青年協議会より第2回「酒サムライ」を叙任。 2019年より聴き酒オーガナイザーとして月に一度、ラジオ番組「SOUND OF OASIS~COOL SAKE~」を通して日本酒と音楽のマリアージュ「聴き酒文化」を発信中。又、冨田勲の遺志を継いで、小児病院の子供たちへ音楽の楽しさを届けるなど、NPO活動に協力している。
インタビュー
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【 Q 1 】
冨田 勲 氏のサラウンド音源をプラネタリウム番組でとお考えになられた経緯について教えてください。
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【 A 1 】
亡き父はプラネタリウムが大好きで、自身が制作してきた立体音響(サラウンド)をプラネタリウムで皆さんに聴いてもらいたいとずっと考えていました。プラネタリウムを使ったイベントは何回かありましたが、正規のプログラムになることはありませんでした。いつも私を誘って色々なプラネタリウムに行き構想を練っていたようでした。亡くなる一か月前にも「プラネタリウムに行こう」と私に言ってきたのに「また今度ね」とやめてしまったことをずっと悔やんでいました。
亡くなって数か月後 スカイツリーでお食事後そんなことを思い出して「プラネタリウム天空」に行ったところ 偶然葉加瀬太郎さんのプログラムで冨田勲をオマージュした楽曲を演奏なさっていて、感激してすぐに知り合いを通して番組制作をなさっている会社さんに連絡させていただいたのが最初のきっかけです。
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【 Q 2 】
冨田 勲 氏の音楽を当館プラネタリウム番組でとご提案くださり、今回のコラボレーションが実現しました。数あるプラネタリウムの中で当館を選ばれた理由がありましたら教えてください。
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【 A 2 】
父の叶わなかった夢についてそのプラネタリウム番組制作会社さんに色々お話していた中で、葛飾区郷土と天文の博物館の担当者をご紹介いただくことになりました。
私も直感で父の想いを表現していただけるのではないかと思い都内のコンサートホールを貸し切り スピーカーを持ち込んで理想的なサラウンドで父の音楽を聞いていただきました。その時にカノンさんに生で「青い地球は誰のもの」も歌っていただきました。
後日 葛飾区郷土と天文の博物館のプラネタリウムをご案内いただき映像はもちろん音響の良さに驚きました。
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【 Q 3 】
冨田 勲 氏が生涯をかけ探求したサラウンド(立体音響)による音場表現ですが、サラウンドについてご家族とは普段どのようなお話をされていましたか?
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【 A 3 】
よく父は「自然界では鳥の声や川の音とか色々な方向から聞こえてきて正面がないでしょ?だから僕の音楽も正面がないように作っているんだよ。」と話していました。「宇宙にも正面がない」から360度の音と映像に囲まれたプラネタリウムに惹かれていたのでしょう。
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【 Q 4 】
冨田 勲 氏は、宇宙へどのくらいご関心をお寄せだったのでしょうか?具体的なエピソードなどがもしもあれば教えてください。
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【 A 4 】
父はロケット開発の父とよばれる糸川英夫博士を子供の頃から尊敬していて、科学者になりたかったほど少年時代から宇宙に対する想いは並々ならぬものがありました。私や孫やひ孫たちに音楽の話をすることはあまりなかったのですが、いつも宇宙や自然界の面白い話をしてくれました。
電波天文台で採取した「獅子座AD星」や「乙女座W星」などの星の光度変化を波派にしてシンセサイザーの音源に置き換えたり、夜が白々と明ける頃の地球周囲の天界で奏でられる「ドーン・コーラス(暁の合唱)」等を楽曲に取り入れたりしていました。
1984年オーストリアのドナウ川での「マインド・オブ・ユニバース」をはじめとし、その後のニューヨークのハドソン川、シドニー湾、岐阜長良川での野外コンサートはいつも「宇宙」がテーマで、偉大な神々の創造した壮大な宇宙への想いを音楽で表現して、世界中、そして広く宇宙全体の人々達のより一層のコミニュケーションができる架け橋となることを願っていました。https://www.isaotomita.jp/information/15(外部サイトが開きます)
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【 Q 5 】
番組中、シンガーソングライターのカノンさんが歌われる「青い地球は誰のもの2020(作曲・冨田 勲 氏)」は、この番組のために新しく編曲されたそうですね。編曲されるにあたってのイメージなどがありましたら教えてください。
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【 A 5 】
「青い地球は誰のもの」は1970年からNHKで放送された日本の未来を考える大型番組「70年代われらの世界」のテーマ曲で父が大変気に入っていました。父のコンサートの最後には子供達が大勢舞台に上がってこの歌を歌っていました。父は常に子供たちに寄り添い子供たちの未来について音楽を通して発信していました。
今回はカノンさんに空から女神さまが私達地球人に語り掛けるように歌っていただきました。
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【 Q 6 】
番組をご覧になられたご感想をお願いします。
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【 A 6 】
父のやりたかった事とはこういうことだったのか・・と大変感動しました。今回のプログラムが日本中、世界中のプラネタリウムで流れることを期待します。冨田勲のサラウンド音源はまだまだ沢山ありますので他の楽曲でも新しいプログラムを制作していただけたら嬉しいです(笑)
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【 Q 7 】
番組をこれから観る人に何か伝えたいメッセージはありますか?
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【 A 7 】
冨田サウンドは50年前から時間をかけ大変な苦労をしてアナログシンセサイザーを使って 一つ一つの音を多重録音していくことによって完成しています。 父がコツコツ作り上げてきた音が、やっと音響環境の技術が追いつき、理想としてきたことがプラネタリウムでは完璧に表現されています。 父が作り上げてきた近い音や遠い音の音場演出によって音の遠近感を出している冨田サウンドと、最新の素晴らしいプラネタリウムとの映像との時空を超えたコラボレーションを楽しんでいただけましたら、 父も宇宙のかなたで喜んでいると思います。
インタビューを終えて
妹尾 理恵さん、貴重なお話をありがとうございました。
偶然訪れたプラネタリウムでの運命的な出来事がきっかけとなり、お父上である冨田 勲 氏の構想が時を経て実現したのが、この番組なのですね。
冨田 勲 氏は、科学者並みに宇宙の知識をお持ちだったようです。360度の音と映像に囲まれたプラネタリウムは、常に音楽で宇宙を表現しようとしていた冨田 勲 氏の世界、サラウンド音源を楽しむ絶好の場所というわけですね。
お話にあるオーストリアのドナウ川での壮大なスケールのイベント「マインド・オブ・ユニバース」が、今から50年も前に催されていたことには驚きを隠せません。写真や図解を見て想像しただけでもワクワクします。
また冨田 勲 氏と言えば、シンセサイザーを初めて輸入した日本人としても有名で、そのエピソードは伝説として語り継がれています。その道を極め、偉業を成し遂げた人の作品は時を経ても色褪せることはなく、驚きのエピソードも色々ありそうです。もっともっと知りたい気持ちが湧いてきました。
妹尾 理恵 さんは、お父上の音楽に関するお仕事などの他、日本酒を国際的に広める活動をされ独自の道を切り拓かれています。「極める」というところも継承されているのですね。
上映は、令和4年3月15日までの土・日・祝日は午後1時と4時、平日は午後4時です。3月26日からは土曜日午後7時の回で上映します(終了日未定)。詳しくは上映スケジュールをご覧ください。
相互インタビュー
「TOMITA information Hub」のウェブサイトには、当館番組制作担当者へのインタビューが掲載されています。ぜひ併せてご覧ください。
インタビュー「コズミック・ハーモニー 138億年の響き」に込められた想い・制作秘話(外部サイトが開きます)
インタビュアー:博物館専門調査員(情報担当)